text:鉄道ホビダス編集部
「トンネルの中の駅」と聞いて、皆様はどういう駅を想像しますか? 多く方は都市部にある地下鉄の駅を思い浮かべるでしょう。ですが、日本には地下鉄のトンネルではなく、山岳トンネルの奥地にホームがある駅も存在します。
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■「モグラ駅」として有名な土合(どあい)駅
上越線で高崎駅から下っていった際、群馬県で最後の駅となる土合駅。この先に県境があり、隣の土樽駅からは新潟県という通称「上越国境」の区間に土合駅はあります。周囲には勾配を緩くするために設けられるループ線や、国内でも屈指の長さを誇る清水トンネル・新清水トンネル等に挟まれています。駅の前には谷川岳がそびえ、山開きシーズンが到来すると夜行臨時特急「谷川岳山開き号」が運転されるように、登山口駅としての役割もあります。
とはいえ、何よりインパクトが大きいのが下りホームでしょう。見渡す限りの暗闇で、出口へはなんと486段もの階段を登らなければならないという奇妙な造りの駅。もちろんエスカレーターやエレベーターの類はなく、自らの足で登らなければ出口には辿り着けません。
486段の階段はおよそ10分とされており、地上にある駅舎との標高差はなんと70m。ある種、この駅から登山は始まっていると言っても過言ではないほどです。
そんなトンネル内のホームが有名な土合駅ですが、実はトンネルの中にホームがあるのは下り線だけで、上り線は至って普通(とはいえ山奥ではありますが)の地上ホームです。というのも、土合駅開業当時は現在の上りホームのみが存在していました。
上越線の開業は1931年。その5年後の1936年、土合駅は信号場から昇格する形で開業します。当時の上越線は単線で、現在の上りホームだけが存在していました。
戦後、輸送量が増加し、南北を貫く大動脈の一つであった上越線の複線化が望まれるようになります。その際、従来の線路を上り線専用とし、新たに湯檜曽〜土合〜土樽間を直線的に貫く新清水トンネルを建設。これを下り線としました。その際土合駅はトンネルの奥深くに設けられることとなり、このような奇妙な造りとなりました。
■外とは別世界のトンネル駅
一度でも降りた人ならお分かりかと思いますが、降りてみるとその気温の低さに驚かされます。筆者は夏場に訪れたことしかありませんが、外気がいくら高かろうともこのトンネル内ではひんやりを通り越した寒さを感じます。これは地下鉄の駅では体験できないもので、文字通り山の中にある駅なことを思い知らされます。
駅ホームのディテールはまさしく「トンネル内」そのもので、上り・下り方面を見ても信号機の灯りしか見えません。それもそのはず、土合駅下りホームがある新清水トンネルは、長さが約13.5kmもあり、出口が見えることはありません。
■現在ではカフェの開業も
1985年に無人化されましたが、近年かつての駅事務室を改装したカフェがオープンしたほか、駅前にもカフェが開業しました。元々特殊な造りをした駅ということで地元や登山客、レイル・ファンの間では有名でしたが、近頃ではSNSなどでその存在がより広く知られることとなり、「駅に行くこと自体が目的」とする旅客も今後より増えていくように思います。
一度訪れたら忘れられないインパクトを持った土合駅。今は雪が残る時期に当たりますが、春の芽吹きが近い大自然を感じに訪れてみるというのも、案外悪くないかもしれません。