185系

特集・コラム

垣根がなくなった通勤型と近郊型の違い 時代で変化した関東のJR電車の区分とは?

2023.01.22

text:鉄道ホビダス編集部

‘16.8.27 東京総合車両センター P:玉木裕一
(鉄道投稿情報局より)

 鉄道関連の書籍や情報を見ているとよく目にする「特急型」や「通勤型」「近郊型」といった車両区分を表す用語。これらの区分は国鉄が主に決めていたものですが、厳格に定められていたわけではありませんでした。そのため、時代が変わるにつれてこの区分が曖昧な車両が登場し始めました。特にJR東日本の首都圏を走る車両においては、その性格が似ていた「通勤型」と「近郊型」の区別が段々となくなっていきました。

↓首都圏の通勤・近郊型の車両を写真で振り返る!↓

■3ドアセミクロスシート=近郊型・4ドアロングシート=通勤型

 国鉄では基本的に片側3ドアでかつ車内がクロスシートと2〜3人掛けのロングシートを併せ持った「セミクロスシート」と言われる座席配置で、トイレなどの装備を持った車両を「近郊型」、片側4ドアでロングシートの車両を「通勤型」と区分けし、近郊型は主に中距離輸送の路線、通勤型は混雑が激しい都市部の近距離輸送の路線に投入されました。また、車体や接客設備の違いだけではなく、車両性能に関しても近郊型は高速性能寄りの歯車比であったのに対し、通勤型は駅間距離が短いことが多いため加速性能寄りの歯車比で製造されていました。
 気動車でも通勤型は存在しましたが、特に都市圏輸送を担う電車ではこの区分けを明確にする傾向が強く、近郊型・通勤型では系式から運用まで完全に別れているのが当たり前でした。

■徐々に垣根がなくなる通勤型と近郊型

▲国鉄近郊型電車では初めてとなるオールロングシートとなった415系500・600番代。

’85.2.18 上野 P:梶村昭仁
(消えた車両写真館より)

 ですが、1980年代に入ると宅地開発などにより郊外の人口が増加。それまでのセミクロスシートの近郊型では段々と乗客を捌くのが難しくなってきました。そのため1982(昭和57)年には近郊型でありながらロングシートの415系500・600番代が登場。1985(昭和60)年に登場した211系でもロングシートの車両が組み込まれることとなりました。

▲901系はのちに209系として量産化された系式。その設計思想はJRの車両だけでなく、全国の鉄道会社に大きな影響を与えた。

’15.8.22 東京総合車両センター P:芦原やちよ

 そして1987(昭和63)年に国鉄が分割民営化しJRが誕生。車両の設計が画一的だった国鉄時代と比べ、JR化後はそれぞれの地域に特化した車両を各社が開発されるようになりました。特にJR東日本では、近郊型と通勤型の違いはよりなくなっていきます。1992年、後に209系となる次世代通勤型電車の901系がデビュー。その後1993年から209系として量産され始めると、1994年にはその近郊型バージョンとなるE217系がデビューします。この車両は一部車両を除き普通車はロングシートで片側4ドアと、通勤型に限りなく近い設計思想の車両です。
 さらに常磐線には、直流電化の取手駅までしか行けなかった「常磐快速電車」を交直流電車にし、取手以北に乗り入れ可能としたオールロングシートの通勤型、E501系がデビュー。また東北地区や新潟地区では、それまで客車列車や急行型車両が活躍していた線区の輸送力改善を目的に、3扉ロングシートという形態を基本とした701系やE127系などが登場します。この頃からJR東日本の通勤型と近郊型は、その車両スペックを一部共通化したり、近郊型しか走っていなかった路線に通勤型を投入したりするなど、その垣根はなくなっていきます。

■「一般型」という名称で登場したE231系

’16.12.16 平井 P:芦原やちよ

▲209系950番代として落成したE231系900番代。JR東日本ではこの車両から「一般型車両」とし、その中で近郊タイプと通勤タイプが分けられる形となった。

 1998(平成10)年、209系列に代わるJR第2世代の車両として209系950番代(E231系900番代)が試作され、中央・総武線でデビューします。その後209系950番台を量産化したE231系では、大まかに「通勤タイプ」と「近郊タイプ」と仕様を分け、通勤タイプはオールロングシート。近郊タイプはトイレを装備するほか、普通車はロングシートを基本に一部をセミクロスシートとし、系式は共通化しました。同じ系列でありながら、通勤仕様車と近郊仕様車が共存する形となったのです。これをJR東日本では「一般型車両」と呼称するようになります。これはその後発展するE531系やE233系、E235系にも踏襲されていきます。

 2023年現在JR東日本の最新型車両として活躍するE235系ですが、この系式の近郊タイプであり、横須賀・総武線に導入された1000番代の普通車では、それまで近郊タイプの車両には存在したセミクロスシート車が廃されオールロングシートになり、グリーン車を連結する以外は通勤タイプとほぼ変わらない車内設備となりました。
 さらに中央快速線系統のE233系0番代ではグリーン車の導入が予定されており、それまで近郊タイプにしかなかったグリーン車とトイレという設備が、通勤型にも波及しています。

 国鉄時代の車両仕様は、全国的に統一することが念頭に置かれていましたが、JR化後はそれぞれの路線の特徴やニーズにあった車両を各会社・メーカーが柔軟に開発するようになりました。その結果、郊外にも人口が多い関東圏ではこういった動きが見られたと言えるでしょう。

↓首都圏の通勤・近郊型の車両を写真で振り返る!↓

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