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未来を予言したプラレールがある!?実車が後から追いついた「ダブルセット」とは?

2022.12.02

text & photo:なゆほ

 60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回はお馴染みとなった連結仕様新幹線のとあるセットにまつわる記事。発売当時は存在していなかった連結の組み合わせが何故か製品化。ですがなんとその後プラレールが「予言した」とも言える現象が起こったことがありました…。(編集部)


■2002年、プラレールに革命が起こる

 2002年7月。プラレールに大きな変革が起こります。塗装細密化によってディテールの向上が図られたのです。このリアル化の流れは1990年代頃からあり、それ以降に発売されたプラレールは、新製品が発売されるたびに塗装も造形も実物に寄せられるようになっていきました。
 この流れが続くにつれて、1990年と2000年に発売された製品ではそのディテールに大きな差が見られるようになっていきます。実際の新幹線でも、1999年の山形新幹線新庄延伸に伴いE3系1000番代がデビュー、400系も塗装を変更された事により、実物とプラレールが徐々にかけ離れていく事態が起きてしまいます。

 これを解消しようと、2002年7月の通称「新幹線一斉リニューアル」を皮切りに2003年にかけて、既存製品のリニューアル、時代にそぐわなくなった製品の絶版、新製品の発売などが行なわれていくようになります。この流れの中、「一斉リニューアル」と同時に登場したのが新幹線の「連結仕様車」です。今回は実際の新幹線を取り巻く情勢の変化と、プラレールの「連結仕様車」の登場によって生まれた「迷製品」を紹介します。

↓結果的に「予言」のようになってしまったプラレール製品画像はこちら!↓

■新幹線の併結運用をプラレールで再現

▲画期的な製品だった「やまびこ&こまち連結セット」も発売から既に20年が経っている。

 1992年に始まった山形新幹線「つばさ」と東北新幹線「やまびこ」が連結した定期運転は新幹線に新たな風を吹かせました。1997年に開業した秋田新幹線「こまち」も「やまびこ」と連結することになり、同年にデビューしたE2系J編成とE3系R編成の連結が見られるようになりました。この併結運用をプラレールで商品化したのが、2002年7月に発売された「やまびこ&こまち連結セット」です。後尾車にマグネット連結器を仕込み、屋根上のレバーを操作して連結器カバーを収納、連結器が出現するという、おもちゃらしいデフォルメながらも実物さながらの動きをするギミックが人気を博しました。

■子供心からしても謎の製品が登場

 同年12月、東北新幹線が盛岡から八戸まで延伸されると同時に、ピンク帯が特徴的なE2系1000番代「はやて」がデビューします。これに伴い、「やまびこ&こまち連結セット」の発売から日が浅いながらも、「こまち」の連結相手が「やまびこ」から「はやて」に変更されます。

 対するE3系の動向を見てみると、山形新幹線の新庄延伸に伴い「つばさ」に投入されることになり、1999年にE3系1000番代がデビューしています。こちらは従来の200系「やまびこ」の他、E4系「Maxやまびこ」との併結運用を始めました。これにより、2002年以降の新幹線の連結運用は「はやて+こまち」「Maxやまびこ+つばさ」の2通りが走るようになり、しばらくこれで定着します。

 プラレール視点から見ると、1999年のE3系1000番代、2002年のE2系1000番代のデビューは既存製品に新たなバリエーションが登場した事になり、製品化のチャンスとなります。2000年にはE3系「つばさ」をメインとしたオールインワンセット「新幹線&ふみきりセット」が、2002年には12月1日の八戸延伸に合わせてJR東日本の限定品として「E2系1000番代 はやて」が発売されました。ただし、この時点ではどちらも非連結仕様での製品化です。

 当時の3両単品では前述の通り「新幹線一斉リニューアル」が行われており、「S-08 E2系新幹線あさま」「S-09 E3系秋田新幹線こまち」が発売されたばかり。E2系「はやて」とE3系「つばさ」を改めて通常品として発売する余地はありませんでした。そこで2003年7月、2編成のセット品という形で発売される事になります。これが、後に「まさかプラレールが予言することになるとは」などと言われるようになる製品となるのです。

