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特集・コラム

鉄道YouTuber西上いつきさん「オオカミが電車を運転するだけのマンガ」鉄道描写の凄さを語る!

2023.12.23

guest:西上いつき
聞き手:RMM
photo:羽田 洋

 元名古屋鉄道の運転士で、現在は鉄道動画を発信するYouTuberでもありつつ、銚子電鉄で運転士としても活躍する西上いつきさん。今回、そんな西上さんに「オオカミが電車を運転するだけのマンガ」の作品の魅力を、現役運転士というリアルな視点から語っていただきました!(RM MODELS編集部)。

【写真】西上いつきさんインタビューの様子はこちら!

RMM:まずは西上さんの簡単な経歴を教えていただきたいのですが、元々は名鉄の運転士をされていたということですよね?

西上:そうですね。名古屋鉄道ではまず車掌、そして指令所を経て運転士になったんですけど、実は最初は事務系、総合職で入社しておりまして、本当は運転士になる予定はなかったんです。

RMM:まずは入社することに専念して、そこから鉄道部門を目指したということですか?

西上:そうですね、最初から趣味の「鉄道が大好きです!」とアピールして「マニアはダメだ」と外されてしまうことを恐れて、あえて「不動産に興味があります!」「街づくりがしたいです!」とアピールしたんです。

RMM:それまでは「鉄道が好き」というのは伏せていたんですか?

西上:チョロチョロと出してはいたんですが、だんだん隠しきれなくなってしまい、周囲からは「えっ!」と驚かれたり「やっぱりな」と言われたりしました。

RMM:銚子電鉄で再び運転士をされたのはいつ頃からでしょうか?

西上:まだ1年経ってないですね。予備運転士なのでそこから数えるほどしか運転していません。月に2〜3回のペースなので…。

RMM:ただ安全に輸送するという気構えは、大手・中小私鉄関係なく同じですよね。

西上:そうですね。まずは安全、そして定時運行に対する気構えに変わりはありませんが、安全という面では銚子電鉄の方が一層重く感じるようになりました。もちろん名鉄時代に無理な運転をしていたわけではないのですが、車両も60年選手なので遅延での回復運転など無理な運転は避けるべきですし、定時運行も大切なのですが、まずは安全・慎重に運転することに重きを置いています。

RMM:作中でも鉄道輸送の安全意識について取り上げている場面が多いかと思いますが、作品をご覧になられて感じたことはありますか?

西上:「オオカミのマンガ」と思って侮るなかれ、描かれている情景描写はあまりにもリアルで、私も運転士として勤務していた当時を生々しく(褒め言葉です)思い出しました。作中で登場する専門用語は当然すばらしいのはいうまでもなく、らつたさんのご取材の賜物であると思います。加えて、その会話の節々に使われているワードチョイス(背面添乗ぬきうち、お宮参り)など、いかにも乗務員・鉄道員が使うような言い回しが現実味を醸し出していますね。

RMM:そうでないと描けないディテールや用語も多いので、取材力の高さは私も見習わなければいけませんね(笑)。そんな中で特に印象に残ったストーリーはございますか?

▲鉄道マンしかわからないその場の空気感や心境を的確に描写。 単行本内「オオカミが運転士を志した日のマンガ」より

西上:夜に添乗した際、主人公の大神くんが運転士になろうと志した回(「オオカミが電車運転士を志した日のマンガ」)ですかね。言葉では表現しにくい運転士の業をうまく描いてますよね。やっぱり車掌さん駅員さんの時と比べて、見える世界が変わるというのは私も経験しましたね。私の場合、最初から運転士になりたいと志していましたけど、それこそそんな心境をどうやって取材したんだろうと(笑)、非常によく表現できていると思います。

RMM:そのほか運転士、鉄道マンだからこそ共感できたシーンとかはありますか?

西上:運転士の仕事で言えば、テーマ・ポリシーの描き方に共感しました。報告(ヒヤリボイス)を怠ったことへの罪悪感、ひいては安全という理念への背徳を感じるところや(「オオカミが電車を車庫に入れて出すだけのマンガ」)、先ほどの運転士を志したシーン(「オオカミが電車運転士を志した日のマンガ」)での、言葉はなくとも運転席に広がる世界で運転士になることを決めた箇所などは、きっと経験がないとわからないシーンですよね。特に言葉にせずともオオカミたちの表情でそれを感じさせる表現は素晴らしいと思います。
 それと特発のシーン(「オオカミが電車をくっつけたり止めたりするだけのマンガ」)は、一瞬の戸惑いから公衆発見した後、自身の思考より先に非常ブレーキを思わず入れるところは、運転士が異常時に直面した際に求められる瞬発性の部分とも言えるところでしょう。ここは実際の事例でも争点になるようなところで、1秒のブレーキ判断の遅れで結果が変わる世界です。「40m手前」というセリフからも、少し判断が遅れていたら大惨事だったかもしれません。そんな大神くんの咄嗟の判断と急病人への対応シーンは緊迫感がありましたし、実際に私が異常時対応したときを思い出しました。焦りの中にも冷静に車掌へ状況を伝えて対処できるあたりは、運転士としてのリーダーシップが垣間見れ、現実性の高さも含めてかなりの名シーンですね。

RMM:それでは最後の質問となりますが、今後の続編でぜひ描いてもらいたいテーマやストーリーはございますか?

西上:意外なところだと構内運転士なんてどうでしょう?車庫から引き揚げたりする様子とか見てみたいですね。 ほかにも保線の話とか車両整備の話とか、業界としても一般の方に鉄道の仕事をもっと知ってもらいたいですね。運転士もそうですが技術系の職種も人材が不足してきているので、マンガという形で鉄道の色々な仕事を知ってもらえると良いですよね。鉄道現場でも技術とかは教本で学ぶことができますが、鉄道マンとしての精神やポリシーなどはなかなか伝えにくい部分でもあるので、このようなマンガでそれが学べるようになると、現場でもきっと重宝されますよ(笑)。 

RMM:これは続編が楽しみですね〜!西上さんがオオカミになって登場してくる回なんてのもアリですね!

西上:それは今後の企画でやりたいですね(笑)

RMM:今回はどうもありがとうございました!

【動画】「オオカミが電車を運転するだけのマンガ」作者 らつたさんと西上いつきさんの動画対談が実現!
後半には西上さんにサプライズプレゼントも…?

 


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