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【音鉄】ファンを魅了!録音専用列車も運転 消えゆく電車の「音」

2024.01.31

text:鉄道ホビダス編集部

 

▲録音専用列車として、常磐線に里帰りした209系1000番代。

‘24.1.28 常磐線 日暮里 P:大森瑛人
(鉄道投稿情報局より)

 「音」の記録というのは、時として映像や写真とはまた違う記憶を掘り起こしてくれます。幼い頃に聞いた夕方のチャイム、青春時代に聴いた音楽、故郷を思い出すカエルの鳴き声など、「音」と「記憶」というのは密接に繋がっています。鉄道においても、「音鉄(おとてつ)」とも称される音を楽しむファンが数多くいます。

【写真】音に魅了されて…VVVFインバータを搭載した車両たち

■車両の音から発車メロディー、構内放送まで

 ひとことに「音鉄」と言えども、その活動範囲は人それぞれ。車両の音一つとっても、近年のVVVFインバータ制御の音から、昔ながらの抵抗制御、吊り掛け駆動の車両の音、SLの力強い音など、車両によって出る音は当然ながら異なります。もちろん鉄道の音は車両から出るだけではありません。駅の構内放送や車内放送、さらに発車メロディーを研究する層から、走行音でもレールの繋ぎ目を通る時に発生する「ジョイント音」が特に好きという方まで、その趣味の奥深さは計り知れません。

■消えゆく電車の「音」

 先述しましたが、近年の電車では「VVVFインバータ」と呼ばれる装置により、車両のモーターの回転数を制御しています。このVVVFインバータからは独特の音が発せられますが、この音にはコアなファンが多くいます。
 特に、VVVFインバータが普及し始めた黎明期である1980年代末から1990年代末頃まで主流だった「GTO素子」と呼ばれる半導体素子を使用したものは、起動時に大きい音を発生する傾向にありました。近年のVVVFインバータは高性能化が進み、うるさかった音も人間の耳には聞こえにくいレベルの周波数にできたことで低騒音になりました。

 一般的には静かな方がいい電車の音ですが、「音鉄」の方たちはこのGTO素子を採用したインバータ音に魅了されていきます。その理由は、爆音とも言える力強い音や、メーカーによる音の差異がよりハッキリしていたことも挙げられるでしょう。「日立はこう、東芝はこう、東洋はこう、三菱はこう…」のように、音にも傾向がありました。また、同じメーカーのインバータであっても、音には製造時期による差異や、採用した車両・鉄道会社による差異もあり、一度ハマると抜け出せない底の深さがあります。

 そんなGTO素子のインバータは、近年より低騒音な近年のインバータに更新・換装される事例が増えつつあります。音階を奏でることで有名だった京急1000形・2100形やJR東日本E501系で聴けたGTO素子の「ドレミファインバータ」が消えた理由もこれで、更新改造によりインバータ装置が変更。歌うことはなくなってしまいました。

 こうした差異や特徴が現代のインバータに全くないというわけではありませんが、音が小さくなったことで違いが出にくくなったというところはあるでしょう。

■力強い「GTOサウンド」を楽しむ専用列車

 そんな「GTOサウンド」を楽しむ専用の列車というのも近年運行されるようになりました。先日は、製造当時からのGTO素子のインバータを今なお使い続けているJR東日本の209系1000番代を使用した録音専用列車が常磐線で運行。この列車自体は団体列車として、イベントに申し込むことで参加ができましたが、これに数多くのレイル・ファンがこの音を録りに参加・乗車しました。
 一部のモーター車を録音専用車両として機材設置後は完全立ち入り禁止とし、環境を確保。運転も「音」にこだわった加減速に、トップスピードもしっかり出して、高速域のモーターの唸り音も楽しむことができるというものでした。

 「音」というのは形がなく、保存するのも難しい存在です。しかし、そんな音から感じられる当時の空気感や記憶、思い出というのは非常に大きいです。希少になりつつある電車の音を10年、20年後改めて聴いた時、何を感じることができるのか、少し楽しみにも思います。

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