text:鉄道ホビダス編集部
▲「南紀」として運用を開始した頃のキハ85系。ピカピカの床下廻りが初々しい。
‘92.2.7 名古屋車両区 P:RM
(台車近影より)
1987年4月の分割民営化により、7社に分かれた旧国鉄。その直後から国鉄旧来のイメージからの脱却を目指して、各社は独自路線を打ち出すべく斬新な新型車両を次々と登場させました。JR東海で産声を上げたキハ85系も、まさにそんな時代のさなかである1988(昭和63)年に落成した車両でした。
デビューから30年以上が経過し、ついにこの3月ダイヤ改正で特急「ひだ」からの撤退が予定されています。レイル・ファンの間で大きな話題となったこの引退ですが、長年ファンに愛されたこのキハ85系の魅力について詳しく迫ります。
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■広い運用範囲…引き込み線入線…魅力的な運用がある特急「ひだ」
特急「ひだ」は名古屋、もしくは大阪から高山、富山駅へと直通する列車で、3月17日まではキハ85系も運用されます。大阪駅にも定期列車で入線し、広い運用範囲が特徴の一つ。そのような点から、近年縮小傾向にあるJRの境界を越える列車として貴重な存在と言えます。かつては特急「しなの」も大阪発着列車が存在していましたが、こちらは2016年3月のダイヤ改正で廃止に。なお今回のダイヤ改正である3月18日以降も、この大阪発着の「ひだ」は継続運用され、新型HC85系による大阪駅発着の姿はまだまだ見ることができそうです。
‘23.1.9 東海道本線 岐阜 P:植松 繁
(鉄道投稿情報局より)
また特急「ひだ」で特徴的な運用の一つに大阪発高山行きの「ひだ25号」があります。この列車は途中の岐阜駅で一旦引き込み線に入線し、その後ATSの電源を切ったまま係員の誘導により駅で待つ「ひだ5号」に連結します。まるで鉄道ツアーのような一幕を定期列車で体験できるという、面白い運用です。これもまたキハ85系「ひだ」の印象深いシーンだったのではないでしょうか。
■大きい窓からの眺望と豪華な内装
キハ85系の魅力の一つに、その大きな窓からの眺望があるでしょう。2022年3月までは列車名に「(ワイドビュー)」の名前を冠しており、その眺望の良さが登場時の売りでもありました。また、内装に関してもカーペットが敷かれており、シート床面はハイデッキ構造と豪華な装備をしており、シートピッチも従来の国鉄型より改善されました。快適な乗り心地という面においても、レイル・ファンのみならず、多くの乗客に人気となりました。
なお、キハ85系のグリーン車は2種類存在します。一つが1989年に「ひだ」でデビューした半室グリーン中間車のキロハ84形、もう一つが1992年の「南紀」でデビューした全室グリーンの非貫通先頭車キロ85形です。半室グリーン車は合造車ということもあり、定員確保の観点から2列×2列のシート配置になっていますが、全室グリーンとなるキロ85形に関しては1列×2列の豪華な3列席となり、シートピッチもキロハ84の1160mmから1250mmに拡張。しかも先頭車ということでワイドな前面展望も座席によっては楽しめ、まるでジョイフルトレインのような接客設備を持っていました。
ちなみに、「南紀」用として登場したこのキロ85形ですが、運用の再編により全車が「ひだ」へと転用され、現在ではキロハ84・キロ85共に「ひだ」として最後の活躍を続けています。
■「カミンズエンジン」が唸る!性能アップのために導入された海外製エンジン
キハ85系は、それまでの国鉄型ディーゼルカーとは一線を画す最高時速120km/hを叩き出す性能を有しています。これは登場当時「電車並みの性能」と評されていましたが、それを実現したのがアメリカのメーカーであるカミンズ社製のエンジンでした。出力は1機350馬力の高出力を絞り出し、それを1両に2台搭載しています。これを重量あたりの馬力に換算すると、従来の国鉄型ディーゼルカーのキハ82系に比べてなんと2倍以上の性能を誇っていました。なおエンジン製造自体はカミンズ社のイギリスにある工場で生産されたものとなっています。
その後JR東海のディーゼルカーではカミンズ製エンジンの搭載が定番となり、後発のキハ75系、キハ11、キハ25などの他、キハ40の機関換装にも使われました。
■曲線が織りなす流麗なデザイン
▲国鉄型車両とは一線を画す曲面を多用したデザインは今見ても古さを感じない。
‘23.1.3 高山本線 飛騨一ノ宮〜久々野 P:福島鷺栖
キハ85系は、高山本線が持つ観光路線としての性格を第一に考えてデザインされており、「うれしさ」「ニューソフト」をコンセプトに作られました。また、「自然界にあるあたたかな曲面」「栗の実のまろやかさ、二枚貝の豊かな曲面」「未来を想像させる宇宙感覚のフォルム」をモチーフに、流麗なフォルムでスピード感を表現し、かつワイドな印象があるデザインとなっています。
登場当時から国鉄型とは一線を画すデザインをしており、非常に注目された同車。「栗の実」や「二枚貝」のような自然のものをモチーフとしているためか、普遍的な美しさ、カッコよさをこのキハ85系は持っているように思えます。そういった点も含め、長い間レイル・ファンの間で愛される車両になり得たとも言えるでしょう。
なお、キハ85系で生まれたこのデザインの基本は後のJR東海の新型特急車に引き継がれてゆき、383系、373系も同様の配色パターンを持ち、統一感があるものとなっています。
■気動車ならではの自由な組成
‘10.8.17 紀勢本線 津―阿漕 P:中野智行
(鉄道投稿情報局より)
気動車は基本的には1両単位での組成が可能で、「編成」を基本とする電車とはまた違った魅力があります。キハ85系も例外ではなく、多客時の増結などでは先頭車が連続したり、堂々とした長大編成を組んだり、先述の2種のグリーン車が両方連結されたり、逆に短い2両・3両編成も見られるなど、非常にバラエティー豊かな編成パターンは毎度レイル・ファンの目を喜ばせるものでした。
上写真は花火大会による臨時列車によりキハ85系が登板したひとコマで、貫通型先頭車が3両連続でつながっています。ですが定期列車でも、多客時では5両近い先頭車が連続する編成になったりしたことも。これら増結時の編成は、1・2両単位での車両運用を考慮した上で組成されており、決して適当に繋げている、というわけではないのです。でもそんなユーモア溢れる編成が見られたというのもこの系式の特徴の一つだったのではないでしょうか。
キハ85系は内装・外装・床下機器と、車両の随所に魅力的なポイントが存在し、かつ運用や組成も研究しがいのある楽しい車両でした。どこを取っても美味しいような、そんな魅力がこのキハ85系にはあったように思えます。
春のダイヤ改正にて特急「ひだ」の運用からは撤退し、HC85系にバトンタッチされます。また、7月には特急「南紀」にもHC85系が導入予定となっており、ここに残るキハ85系も置き換え予定となっています。ですが、先日京都鉄道博物館で展示されたキハ85系が京都丹後鉄道へ回送され、まだまだその勇姿を見られることができそうです。そして後継のHC85系も、キハ85系のように長く愛される車両となることを強く願うばかりです。
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