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特集・コラム

電車のパンタグラフも多様性が!?個性溢れる「集電装置」の違いとは?

2023.02.28

text:鉄道ホビダス編集部

 電車の屋根上を見ると付いているパンタグラフ。鉄道に詳しくなくてもこの「パンタグラフ」という名称だけは知っている、という方は多いのではないでしょうか?このパンタグラフは、電車に電気を取り込むためにある装置で、電気で動く電車にとってなくてはならないものの一つです。でも、あなたが見ているそのパンタグラフ、本当に全部同じ形でしょうか?もっと言うと、そのパンタグラフだと思っているものは、本当にパンタグラフでしょうか?
 今回は電車に付いている個性豊かなパンタグラフを含めた「集電装置」たちを見ていこうと思います。

↓様々な形状の集電装置たちを見る!↓

■一番オーソドックスな形状「菱形」

‘21.3.6 伊豆急行伊豆急行線 伊豆急下田 P:芦原やちよ

 パンタグラフの元祖であり、もっとも一般的な形状と言えるのがこの菱形です。そもそも「パンタグラフ」という言葉自体は、菱形の関節構造によって伸縮する同名の製図用具に似ているところから来ていますが、必ずしも菱形だけがパンタグラフというわけでもなく、関節構造によって伸縮し架線に追従できる集電装置のことをまとめてパンタグラフと呼んでいます。

 この菱形パンタグラフは頑丈な構造を持ち、壊れにくい点がメリットで、1990年代初頭頃まではこの形状のパンタグラフを持った電車が大半を占めていました。ですが、より部品点数も少なく軽量で、空力的にも優れた後述するシングルアーム型が普及すると採用例は激減し、現在の新型車ではまず見かけることのない形状となってしましました。

■小型軽量なのがメリット!「下枠交差型

‘10.1.28 山陽電気鉄道本線 高砂 P:廣村典彦
(鉄道投稿情報局より)

 菱形パンタグラフに一見似ている形状ですが、これは下枠交差型といい、菱型とはまた別の形状となります。文字通りパンタグラフ下部が交差することによって折り畳み時の大きさを小さくした形状です。
 元々は新幹線の開発過程で生まれた形状であり、国鉄時代からJR初期の新幹線で広く採用されました。小型ゆえに当然空気抵抗も菱型より少なく、また軽量であったことから、新幹線以外でも電気機関車や関西圏を中心とした私鉄電車に多くの採用例があります。

 そんな下枠交差型ですが、菱型同様に現在ではシングルアーム型に取って代われており、こちらも現在では採用例が少ない構造です。

■近年の主流!シンプルイズベスト「シングルアーム型」

‘22.11.25 阪急電鉄神戸線 園田―塚口 P:芦原やちよ

 現在主流となっている形状がこのシングルアーム型パンタグラフです。こちらは上記のパンタグラフよりも部品点数が少なく軽量な上に、大きさも小型であることから空気抵抗による騒音も小さくなっている点が特徴です。また、鉄道車両において軽量ということは、すなわち消費電力をその分抑えることが可能ですので、より省エネに貢献できるというのもメリットの一つです。

 現在新しく落成する電車のほとんどは、このシングルアームパンタグラフを採用していますが、普及したのは比較的近年です。となると新しくできた形状なのでは?とも思えますが、実はこのシングルアームパンタグラフ自体はフランスで1950年代に産声をあげた構造で、当初製造したメーカーの特許が切れた1990年代初頭頃から徐々に普及していったという経緯があります。
 また菱形・下枠交差といった従来型の集電装置からこのシングルアーム型に更新する例も全国的に多く見られます。

■少し変わったパンタグラフを搭載した車両

‘07.11.19 岡山電気軌道東山本線 東山 P:高橋一嘉
(台車近影より)

 これらパンタグラフの他にも特殊な形状をしたパンタグラフを搭載した車両はいくつか存在します。その中でも特徴的なのは岡山電気軌道で活躍する車両にのみ採用されている「石津式」と呼ばれるパンタグラフではないでしょうか?
 この石津式、小さい菱型のようにも見えますが、上写真のパンタ下部をよく見るとヤグラが組まれていることがわかるかと思います。そのヤグラの中、パンタグラフ下枠の延長部には錘が入っており、この錘によってパンタグラフを引き上げ架線に追従させている、という単純明快な仕組み。錘でパンタグラフを上げているだけなので、バネや空気の力を必要とせず、保守やメンテが簡単という点がメリットです。ただし高速走行させると離線も起こしやすく、路面電車のような速く走らない車両でのみ使える形状です。

■パンタグラフではありません

 さて、じゃあ集電装置=パンタグラフなのでは?と思ってしまいそうですが、実はそうではありません。下記の集電装置はそれぞれ別の名称が与えられており、厳密にはパンタグラフとは区別されます。

 ●トロリーポール

 昔のトロリーバスや路面電車などに多く採用されていた、古典的な電車の集電装置がトロリーポールです。金属製のパイプを本体に、先端にはU字型のホイールが付いており、それを架線に擦り当てることで集電するという単純な構造の集電装置です。
 構造は単純ですが、進行方向によって向きを変える必要があったり、速度が上がると離線しやすい上に一度離線したら手作業により戻さなければならないこと、離線して跳ね上がったポールが架線を痛める事故が起きやすかったこと、そもそもの構造が脆かったことなどもあり、ビューゲルやパンタグラフが普及していくにつれその姿を消していきました。

 ●ビューゲル

’60.2.7 四谷三光町 P:長谷川興政
(消えた車両写真館より)

 こちらも昔の路面電車の写真などで多く見かけるこの「ビューゲル」。パンタグラフのように折りたたむための関節構造は持たず、単純に根元を軸として、本体を架線へ斜めに接触させる構造となっています。先述の通り、かつては路面電車などでの採用例が多く、トロリーポール同様に黎明期の集電装置の一つです。トロリーポールよりも扱いやすかったものの、ポール同様進行方向によって使う向きが限定されるほか、離線しやすいという欠点は残ったままとなっており、こちらも多くはパンタグラフに置き換えられていくことになりました。

 時代を追うごとにその形を変えていった集電装置たち。シングルアーム形パンタグラフが主流となってからも2〜30年の月日が経ちましたが、これからパンタグラフを始めとした集電装置はどのような進化を遂げていくのでしょうか。

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