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特集・コラム

自転車が「漕いで」「動く」鉄道模型!?ノスタルジーを感じるミニジオラマに迫る!

2022.11.19

text & modeling & photo:小林大樹

 

 Twitterに投稿された一つの動画。のどかな田園風景を自転車が駆け抜けていくというなんともノスタルジーに溢れる景色の映像だな…と思ったらこちらはなんとまさかの鉄道模型の情景なのです!情景の作り込みもさることながら、光の雰囲気、反射する水面、そして何よりしっかり漕いで動いている自転車というギミックに驚かされます。今回はこの作品を作った小林大樹さんにその情景製作の裏側について色々お伺いしてみました。(編集部)

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■「自転車が動くジオラマ」を作るに至った経緯

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 漕いで走る自転車の鉄道模型向けストラクチャーがあると知って衝撃を受けたのは数年前のことでした。今では記憶が定かではないのですが、その時はネットか雑誌で見たのでしょう。しばらくして、ひょんなことからシーナリー関係の製品を個人輸入する機会があり、日本では入手困難だったこの自転車走行システムもラインナップされている「Magnorail(以下マグノレイル)」をフランスのMaketisという模型店から手に入れました。

 このマグノレイルの走行システムはコの字型断面のガイドの中をプラスティック製のベルトが走り、ベルトに設置した磁石によって、レイアウト上の自転車や車、船などを動かすことができるシステムです。なかでも自転車のフィギュアは漕いでいる姿を透明な円盤を回転させることで再現させたもので、このシリーズの一つの売りになっているものです。  試しに国産の鉄道模型用カーモデルを使って走行テストをしてみたものの、いかにも“動かされている”感があり、自動車を動かすにはファーラーのカーシステムの方に分があると個人的な結論に達しました。やはりマグノレイルシステムの最大の魅力は自転車であると感じ、これをメインとしたモジュールを製作することにしました。

■自転車が映える景色を考えた作品

 自転車が走る姿で一番印象的なシーンはなんだろうかと考えた時、田植え直前の水の張った田んぼの中を、夕日に照らされ、水鏡に写る1台の自転車の姿を空想しました。  そこで田んぼがあり、手持ちの車両に似合う風景を考え、2007年頃の只見線や会津線などの福島県会津地方のローカル線の5月下旬をイメージした情景を製作しました。
 モジュールのプランはベース寸法900×600mmで、手前に田んぼ、奥側に線路とし、ベースを7:3で分ける位置に敷設しています。目線を下げた際に、奥を走る自転車が見えないように線路は築堤を基本として、道との交差部分は2ヶ所とし、一方の交差部は立体に、もう一方は踏切としました。線路に勾配は付けず、自転車が走る道路に勾配をつけ、道路をエンドレスで自転車が周回できるようにしています。 鉄道の線路はシノハラの#83フレキシブルレールを使い、両端には他のモジュールやレールと容易に接続ができるようにKATOユニトラックの接続部の道床を短く切って、レールを差し込んでいます。
 レールには実物換算25mのところで継ぎ目の溝を入れて実感的なジョイント音になるようにしてあります。また、少しでも狭軌感を出すために枕木も間引き、その間隔を広げています。

 マグノレイルのシステムの敷設は、地面の下に組み込むため、何より一番最初に施工しなければなりませんが、構想のプランでは踏切で線路との交差と築堤での立体交差があり、線路との敷設順に苦慮しました。敷設位置を間違えるとその後の地面工作に大きく影響がでるため重要な加工点です。またマグノレイルのベルトはモーター駆動のため、その格納場所も最初に用意する必要があるうえ、モーターは縦型に配置しなければならないので、ベースボードにはそれが収まるだけの厚みが必要になります。そのためベースボードを作る段階で敷設の位置関係をしっかり決めておく必要がありました。

 マグノレイルの敷設で特に苦労したのが、自転車走行部の地面の板厚とベルト駆動溝の関係です。ベルトに付けた磁石の力でレイアウト上面の自転車を動かしているため、磁力が届く板厚にも限界があります。メーカーの規定では最大有効値t0.5とされており、それより少し厚くても磁力の追随はしますが、踏切ではコード#83のレールと交差させなければならず、さらにレールは天地寸法2.1mmの厚みがあります。その厚みを磁力で超えるのは流石に無理なので、交差部分ではレールの裏側から1mm以上、ベルトの幅分をリューターで削り、磁力が届くように工夫しました。護輪軌条や踏切板も同様に裏側を削っているため、フランジが高い車両は通過できない可能性はありますが、手持ちの日本型車両は今のところ問題なく通過できています。

▲マグノレイルの自転車フィギュア。前後のタイヤの底面に小さな磁石が付けられ、ペダルを漕ぐ足は透明円盤の回転によって動きが再現される。

 マグノレイルの自転車は段差や埃などに非常に弱く、つまずくと磁石からすぐに外れて立往生してしまいます。例えば踏切通過のための段差の調整には一番時間を割きました。
 マグノレイルは、磁石の数を増やすことで複数の車両を走らせることはできますが、個別制御はできません。例えば踏切手前での一時停止させる動作をプログラムし、同時に複数の自転車が走行していた場合、あるものは突然農道の途中で停止したり、地下道の途中で停止するものが現れたり、とても不自然になってしまいます。そのため自転車の走行プログラムなどはせず、製品のまま単純に、レイアウト内を走り続けるようにしました。結果として、どの自転車も踏切一旦停止の違反となってしまい、なんとも元気!?に先を急ぐ自転車のフィギュアが再現されてしまいました。

■まるで実物のように魅せる撮影技法

 このモジュールの田んぼの水鏡を室内で撮影すると、どうしても自室の壁や天井が写ってしまいます。本物のように空や周辺の風景を写し込むため、車に積んで近所の河川敷へ持って行き、撮影しました。ただ、モジュール以外の借景を作品のように画面に収めてしまうのは、何か違うように感じ、極力モジュール内だけが構図に収まるように撮影しています。  最後に今回のモジュールでは16.5mm幅の線路を少しでも狭軌のように見せようとしましたが、やはりゲージが広く見えてしまうので、次回作は13mmゲージで作ろうと考えています。また誌面でご覧いただける機会がいただけましたら幸いです。

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■この作品のより詳しい情景製作の解説はこちらで!

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 鉄道模型の楽しみ方の一つである「情景模型」。ノスタルジックな郷愁を誘う風景、旅先での思い出や名所、四季を感じる風景など、それぞれが思い描く鉄道シーンを、まるでキャンバスに描く絵画のように、限られたスペースの中に立体的に再現します。
 風景の一角を切り取る「ジオラマ」は、動きのない中に生活感や躍動感を再現して「動き」を魅せるのに対し、鉄道模型の醍醐味で ある「走行」を加えた「ミニレイアウト」もまた、小さな世界観を創り出す楽しみ方の一つ。これらを「ミニシーン」と称し、小さいながらもさまざまな角度から眺めて楽しめる、部屋のかわいいインテリアにもなるひとつのディスプレイを創出します。

 本特集では、そんなミニシーンのテクニックや個性豊かな数々の作品を紹介していきます。また、ミニシーン作りに欠かせない 最新ジオラマ素材の種類や使い方もわかりやすく解説していきます。秋の夜長…就寝前のほんのひとときに、「ミニシーン」に浸ってみてはいかがでしょうか?

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