text & photo:瀧口宜慎(RMM)
鉄道ホビダス上で何回かにわたり、日本の官営鉄道の電化黎明期の電気機関車であるED18、ED19の話をしてきましたが、改めて官営鉄道の電化明期にはどんな電気機関車がいたのでしょう。ここでいう輸入電気機関車というのは、東海道本線・横須賀線電化用に1922(大正11)年にアメリカ・イギリス・ドイツ・スイスからやってきたもので、その数は14形式にのぼります。各国からの機関車を実用しつつ、電気機関車の国産化へ向け比較検討し、その道筋をつけていったのです。ここではそんな官営鉄道電化黎明期の電気機関車をここではおさらいしてみます。
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■1000形(ED10形)
アメリカ、ウエスティングハウス・エレクトリック社が電気部分、ボールドウィン社が機械部分を製造担当した機関車で、1925(大正14)年に輸入されました。全長12,080mm、重量61.1t、定格出力は820kw。山手線、中央線で運用された後、横須賀線へ転用され1959(昭和34)年まで活躍し廃車に。2号機のみが西武鉄道へ払い下げられ、E71形となって1986年まで活躍しました。引退後は西武鉄道横瀬車両基地保存されています。
■1010形(ED11形)
アメリカ、ゼネラル・エレクトリックで製造され、東海道本線電化に先立ち1923年に輸入された機関車がこの1010形(ED11形)です。全長11,275mm、重量59.6tで定格出力975kw。側面の田の字型の窓はゼネラル・エレクトリックの特徴と言え、後に輸入されたED14と共通しています。東海道線、横須賀線、伊東線での活躍の後に、1号機が1960(昭和35)年に西武鉄道に払い下げられE61形として1986年まで活躍。こちらも現在は横瀬車両基地で保存されています。また2号機は本線引退後、国鉄浜松工場で入換機として使用され、こちらはリニア・鉄道館にて保存されています。
■1020形(ED12形)
スイスのブラウン・ボベリ社が電気部分を、シュリーレン社が機械部分を担当した機関車で、1923(大正12)年に輸入されました。車体は箱型であるものの、角を面取りした八角形をしておるのが特徴です。全長12920mm、自重59.22t、定格出力875kwで、本線用の電気機関車としては唯一のスイス製。精密機械を得意とする工業国でもあるスイスが作り出した機関車だけに、優秀な設計で性能は安定したといいますが、反面、機器が繊細過ぎたため、高精度での補修が求められ性能を維持していくのは苦労が付きまとったのだとか。
1949(昭和24)年に西武鉄道に払い下げられ、E51形51・52として貨物輸送に活躍。E52が1987年に引退し、現在は横瀬車両基地で保存されています。
■1030・1040・6000・形((ED13・ED50・ED51・ED52)
1923(大正12)年~1925(大正14)年にかけて、イギリスはイングリッシュ・エレクトリック社で製造された電気機関車4形式(ED13・ED50・ED51・ED52)がこれにあたります。後に歯車比を変更し、最終的にイングリッシュ・エレクトリック社の電気機関車はED17へと改番されました。このうち3両が更に改造されED18となった。
■1060形(ED14)
1926年にアメリカ、ゼネラル・エレクトリック社で製造された機関車。全長11,200mm、自重59.97t、定格出力975kw。東海道本線の貨物列車を皮切りに、中央本線、飯田線、仙山線と転属。1960(昭和35)年に近江鉄道に払い下げられ(一部は西武鉄道経由)、貨物輸送に従事したが2004年に廃車。その後も彦根駅構内の近江鉄道ミュージアムで展示保存されていましたが、同館の閉鎖により残念ながら解体されてしまいました。
■6010形(ED53=ED19)
アメリカ、ウェスティングハウス社(電気部分担当)、ボールドウィン社(機械部分担当)で1926(大正15)年に製造されました。全長12,500mm、自重68.32t、定格出力210kw×4基。東海道本線での旅客列車の牽引にあたりました。1937(昭和12)年から1940(昭和15)年に相次いで仙山線、中央線へ転出。この時ED53からED19へ改造・改番されています。昭和30年代に飯田線北部に全機投入され1975年まで活躍しました。
さて、ここまで日本の電化黎明期の電気機関車ざっくりとおさらいしましたが、電気機関車は主電動機の出力が大きく、新規製造は非常に高価だったこと、この時代に作られた電気機関車が丈夫だったこと、いずれも小さいD級機で小回りの利く機関車で手ごろだったことなどもあって、戦後間もなくに多くが私鉄へ引き取られて行きました。国鉄内部で活路を見いだせたED18・ED19以外は全て後年は私鉄で活躍し、鉄道貨物が縮小され改革された1986年頃までに引退をしていますが、とはいえその多くが近年まで見ることができたのはこれもまた、日本の近代鉄道の基礎を支えた機関車だったからでしょう。
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■鉄道車輌ディテール・ファイル 愛蔵版002 飯田線のED18・ED19
旧型国電の動く博物館と呼ばれた飯田線では、国電の陰に隠れながらも、もう一つの古豪たちの最後の活躍の場でした。それは貨物列車の輸送を担った電気機関車で、特に天竜峡から辰野までの飯田線北部区間では軸重の重い大型の電気機関車が入線することは長い間できなかったのです。
本書は『鉄道車輌ディテール・ファイル』の「006 飯田線のED18」(2010年1月発売)と「008 飯田線のED19」(2010年4月発売)を一つの本として、新規カラーページも加え再編集したものです。イギリス製とアメリカ製の2形式全機の在りし日の姿を振り返るとともに、模型化心をくすぐられる2形式の製作向け資料として機能するように編集した内容です。
価格:2,530円(税込)