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特集・コラム

【実は見えない所にも】ヨーロッパを走る日本製の鉄道車両 かつては「実績ほぼゼロ」だった?

2023.10.17

text & photo:橋爪智之

 高品質で性能が良く、信頼性もあるとして、あらゆる日本製品はこれまで世界中で高い評価を得てきました。とりわけ工業製品は日本の得意とする分野で、家電製品や自動車などは世界中で評価されてきた歴史があります。鉄道車両も、日本製の車両は性能も信頼性も高いといわれていますが、その割に海外での販売は振いませんでした。

■ヨーロッパの実績が「ほぼゼロ」だった日本の鉄道

アメリカ各都市向けの地下鉄や郊外電車などで実績はありますが、ヨーロッパともなるとほぼ皆無でした。 理由はいくつか考えられ、まず鉄道車両は他の工業製品と比較しても、突出して国や地域ごとの特殊性が非常に強いです。各国・各地域に特化した車両性能が求められるため、他の国のメーカーが入り込みにくい土壌があることに加え、納入後もきちんとアフターケアをできる環境であることが求められます。これは、例えばアジアとヨーロッパ、アメリカ大陸という大雑把な地域分けの話だけではなく、ヨーロッパの中でも他国のメーカーが製造した車両がきちんと走らずに困ったという事例が、かなりの件数あるということは知っておきたいところです。

 そんな中、近年はメーカーの集約化が進み、各国に根付いた地元メーカーなども次々と大メーカーへ吸収されていきました。その影響もあって、かつては地元メーカーと国鉄の共同開発というのが主流だったものが、メーカー主導の車両開発に切り替えられ、各国へ売り込むというスタイルが一般的となったため、あらためて各メーカーの技術力やアフターサポート体制などが問われるようになったのです。同じ鉄道であっても、ヨーロッパという地域の経験や知識が皆無で、現地工場もなかった昔の日本メーカーは、そこへ入り込む余地などないに等しかったと言えるでしょう。

■海外進出に積極的ではなかった理由は?

 もちろん、技術的な要因だけではありません。メーカーの技術力があれば、無理に市場へ割り込んだとしても、あとはお得意の研究開発能力や販売後のアフターケアなどの面でアドバンテージを得ることができたのではなないでしょうか。ですが、少なくとも20年くらい前までは、日本メーカーがわざわざ海外へ事業展開し、その需要も取り込もうというほど意欲的になる理由はありませんでした。老朽化した車両の代替需要など、日本国内需要だけでも毎年十分な売り上げが見込め、リスクを背負って無理に海外進出を進める必要がなかったのです。さらに言えば、製造拠点が現地にない状態の中で、日本で製造して船で輸送するというのは非効率的でありコストも嵩みます。参入するからには、現地工場の建設は必須とも言えます。

■群を抜いた海外進出を果たした日立、そして…?

▲日立が本格的にヨーロッパへ進出するきっかけになった英国395系車両、通称ジャベリン。

 そうした状況下で、初めてヨーロッパで日本製の車両が大量受注を獲得したのは、言わずと知れた日立製作所製の英国395系近郊型車両(Class395)でしょう。2005年に受注し、2009年から順次、営業運転に投入されました。合計29編成を受注しましたが、全車が山口県下松市の同社笠戸事業所で製造され、船で輸送されました。その後、受注した英国都市間高速鉄道計画(IEP)向け800系(Class800)とその派生型は、最初の数編成分だけを日本側で製造し、その後は新設された英国ニュートン・エイクリフ工場で組み立てられました。英国の工場は製造ではなく、他所で製造された部品の組み立てがメインとなっていました。

 その後、日立は事業を拡大して欧州大陸へ進出、伊アンサルドブレダを買収して現地法人の「日立レールS.p.A.」を設立しました。旧アンサルドブレダは車両製造も行なっていたので、IEP向けの車両の製造も担うことに。2016年にはイタリア鉄道から新型二階建て車両「カラバッジョ」195両を受注、車体や制御装置等に日本の技術を用いるなど、完全な日伊合作の車両となりました。2021年には、英国の高速鉄道計画HS2の車両納入計画を受注するなど、日本の車両メーカーの中では日立製作所の躍進が群を抜いています。

▲ICE2は電機品の更新案件を三菱電機が受注。46編成全車が更新された。 

 だが、目に見える目立つ部分だけではなく、裏で欧州の各鉄道会社を支えている日本メーカーもあります。三菱電機は、いわゆる車体まで含めた車両製造を行なっているわけではありませんが、主に電機品や空調装置などを欧州各国の鉄道会社へ納入した実績を持ちます。例を挙げれば、ドイツ鉄道の高速列車ICE2の機関車402型の制御装置は、三菱電機製IGBTによって更新されており、また、ロンドン地下鉄で活躍する地表線向け車両のS型は、ロンドン地下鉄として初めて搭載された量産型冷房装置に同社製を採用しました。決して目立つ部分ではありませんが、我々の見えない部分でも日本製品が活躍しているということになります。

(『RM MODELS』2022年7月号 Vol.322 連載「世界鉄道」より)

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