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自宅で鉄道運転を疑似体験!リアル「手作り運転台」実現までの道のりとは

2023.11.20

聞き手・写真:上石知足(鉄道ホビダス)

 「部屋に入ると、そこには運転台があった。」

 とても信じられない光景ですが、自宅の部屋に鉄道車両の運転台に加え、車掌体験もできる車掌台を再現してしまった方がいます。今回取材させていただいたのは元鉄道運転士として、現在YouTubeを中心に活動されている「でんちょく」さん。この運転台を自宅に作った経緯をお伺いしてみると、そこにはでんちょくさんが持つ信念と情熱が注ぎ込まれていました。

【写真】自宅に運転台!?夢の鉄道シミュレーターを見る!

■幼い頃から志していた鉄道運転士

▲でんちょくさんの自宅に設けられた運転台。実際の操作感を忠実に再現している。

鉄道ホビダス(以下鉄ホビ):それでは自己紹介をお願いします。

でんちょくさん(以下でんちょく):こんにちは、でんちょくと申します。年齢は27歳で、昨年まで運転士をしていましたが、現在はYouTube活動に力を入れています。名前の由来は実際運転はできなかったのですが、「電磁直通ブレーキの車両を運転したかった」というところからから「でんちょく」という名前で活動しています。また、活動の中で後述する「もぎてつ」というジャンルを提唱しています。

鉄ホビ:鉄道運転士を志したきっかけは何でしたか?

でんちょく:幼い頃、「しゅっぱつしんこう」という絵本を見て感銘を受けたのがきっかけでしょうか。また、工作で父に運転台を作ってもらったり、運転席の後ろにかぶりつくように見ていた上、5歳の頃にゲームの「電車でGO!」出会い、着実に運転に対する興味を積み重ねてきました。一時は役者を志望して上京し、当時始めた駅員バイトを通じて鉄道員の大変さを知ることになりました。ただ、東京に来ていろいろな経験を積んだ上で「自分の調子が悪い時でも楽しく取り組める」のが鉄道関係だったことに気が付き、改めて運転士になろうと思いました。また、この頃から鉄道運転士の経験を生かしてすごくリアルなシミュレーターを作りたいという野望もできました。

■「本物感」と「メンテナンス性」を両立

▲こだわり抜いた自作のワンハンドルマスコン。

鉄ホビ:運転台のこだわりポイントやアピールポイントがあればお願いします。

でんちょく:こだわっているのは、「本物の運転体験」を追求するというところでしょうか。マスコンの造形も、触り心地を突き詰めた結果、自然と形もリアルになっていきました。実際運転している時に手元は見ませんが、触った時に違和感があってはいけません。そのためには見た目を完全再現するしかないと思いました。さらにボタンの位置や操作感など、手で触れられる箇所は実寸大とすることにもこだわっており、プロの運転士が触っても違和感のないリアルな仕上がりを実現しました。また、完成で終わりではなく、実際に使い始めた後のメンテナンス面も考慮して造形しています。

鉄ホビ:運転できる鉄道シミュレーターのソフトはどのようなものに対応していますか?

でんちょく:シミュレーターのソフトは「BVE Trainsim」という、有志で公開されているフリーの鉄道運転シミュレーターを使用しています。実際にこうして運転台を製作する際、このBVEというソフトを開発したmackoy氏にもご挨拶に伺い、さらには路線・車両データなども自分たちのチームで製作したものを使用しています。

■「リアルな緊張感」を持てるシミュレーターを作りたい

鉄ホビ:部屋に運転台を作ったのはいつ頃からなのでしょうか?

でんちょく:実は幼稚園〜小学生の頃からダンボール製の手作り運転台を作っていましたが、現在のような3D製のものは、2017年頃に3Dプリンタが安く出回ってから始めました。当時は知り合いのデータをもらって印刷をしていましたが、気がついたら自分も作っていました。また、市販品を使っていた頃もありましたが、やはりそれでは満足ができずに自作してしまった、というところでしょうか。幼い頃から運転台を作ってきたので、今も昔も材質が変わっただけでやっていることは一貫していると思っています(笑)。

鉄ホビ:なるほど、そんなシミュレーター自体はどのような意図で作られたのでしょうか?

でんちょく:これは信念にもなるのですが、運転士一人でのプレイが定石だった鉄道シミュレーターで、車掌役や駅員役などを交えて、連携プレイをできるようにしたいとずっと思っていました。その理由は「リアルな緊張感」といいますか、他のプレーヤーが関わることで生まれる緊張感を通じて、鉄道員の仕事を体感してもらいたいと思っています。日々の安全運行を支えているのは人間の力なのに、そこがあまり評価されない現状を、こうしたリアルなシミュレーターを通じ、エンターテイメントとして楽しみながら鉄道員に対する意識が向上すればと思っています。これが私の提唱する「もぎてつ」というジャンルの軸になっているものです。

鉄ホビ:この体験を通じて鉄道員の仕事への理解が深まると良いですね。

でんちょく:日々鉄道の技術は進化していますが、最終的には人であることは変わりません。運転士とは車両を運転するだけの仕事ではなく、安全を確保し、何かあったときには列車を止める判断ができるのが運転士の仕事に思います。それをこのシミュレーターを通じて伝えられたらと思っています。

鉄ホビ:最後に、今後考えている展開などがあればお願いします。

でんちょく:私自身は、現状みなさんが思っている「鉄道シミュレーター」の見方を変えていけたらなと思っています。また、将来は「シミュレーターバー」みたいなものを開いて、往年の食堂車のメニューを楽しみながら、シミュレーターの運転や車窓を楽しめる交流の場を作れたら…なんて思っていたりします(笑)。

 今までのものとは違ったアプローチで「鉄道シミュレーター」というものに向き合い、情熱を注ぐでんちょくさん。今後の進化にも目が離せません。

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