185系

特集・コラム

まだまだ活躍の場は広い!「液体式気動車」の進化とこれからの展望とは

2023.06.08

text:児玉光雄
要約・再構成:鉄道ホビダス編集部

P:RM

 近年、非電化区間では電気式気動車やハイブリッド車が台頭しつつあるが、国鉄末期から民間・海外メーカーの技術によって大幅に改善が進んだ液体変速機を活用した液体変速式気動車も広く活躍を続けている。その中でディーゼルエンジンの持つ課題は、運転性能向上に加え、環境性能向上とエネルギー効率を改善する、という3点が主に取り上げられてきた。

液体式気動車の構造編集済.png

■液体式気動車の運転性能向上

 まず、運転性能は国鉄末期に始まる直噴式エンジンによって大幅に向上した。加えて、シリンダーに送り込む空気を高圧化するターボチャージャー(過給機)も、一般市場向けエンジンで技術が培われた結果、鉄道分野にも普及した。

キハ183系500番台_cap削除_600.png

▲キハ183系550番代 JR北海道が1988年に投入。インタークーラーターボのDML30HZ形とDMF13HZ形エンジンを搭載し、120km/h運転を実施した。

’89.8 函館本線 函館 P:松沼 猛

 これらの技術によって小型・軽量かつ大出力を得ることができ、近年では同程度の排気量で国鉄時代のエンジンの倍以上の出力を持つものも多い。また、変速機の改良もエネルギー効率に大きく関係する。エンジン出力を最大限駆動軸に伝えるためは、ロスが大きいオイルの対流を活用した変速段ではなく、直結段で運転する時間が長いことが望ましい。しかし、直結段間の切り替えを緻密に制御しないと、衝動の原因となり、乗り心地の悪さやクラッチの損傷を招く。そこで、近年は電子制御による変速機が採用され、比較的低い速度領域から出力を充分に伝えることに成功した。かつては電車の加速力にはるか及ばなかった気動車がその加速力を凌ぐ車両もあるほどである。

■液体式気動車の環境性能の向上

 2点目の論点が、環境性能の向上である。実は日本には鉄道車両に対する環境規制・基準はない。ただ、環境性能の向上は燃費等の効率の向上にもつながることから、各メーカーは積極的に取り組んでいる。
 2000年代後半から普及したシステムがコモンレール燃料噴射システムで、これは直噴式エンジンのシリンダーに燃料を送り込む際、共通(Common)の燃料噴射管(Rail)を用いて、高圧の燃料を噴射するものである。

■液体式気動車のエネルギー効率の向上

 エネルギー効率の向上は、運転・環境性能向上の両輪で実現された。直結段の運転領域を拡大すると、出力は無駄なく駆動軸に伝わる。また、機関の小型化、電車のような軽量ステンレス車体の採用で軽量化が進み、エネルギー効率は向上した。
 コスト面では、国鉄末期~分割民営化直後、バス部品の採用が目立った。特に空調装置は、路線バス車両で採用された機関直結型冷房が、エンジンの高出力化によってローカル線区の単行気動車に装備された。旧来は難しかった1両単位での空調が、近年では可能となったのだ。このように、昔は効率の悪さが指摘されてきた液体気動車であるが、様々な技術により飛躍的な進歩を遂げてきたのである。

■電車との装備共通化と液体式気動車の展望

 ここ最近、電車との機器共通化を図る動きも活発化している。これは現在、電車と共通の基地や工場でメンテナンスされる場合が多く、部品や仕様の共通化は作業のみならず部品、教育の面など様々な効率化にも繋がっているからである。

 また、近年は様々な方式の気動車があるが、それに伴い装備を追加し、重量が増す傾向にある。特に山岳路線では重量が効率・運転性能においてネックとなるため、単位重量あたりの出力が大きい液体変速式気動車は強いと言える。JR東日本のキハE130系とGV-E400系を比較すると、同じエンジンを搭載しつつも、電気関係機器類の搭載のため1割ほど後者の方が重い。さらに液体変速式は製造コストが安価なこともメリットの一つだ。

▲JR西日本キヤ143形 老朽化した除雪用ディーゼル機関車DE15形を置き換えるために2014年に開発された事業用気動車。

’18.8.26 金沢総合車両所松任支所 P:寺尾武士

 さらに、運転機会が少ない事業用車は、機関車用のメンテナンス設備や要員を維持することが非効率であることなどから、気動車化が進められている。これらは電化・非電化区間をまたがって運用することを前提とするため気動車の採用が多く、こうした特殊用途も液体変速式気動車の新たなフィールドとなった。

 先述の通り、日本は山岳線区が多く、液体変速式気動車の方が現時点では優位と考えられる。また、鉄道用内燃車については、法的な環境規制が未整備であることからこの動向にも着目する必要があろう。

(レイル・マガジン433号より)

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