text & photo:なゆほ
60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回はファンの間でも「幻」と言われたプラレールである「ロータリーじょせつしゃ」の復刻版にクローズアップ。単純ながらも目を引くギミックを搭載したこの復刻製品ですが、実はバリエーションも存在するとか…?
20世紀が終わりに近づいていた1999年は、プラレールが誕生して40年目の節目の年でもありました。このアニバーサリーイヤーに先立ち、1997年には鉄道の日の10月14日を「プラレールの日」と定め、過去に発売した商品を再設計・ディテールアップ化した「復刻版」を発売するようになります。今回は1999年に復刻された車両と、そのバリエーションについて紹介します。
↓「ロータリーじょせつしゃ」のこだわりディテール写真はこちら!↓
1997年から2005年にかけて行われた復刻版プラレールの発売は非常に好評を博しており、1970年代に発売された「ちんちんでんしゃ」「弁慶号」「ロータリーじょせつしゃ」「とっきゅう」といった往年の製品から、比較的近年の発売であるものの短期間で絶版となった「フレッシュひたち」「あさぎり」なども登場し、ディテールアップが嬉しい製品群となっていました。この中でも特に気合が入っていたのが、1999年に発売された「ロータリーじょせつしゃ」です。
元々は1973年頃に発売された「C12・ロータリーじょせつしゃセット」に含まれている車両でした。この製品は実車同様にロータリー車は動力を持たず、C12形蒸気機関車に押されながら羽根を回すという、車輪→羽根のギア伝達で動くだけの単純な構造で実物と同じ動きを実現する面白いプラレールでした。このセットは1年程度の生産に留まった上、発売翌年に実車の「キ620形」が引退したこともあり、以後再発売される事なく20年以上が経過しました。
1990年代半ばから現れた大人のプラレールファンの間で「ロータリーじょせつしゃは珍しい」「幻のプラレールだ」という共通認識が広がったようで、実際に発見されるとかなりの高値で取引されるものになり、その価値は2023年現在も変わりません。
▲初代「ロータリーじょせつしゃ」の姿。小ぶりな車体だが、ディテールは既に素晴らしい出来である。羽根はおもちゃらしくオレンジ色(某イベントにて撮影)。
そのウワサをメーカーが聞きつけたかは不明ですが、1999年にこの「ロータリーじょせつしゃ」が復刻されます。この復刻版、気合の入れ方が凄いものでした。詳しく見ていきましょう。
▲復刻されたロータリーじょせつしゃ。実車同様に炭水車が付き、動力車となった。C12は牽引されるだけのトレーラーとなる。
モデルである「キ620形貨車」は1928年にアメリカから輸入された除雪車で、蒸気機関で除雪機構を稼働させるために蒸気機関車から流用された炭水車が連結されています。炭水車は初代の方では省略されていましたが、復刻版ではキ620形自体を動力車とするため、他の蒸気機関車製品でも見られる「炭水車に電池を入れる」方式を採用。動力の組み込みと羽根の回転機構の組み込みの関係で全長も伸び、かなり重厚感のある作りになりました。
羽根も実車同様の赤色に成型されましたが、なんの偶然かそもそもプラレールの蒸気機関車の車輪は以前より赤色。リアルな車体となった「ロータリーじょせつしゃ」にも赤車輪が採用され、模型らしさとおもちゃらしさを両立した独特の雰囲気を出しています。羽根周りのカバーは初代製品同様にクリア成型にされ、回転中の様子が見えるという、これまたおもちゃらしいアレンジになっています。
「幻」とも言われたプラレールが復刻され、造形技術の向上のアピールにもなった本製品ですが、なんとこの一回では終わらずにバリエーションが登場する事になりました。今からちょうど23年前となる、1999年12月28日から2000年1月9日まで日本橋三越で開催されたイベント「20世紀おもちゃ博物館展」において、この展示会仕様のロータリーじょせつしゃが発売されました。
▲車体は茶色に、羽根と車輪は黄色に、そして黄色い帯が巻かれたロータリーじょせつしゃ。C12形はなんと青い車体になってしまった。
「おもちゃのイベント」で発売されたこのロータリーじょせつしゃ。おもちゃらしいアレンジが加えられると同時に、企画した人は相当マニアックだなと思う拘りの塗装があります。車体を茶色に成型し、羽根が黄色に、車輪も合わせて黄色になりました。そしてマニアックなのが、車体に黄色い帯が巻かれていることです。
1968年10月1日の国鉄ダイヤ改正(ヨンサントオ)より、旧来の貨車には最高速度65km/h以下の車両であること識別するための黄色い帯が巻かれました。蒸気機関を積んで重いキ620形も例外ではなく、以後は黄色い帯を巻かれて廃車されるまで運用されていました。
プラレールでこんなマニアックな表現を施すのは流石と言うしかありませんが、箱にはこれについてなんの説明もないというのがまた面白いところでもあります。20世紀おもちゃ博物館展の客層を見据えての仕様なのかもしれませんが、分かる人は「おっ」と思う拘りです。
ロータリーじょせつしゃ一つを取っても、プラレールが40周年を迎えた1999年の盛り上がりの凄さが見えてくる気がします。1999年に26年前の製品を復刻発売してから既に24年。メーカーの意向にもよるかもしれませんが、そろそろ90年代の製品の復刻も期待したいところですね。
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