▲「はやて&つばさダブルセット」は連結仕様車のセットながら、実車が連結をしないために「ダブルセット」と命名された。

 「はやて&つばさダブルセット」E2系1000番代「はやて」とE3系1000番代「つばさ」の連結セット。いえ、「ダブル」セットです。実際には連結しないのでこのようなネーミングとなりました。現在に至るまで何度か発売されている「ダブルセット」シリーズの第1号です。
 2003年当時はE2系1000番代とE3系1000番代の連結運用は存在していません。ですが、既に連結仕様の金型があるならそれを利用するのがプラレールというもの。車両自体は連結仕様なので、車両前面のイラストは連結カバーを開けている状態で描かれています。

 これを店頭で見た子供はもちろん、大人も首を傾げたとかなんとか。2003年当時に子供だった周囲の方々に聞いてみると、以下のような感想を聞けました。

  • 「Maxが連結相手とちゃうんかい」
  • 「はやてじゃなくてMaxにしてくれ」
  • 「はやてなのになんで相手がつばさなんだ」
  • 「『やまびこ&こまち』と合わせて遊ぼうとすると『やまびこ』が余ってしまう…」
  • 「鉄道図鑑を読んでもどこにもこの組み合わせが載っていなくて不思議に思った」
  • 「はやては欲しいけど、つばさはなぁ…」
  • 「え、この組み合わせって走ってないの?」

 などなど、子供ながらに大量のハテナを浮かべた人を多く生んだ製品なのでした。もちろん筆者も不思議に思ったうちの一人です。

▲箱の裏面は連結遊びを推奨しているが、よく見ると実車は連結していない旨の注意書きがある。

 面白いのが、箱の裏面にある「現在、実車の『はやて』と『つばさ』は連結して運行しておりません。」という注釈。将来的には連結するかもしれないといったニュアンスを含めた書き方でした。

■やっと実現したものの…?

 発売後、長らく「連結しないのに連結仕様の抱き合わせが発売された変なプラレール」という認識がファンの間で共有されていたこのセット。その状況を変えたのが、2012年のダイヤ改正です。東北新幹線の新青森延伸に合わせて新設された「はやぶさ」に充当されるE5系のデビューに伴い、「はやて」の一部もE5系が担当するようになりました。これにより「はやて」用のE2系に余剰が発生、従来の「Maxやまびこ」を置き換える形で車体色をそのままに「やまびこ」に充当されるようになります。

 なんと時代の流れによって「実在しない連結」が実現してしまったのです。

▲結果的に実現した連結。しかしこれが「連結セット」として改めて発売されることはとうとうなかった。

 E2系1000番代とE3系1000番代が連結して走り始めると、あのプラレールが現実になったとよく言われたものです。2008年にE3系の増備車である2000番代がデビューすると、2009年6月に「E3系2000番代&E4系Max連結セット」が発売、同時に「E2系はやて&E3系こまち連結セット」も実車の運用開始から遅れること6年半経って発売され、2003年に発生した子供達やファンの大量のハテナを解消したのでした。

 その「はやて」の連結相手であるE3系「つばさ」ですが、2014年から2016年にかけて特徴的な銀色塗装から奥山清行氏デザインの新塗装に変更しており、2024年からはE8系に置き換えられる事が決定しています。プラレールの商品展開の改革によって生まれ、現実が追いついたものの数年で見られなくなった「E2系はやて」と銀色の「E3系つばさ」の組み合わせ。これもまた、時代に翻弄された製品と言えるかもしれません。

 昨日12月1日で東北新幹線八戸延伸と「はやて」デビューから20周年を迎えました。「はやぶさ」の増発により2019年を以って東京発着の「はやて」は廃止されてしまい、2022年12月現在は盛岡〜新函館北斗間の区間列車として数本が残るのみです。20年前に颯爽とデビューした新列車の愛称も、時代が流れるにつれて今や風前の灯となってしまいました。

↓結果的に「予言」のようになってしまったプラレール製品画像はこちら!↓

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