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特集・コラム

北欧のLRT「タンペレライトレール」に乗ってわかった宇都宮との「共通点」とは?

2023.09.21

text & photo:永井健太

 フィンランドの首都ヘルシンキに続く都市である「タンペレ」。ここへ2021年、「タンペレライトレール」というLRTが新規開業しました。実際にその経緯を調べてみると、どことなく先日開業したばかりの「宇都宮ライトライン」にも似た共通点が見えてきました。今回は実際に乗車したレポートをもとに、ヨーロッパにおけるLRTを見ていきます。

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■工業都市としての側面を持つ「タンペレ」

 フィンランドの都市であるタンペレは、首都ヘルシンキより北へ160kmほどの位置にあり、ヘルシンキからは現地の高速鉄道で2時間ほどで到着します。タンペレは、日本から絶大な人気を誇る『ムーミン』ゆかりの地としても有名であり、市内には「ムーミン美術館」もあることから、日本人観光客も多く訪れます。
 そんなタンペレですが、元々は工業都市として発展してきた経緯があるため、レンガ造りの工場跡の建物が点在しており、町のアイコン的存在となっています。通信機器メーカーのNokia(ノキア)もかつてここに本社を置いており、現在もフィンランドにおける工業の中心地であることに変わりはありません。

■LRT導入に至るまでの経緯

 タンペレでは20世紀前半からトラム導入を検討していましたが、費用面から計画が一旦は頓挫してしまいます。しかし、21世紀初頭より再度導入が検討され、2016年に正式決定し工事を開始。晴れて2021年8月9日に開業したヨーロッパ最新鋭の新規開業路線となります。 都市部と工業地帯を結ぶ上に、完全新規開業路線というあたりは、先日開業したばかりの宇都宮ライトレールにも似た路線環境とも言えます。

■電車の乗り方は非常に先進的

▲終点では電停とバス停が並列になるので、段差のないシームレスな乗り換えが可能。この点、宇都宮ライトラインのトランジットセンターに類する設備とも言える。

 第1期開業区間は1系統と3系統の2路線(2系統は現在欠番)で、タンペレ大学病院(TAYS)とタンペレ工科大学があるヘルヴァンタ(Hervanta)からの2路線が市内で合流し、タンペレ駅をアンダーパスで通過して反対側の郊外であるサンタラハティ(Santalahti)とソリスクエア (sorin aukio)までの16kmを結ぶ路線です。2025年には湖畔のレンタヴァンニエミ(Lentävänniemi)までの延伸を予定しており、ここもまた延伸計画がある宇都宮と重なります。もちろん既存の交通インフラとの利便性も配慮されており、TAYSの電停はバス停と横並びで、シームレスな乗り換えが可能となります。

 乗車方法はヨーロッパで主流の信用乗車方式となります。また、IT先進国というだけあって、乗車前にスマホのアプリでチケットを購入し、有効な状態にしてから乗車します。しかも購入後2時間は乗り放題となるので、煩わしさがありません。今回フィンランドでは現金を使う場面がほぼなく、すべてクレジットカードかスマホアプリで決済が可能だったため、渡航前の外貨両替の必要性がほぼないという結果になりました。

■車両運用はどうなってるの?

▲車両は自国メーカーのトランステック社が「アーティック」として開発し、2015年以降トランステックがシュコダ トランスポーテーションの子会社シュコダ トランステックに移行したことで、ブランド名も「フォアシティスマート」に変わったもの。タンペレライトレールは3連接車体となる。

 運用される車両は1形式のみで、シュコダ トランステック製の超低床オールフラットの3連接トラムが運行されています。カラーリングは小田急GSE70000形のような深い朱色で、漆塗りのような非常に趣きのあるものです。なお、ヨーロッパのトラムでは日本とは異なり、デルタ線やループ線を使用した折り返し(方向転換)よく見られます。ですが、ここの終点ではそれらを使用せず、ヨーロッパとしては非常に珍しい両運転台を採用し、普通に折り返し運転を行なっています。こうした面からも、どこか日本のLRTと似ているようにも感じます。

 日本とは似て非なるヨーロッパのLRT。両方を比べてみてみることで、日本のLRTにも新たな発見があるかもしれません。

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◆今月の『RM MODELS』特集は「LRTが走る新しい街づくり」!

 かつては多くの主要都市で運行されていた「路面電車」。高度経済成長期のモータリゼーションの影響により多くが廃止され、現在は観光需要のある都市を中心に残存しています。一方で乗降の簡便さや鉄道本来の特徴である運行の正確さという観点から再注目され、「次世代型路面電車(LRT:ライトレールトランジット)」として、世界的に既存路面電車の改修や、新規路線の開業が相次いでいます。

 今回の特集では、奇しくも8月26日に新規開業した宇都宮ライトレールの話題を主軸に、「LRTが走る新たな街づくり」という視点で、コンパクトシティの構成やLRTの運行形態など、国内外のさまざまな実例を詳しく紹介。模型で採り入れるべきポイントや楽しみ方も併せて解説していきます。

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