RM LIBRARY編集部
2023(令和5)年現在、電気機関車(以下「電機」)を保有している私鉄(専用線を除く)は13社。今から30年前の1993(平成5)年時点では30社ありましたので、年々減り続けていることが分かります。国内貨物輸送の主役が鉄道からトラックに代わって久しく、輸送の骨格となるJRも拠点間直行の貨物に注力せざるを得ない現在、私鉄線の貨物離れが進むのもやむを得ない面があります。
ちなみに現在のその電機保有(在籍)私鉄の内訳は、弘南鉄道、上信電鉄、秩父鉄道、伊豆箱根鉄道、大井川鐵道、遠州鉄道、名古屋鉄道、黒部峡谷鉄道、富山地方鉄道、北陸鉄道、えちぜん鉄道、福井鉄道、三岐鉄道の13社。しかしそのうち現在でも貨物営業が盛業中のところは秩父、黒部峡谷、三岐のわずか3社のみで、港湾への輸送を受け持つ臨海鉄道など現存する貨物鉄道の大半が非電化ということもあって、「私鉄の貨物用電機」はもはや希少な存在です。
▲思いのほかカラフルな私鉄用電気機関車(1993年以降に在籍であったもの)。一部は車籍がなくなっても静態保存機として現存するものもある。
出典:RM LIBRARY 280巻『私鉄電気機関車の変遷(上)』
貨物用のほか旅客列車用に電機を保有しているところとしては、先述の黒部峡谷鉄道のほか大井川鐵道も含まれます。それでは残りの9社はどのような目的で電気機関車を保有しているのでしょうか。
▲貨物輸送用の電気機関車が活躍する鉄道としては、西の三岐鉄道と並んで代表的存在である東の秩父鉄道。
2017.8.5 秩父鉄道三輪鉱業所 P:寺田裕一
まず挙げられるのは、雪国における「除雪用機関車」としての役割です。先の9社のうち、弘南鉄道・富山地方鉄道・北陸鉄道・えちぜん鉄道・福井鉄道といった東北・北陸の鉄道5社が除雪用途を考慮して機関車を配置しています。弘南鉄道のように本格的なラッセル車を連結、推進運転するところもありますが、それ以外は先頭部に巨大なスノープラウを装着し、機関車自らで雪を跳ね除けます。
▲前後にスノープラウを装着、石川線の除雪用として使われる北陸鉄道ED201。
2010.9.20 鶴来 P:寺田裕一
それ以外の4社は、車両入換用や保線列車牽引を主任務とするものが中心となります。もちろん先述の除雪用に使われるものも、除雪時以外は車両入換などを兼務することもありますので、入換や保線用の機関車需要というものはまだまだなくなっていません。中には、名古屋鉄道のEL120形のように、2015(平成27)年になって電機を新製した例もあります。
平成末期に新製された名鉄EL120形。JR貨物のEH800形に似たスマートなデザインで、私鉄電気機関車のイメージを一新した。
2015.2.15 舞木検査場 P:RM
また私鉄電機は実用の用途以外にもそれぞれの鉄道会社の歴史的シンボルとして、時にはイベント運転や車両展示を行うという、保存車両な使われ方をしているものもあります。しかし老朽化や昨今の鉄道会社の経営状況悪化で維持が困難となり、動態保存車の静態保存化や除籍、さらに解体という残念な結果に終わるものも少なくありません。今後もその推移を見守っていきたいものです。
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本書では、1993(平成5)年に在籍およびそれ以降に入線した電気機関車について、その生い立ちと、その後を紹介します。上巻は東日本を中心に16社を紹介、ほかに下巻掲載分を含めた全国の私鉄電気機関車についてのカラーグラフが巻頭に掲載されます。
■著者:寺田 裕一(てらだ ひろかず)
■B5判/56ページ(うち巻頭8頁カラーページ)
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