ここは広島県の瀬野駅。レイル・ファンであれば「セノハチ」でお馴染みの場所である。ここから隣の八本松駅までの区間は急勾配が連続し、機関車が貨物列車を後押しして乗り越える難所として知られている。この瀬野駅には、背後の小高い山に開かれた住宅地に向けて伸びる「スカイレール」という空中鉄道が接続している。空中鉄道と言っても、鉄骨にぶら下がるロープウェイのようなスタイルで、他では目にすることがないレアな乗物だ。スカイレールとは、一体どのような交通なのか紹介しよう。
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▲終点のみどり中央駅。高台にある駅からは、まるで大空に向かってレールが伸びているようだ。
■日本唯一のシステムを採用した交通機関
スカイレールは、山陽本線のみどり口駅~みどり中央駅を結ぶ1.3kmの交通機関で、途中にみどり中街と言う中間駅が存在する。瀬野駅の背後の丘に造成された「スカイレールタウンみどり坂」という住宅地へのアクセス路線として1998年に開業し、以降20年以上に亘って運行を続けてきたが、電気バスに転換される形で2024年4月末での運行終了が発表されている。
●支持方式は懸垂式モノレール風
一見、ロープウェイのように見えるこのスカイレールだが、端的に言うと、懸垂式モノレールとロープウェイを組み合わせたような構造をしている。まず支持方式を見てみると、鉄骨で作られたレールにタイヤでぶら下がっており、懸垂式モノレールの構造をしている。…と言ってもモノレールっぽくないので、形が近いロープウェイでも例えてみよう。観光地でよく見かける交走式ロープウェイは、ゴンドラを支える太いロープ(支索)と、駆動するロープ(曳索)があるが、この支索が鉄骨となったイメージだ。レールが鉄骨なので風に強く、自由にカーブを描くルートも可能。正にロープウェイの短所を補う構造となっている、
●駆動方式はロープウェイ風
一方、駆動方式はロープウェイに近く、曳索に掴まって走る。ただロープウェイと違うのは、曳索にゴンドラが固定されていない点だ。交走式ロープウェイは、曳索に固定されているので2基のゴンドラが同時に動き、2基以上増減もできない。運転方法も曳索のスピードをコントロールする方法だ。ところがスカイレールはあくまで交通機関で途中駅があり、さらにラッシュ時はゴンドラを増やして運行本数を増加させる必要がある。そこで、一定の速度で動く曳索を掴んだり離したりできる仕組みになっているのだ。ただし、動いている曳索にいきなり掴まると急発進をすることになり、モーターにも負荷がかかる。そこで発進時はリニア駆動で曳索と同等の速度まで加速し、それ以降は曳索に掴まって動くという機構になっている(停車時はその逆)。このようにロープウェイの駆動方式を採用しているので、懸垂式モノレールでは不可能な急こう配にも対応し、日中は小さなゴンドラで十分な需要相応のスタイルを実現したわけである。
▲スカイレールのベースとなった懸垂式モノレール(左写真)と交走式ロープウエイ(右写真)。
▲駅はホームピッタリにゴンドラが停車し、ホームドアもあって安全だ。みどり中央駅構内には複数のゴンドラが窺える。
■「唯一」が故の終焉
スカイレールは、革新的な乗り物として開通時は鉄道界で話題となった。また、中国地方で初の自動改札を採用し、全国で初めて非接触ICカードの定期券を導入した交通手段としても知られている。そんなスカイレールであるが、広島以外に広がることはなく、”唯一”の交通機関としてあり続けた。そんな特殊性が維持や更新、採算性に不利に働き、今回の廃止に至ったのだろう。このように特殊性が仇となって廃止(休止)になった例として他に上野動物園モノレールなどが挙げられる。
▲みどり中央からみどり口(瀬野)へ向けての走行シーン。空中散歩を楽しむことができる。右写真の直線部分には、中間駅であるみどり中街が見える。
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■まるで遊園地のアトラクション!今のうちに乗っておこう!
実際に乗ってみると、ユニークな乗物だけあって、まるで遊園地のアトラクションのようだ。乗るだけでも空中散歩を十分に楽しめるので、今のうちに訪れてはいかがだろう。
▲みどり口付近では、広島駅方面へ向かう山陽本線が見渡せる(左写真)。急勾配を下った先に構えるみどり口(右写真)。