text:鉄道ホビダス編集部
’81.4.3 東海道本線 根府川~真鶴 P:松尾よしたか
ヘッドライトとタイフォンを車体腰部の左右に配置し、中央には貫通扉、そして前面窓はパノラミックウインドウという、見慣れたこの顔の電車。その系譜は1958(昭和33)年に登場した91系、のちの「東海型」153系電車から始まります。以来、このデザインは国鉄の急行型・近郊型電車で幅広く採用され続けました。ここでは「東海顔」電車の過去と現状について詳しく見ていきます。
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■80系「湘南顔」の大ブームの後に登場した153系
正面2枚窓に傾斜した前面形状という当時としては斬新なスタイルを持ち、その後国鉄のみならず、私鉄各社にも広まっていった80系の所謂「湘南顔」ですが、この後継車として作られることとなったのが新性能電車の91系(1959年の称号改正で153系となる電車 以降153系と表記)です。現場からの要望もあり、153系は従来の80系とは異なる貫通構造とするため、自ずと顔も変わりました。このお馴染みの顔は、そういった経緯から生まれたのでした。
153系は当初、準急「東海」に投入されたことからいつしか「東海型電車」と呼ばれるようになります。本項目では80系「湘南電車」に対する「湘南顔」になぞらえて、「東海型電車」の顔という意味でこの顔を「東海顔」と呼ぶことにします。この東海顔は以降、153系のみならず幅広い車両たちに広まっていくことになるのです。
■その後急行・近郊型電車で普及していく「東海顔」
‘11.4.24 内房線 袖ヶ浦〜巌根 P:海老江和賜
(鉄道投稿情報局より)
その後、修学旅行用電車である155・159系や、現在まで続く近郊型電車の礎を築いた401・421系もこの顔で登場しました。153系と401・421系に関しては、初期は前面窓が低い位置にある「低窓」仕様だったのに対し、1961(昭和36)年以降は見慣れた「高窓」仕様に前面形状が変更されました。このスタイルは多くの車両に引き継がれ、直流・交直流急行型をはじめ、113系や115系といった今もお馴染みの直流近郊型電車や、711系や417系といった地域色の強い車両にも採用され、文字通り電化路線であれば全国どこでも見ることができました。
一つ特殊な例として、準急「日光」などで活躍した157系電車のうち、一般営業には供されない皇室用の貴賓車「クロ157-1」があります。この車両は1960(昭和35)年に落成した車両で歴とした157系一族ですが、編成中間に連結することを考慮されつつ中間車ではなく先頭車とした結果、前面は貫通式に。そのため153系類似の低窓東海顔になりました。ただ、初期こそクロの顔が拝める3両編成で運転されていましたが、後年は中間に挟んで運行されるようになり、滅多にその顔を見せることはなくなり、新型のE655系が登場した現在では全く運行されておりません。ですがこの車両は現在でもJR東日本に籍は置いており、東京総合車両センターに配置されています。
■今も走る「東海顔」
’22.08.21 えちごトキめき鉄道 日本海ひすいライン 青海~親不知 P:飯塚 洋
(今日の一枚より)
そんな東海顔ですが、JR化後は後継車の登場によりその数を減らしていきます。かつてはどこでも見られたこの顔も、民営化から35年以上が経過した現在、その元気な姿を見られるのは数えるほどとなりました。京都地区で活躍した113系が今年(2023年)春に引退したのは記憶にも新しいかと思いますが、現役の115系の方も残すところJR西日本としなの鉄道のみとなりました。そんな中で、特に数多くの国鉄型車両が今も活躍を続ける岡山地区の注目度は年々上がっていっています。
また、JR九州では415系の鋼製車が引退し、同社管内では713系が九州最後の東海顔として孤軍奮闘を続けます。北陸地区でも、急行型車両の改造名目で生まれた413系が徐々に廃車となっている中、えちごトキめき鉄道に譲渡された1本は懐かしい交直流国鉄急行色に復刻。同車がこのカラーリングを纏ったことはありませんでしたが、片方の先頭車がクハ455形700番代と、国鉄急行型の印象を色濃く残す車体を持った車両を組み込んでいることもあり、優等列車街道だったかつての北陸を今に伝えています。
かつては全国で見ることができたこの「東海顔」。その終焉の時は刻一刻と近づいてきているのかもしれません。
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◆『国鉄時代 Vol.73』特集は「魅惑の国鉄車両」
本号の特集ではカテゴリーや地域を限定せず魅力あふれる国鉄車両たちを取り上げ、必ずしも人気者ではなかったものの「今見ると改めて良さを感じる」、という形式も登場するほか、ここで紹介した「東海顔」についても取り上げます。また、一般記事では蒸気機関車が走っていた、よき日々の情景も誌面に再現します。