text:鉄道ホビダス編集部
↓全国の「馬車軌間」を採用する鉄道車両たちを見る↓
鉄道の線路幅は世界的に見ると様々な種類があります。日本国内の鉄道事業者で採用されているのは、JR在来線を中心に広く普及している1,067mm軌間(狭軌)、新幹線や一部私鉄で採用される1,435mm(標準軌)、特殊狭軌とも言われる762mm軌間、そして今回紹介する1,372mm軌間、通称「馬車軌間」です。この馬車軌間の採用例は、過去から現在に至るまであまり多くありませんが、現在でも使われ続けている軌間の一つです。
■「馬車軌間」と呼ばれるワケ
そもそもとしてなぜ「馬車軌間」という通称があるのでしょうか。それは現在の都電の前身となる「東京馬車鉄道」がこの軌間を採用したことに由来します。この呼び名は日本独特のものなのです。
この東京馬車鉄道は馬から電車化を経て東京市電になり、のちの東京都電車、いわゆる都電になっていきます。ただし、国際的に標準規格であった1,435mmでもなく、日本国内で広く普及していた1,067mmでもなく、なぜこの1,372mm軌間を採用したのかについての詳細は諸説ある中、明確な答えは不明となっています。
ちなみに関東以外で唯一この軌間を採用する路面電車である函館市電ですが、もちろん東京市電の乗り入れを計画していたなどというわけではなく、前身の「亀函(きかん)馬車鉄道」建設時に東京馬車鉄道の技術的な関係があったことからこの軌間になったと考えられます。
■東京市電に乗り入れたくて…
▲東急世田谷線も、かつての「玉電」時代に東京市電への乗り入れを計画し馬車軌間。その世田谷線のみが分離され残された後も軌間はそのままにされた。
’23.02.18 東急電鉄 世田谷線 世田谷~上町 黒澤 鉄(今日の一枚より)
東京馬車鉄道をルーツに持つ東京市電でしたが、組織の変化の中で改軌は行なわれませんでした。そのためこの東京市電に乗り入れを考えていた事業者はこの1,372mm軌間で敷設されており、かつては京急や京成、東急玉川線(玉電)など、東京市電へ乗り入れていた、あるいは計画していた路線で多く採用されました。そのため東京都近郊で、併用軌道(路面電車)を持っていた路線での採用例が多いのが特徴の一つと言えます。ちなみに関東圏以外での馬車軌間の採用は函館市電のみです。
現在も残る馬車軌間の路線として主に挙げられる京王線も、東京市電乗り入れの計画があったことからこの1,372mm軌間となりました。最終的には市電との乗り入れは実現しませんでしたが、1980(昭和55)年に都営新宿線との相互直通運転を開始したことで、都営線と京王線の乗り入れは形を変えて実現したことになりました。
■現在も残った馬車軌間
元々は東京市電、後の都電の軌間として、そしてそれに合わせる形でいくつかの事業者が採用したこの馬車軌間。都電は荒川線以外が全廃、東急玉川線も後の世田谷線となる下高井戸線を残して全て廃止、京急や京成はその後地下鉄乗り入れをきっかけに1,435mmへと改軌されるなどして数を減らしていきました。
そんな中都営地下鉄は、1,435mmの浅草線、1,067mmの三田線、そして1,372mmの新宿線と、3種の軌間の路線を同時に運行することになりました。本来ならば新宿線は浅草線と同じ規格の1,435mmでの敷設を計画していましたが、京王側は運行しながらの改軌は難しいとしてこれを拒否。結果として馬車軌間は残ることとなりました。今や東京さくらトラムこと都電荒川線だけと思われがちな都電の残り香は、京王線や世田谷線に残る軌間にも感じることができます。
■Nゲージは馬車軌間?
さて、いきなりですがここで電卓を用意し、1,372を150で割ってみましょう。すると9.14666666667と出てくるかと思われます。カンのいい方ならお気づきかもしれませんが、実物の150分の1スケールであるNゲージとほぼ一緒のレール幅となるわけです。調べてみると模型と実車の意外な共通点を見つけることができました。
↓全国の「馬車軌間」を採用する鉄道車両たちを見る↓