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特集・コラム

歴史に残る珍品!流線型C53形の「ブリキ製プラレール」があった!?

2023.08.04

text & photo:なゆほ

 60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回は1999年に発売された「ちょっと変わった素材」のプラレールをご紹介。その名の通り、基本的にプラスティックでできているプラレールですが、その長い歴史の中では面白い製品が数多くあります。(編集部)


 「プラレール」はそのブランド名の通り、プラスティック製のレールトイです。1959年の誕生以来、60年以上に渡り、車体とレールは一部部品を除いてプラスチックで作られています。
 しかし、その長い歴史の中にはごく少数ですが「変わった」プラレールがあります。今回はその異色の製品である「ブリキのプラレール」を紹介します。

↓重厚感ある「ブリキのプラレール」詳細写真はこちら↓

▲1999年のプラレール40周年の記念商品として発売された「ブリキのプラレール」

 プラレールが40周年を迎えた1999年。様々なイベントが開催され、記念商品も多く発売されました。プラレールそのもの以外にも食品や雑貨など多岐に渡った記念商品ですが、その第1弾として発売されたのが、この「ブリキのプラレール C53-43号機&マイテ39」です。
 1959年当時はプラスチックが普及してきた時期に当たりますが、他社製品ではまだまだブリキの玩具も多く作られていました。プラレールのメーカーも元々はブリキ玩具を製造しており、世が世ならありえた商品であると言えます。そこで、「もしプラレールがブリキで作られていたら?」というコンセプトで「ブリキのプラレール」が企画されます。曲面造型が容易なブリキの長所を生かして、流線型が特徴的な蒸気機関車「C53形43号機」が題材に選ばれました。

▲ほぼ全てのディテールを印刷で表現しており、往年のブリキ玩具のようなレトロな雰囲気が漂う。

 この「ブリキのプラレール」では、プラスチックの使用は台車と連結器、C53形のスノープラウ、そしてマイテ39の展望室だけに抑えており、実際に手に取るとブリキ特有の重厚感が感じられます。

 モデルとなったC53形43号機は、1934年に起こった世界的な流線型ブームに乗って、通常型のC53形を試験的に改造して誕生した事で知られる有名なナンバーです。翌1935年、この43号機を基にC55形20号機が流線型で新造された話はコアなレイル・ファンなら知るところでしょう。
 スピード感のある流線型の車体は他の蒸気機関車と比べると相当目立つので、花形列車である特急の牽引に優先的に投入されていました。このような特急牽引用として起用されたため、プラレールでも客車は展望車であるマイテ39形のマイテ39 11が選ばれました。

 C53形43号機が完全な形で運用されていたのは戦前で、マイテ39形が前身であるスイテ39形から改造されて誕生したのは戦後になるので、実際にこの組み合わせで走行した事はないと思われますが、戦前の豪華列車の象徴とも言える流線型蒸気機関車と高級な展望車のセットはかなりそれらしい印象を与えてくれます。

▲ダブルルーフが特徴的なマイテ39もブリキを生かした造型で表現されている。展望室はプラ製。

 このマイテ39形もブリキの特製を生かしてダブルルーフと車体裾の絞りを表現しており、展望室だけは柵の表現のためにプラ製パーツという構成になりました。車体をよく見てみると細部のディテールが印刷で施されており、リベットや窓はもちろん、なんと車番を含めた表記類まで再現されているという拘りが見て取れます。
 小さいながら、車体端の帯の先には「形式 マイテ39/自重 46.4t/換算 積 5.0 空 4.5」との標記が読み取る事ができ、その下には「55-9 大宮工」の検査標記まであります。現在では大宮の鉄道博物館に収蔵されているマイテ39 11ですが、「ブリキのプラレール」では青梅鉄道公園に保存されていた時代を模しているようです。マイテ39 11が青梅鉄道公園に搬入されたのは1963年なので、検査表記の「55-9」は1980(昭和55)年9月に園内で大宮工場からの出張修繕が行われた時のものだと思われますが、これは詳しい資料がなく不明です。

 そのほかの拘りが見られるポイントとして、C53形43号機には梅小路に配置されていた事を示す「梅」の札が印刷してあったり、連結器を黒色で統一する事で編成を組んだ際に厳かな印象を損なわないよう配慮されていたりと、メーカー内で企画した人はかなり細部まで作り込みたかったんだろうという気持ちが伝わってきます。

 このように、渾身の40周年記念商品として発売された「ブリキのプラレール」ですが、子供向けのおもちゃから逸脱した題材であることや、ブリキ製となったことでコストも上がり販売価格が少し割高となってしまい、人気はあるもののヒット商品とまでは行かなかったようです。

 今となっては機関車と客車に価値が見出され、プラレール史に残る珍品であることから美品を探し求めている人が少なからずいるようです。6年後の2029年には70周年を迎えるプラレール。再び「ブリキのプラレール」のようなチャレンジ精神に溢れた記念商品の発売に期待したいですね。

↓重厚感ある「ブリキのプラレール」詳細写真はこちら↓

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