modeling:都市モデラー MAJIRI(Cityscape Studio)
photo:羽田 洋(特記以外)
まとめ:瀧口宜慎(RMM)
巷で話題の都市モデラーMAJIRI氏 (Cityscape Studio) のYouTube動画は、実物か模型かわからなくなるサムネイル画像から、その不思議な世界へと引き込まれていってしまいます。 今回はそんなMAJIRI氏のスタジオを訪ね、魅力ある模型やその写真がどのように作られているのか、その技を短刀直入に聞いてみました。 (編集部)
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瀧口:こんにちは、本日はよろしくお願いします。
MAJIRI:今日は遠いところを、よくいらっしゃいました。よろしくお願いします。
瀧口:早速お伺いしたいのですがMAJIRI氏が代表の「Cityscape Studio」の動画でのトップ 画面は本当にリアルで魅力的ですよね。本物か模型かわからないうえに、そこに指がニョキっと出てきてさらに混乱する。一体どんな撮影機材を使うとこんなにリアルに撮れるのですか?
MAJIRI:お褒めの言葉ありがとうございます。 それにはとても特殊で高い撮影装置は…実は必要ないんです。
▲キャンプ用の折り畳みテーブルにジオラマを載せ、三脚に取り付けたスマホで撮影するMAJIRIさん。
瀧口:え!ではどんな機材を使っているのですか?
MAJIRI:普通のスマホです。皆さんが持っているのと同じような…。
瀧口:じゃあ、特殊な照明器具や背景装置など を使っているとか…。
MAJIRI:それも必要なくて、天気の良い日に外の太陽光で撮影しています。そうすることで実物と同じ光の具合になりますし、何しろ太陽光による本物の影ができるので、その影が見る人に本物と錯覚させるんです。
瀧口:なるほど、そもそも太陽光が本物に見せ るベストな光源だと気が付いたのはどのような ことがきっかけだったのですか?
MAJIRI:今の動画を含め、都会の風景の製作を始めたころ、部屋の中で完成した模型の撮影 をしたのですけど、どうしても一般的な光源ですと光量がなさ過ぎる。かといって、いきなりプロ仕様の光源を購入する資金もなかったの で、外の太陽光を使って撮影することにしたんです。するとその仕上がった写真を見て、自分でも「本物みたいだ」と思ったんです。それ以来、タイトルカットは外の太陽光で撮るようになりました。
▲大阪環状線高架線ジオラマ。架線の存在感や手スリや袖看板が生む影がリアルだ。 写真:Cityscape Studio
瀧口:そういった陰影への意識の発見などから模型作りに活かしている部分はありますか?
MAJIRI:普段生活していると、見る物に対して陰影の部分は特に意識はしていないと思うのですが、無意識のうちに陰影が「実物かそうでないか」を判断する要素になっているんだと思うんです。その陰影に関わる部分なのですが、 例えば小・中学校の図画工作や美術の授業で、 風景画を描くときに風景の中の電信柱の電線まで描くことって少ないと思うんです。もっと風景の全体をとらえて、山や大きな木、建物など大きな物体のフォルムを描きはするのですが、でき上がった絵には、実際にはあった電線や看板といった、いわば風景には邪魔で綺麗ではないものは、描かれていないのですよね。一般的 に風景画はありのままではなく、風景から抽出することを学ぶものだと思うのですが、私の情景工作ではあえて、その逆をやろうと思いました。実際に街を歩いて空を見上げても電線はかなりの率で通っており、目に入る風景です。 鉄道写真を撮るにしても架線や電線の影は入ってしまいますから。
瀧口:その陰影を生む部分は模型作りでは具体的にはどんな部分でしょうか?
MAJIRI:実物の建物や乗り物もそうですが、 電柱や自動販売機や看板とか街並みを構成するストラクチャーには、それを設置したりメンテナンスをするために、例えば電源のケーブルが つながっていたり、留め金や、扉や蓋があった り、手スリがあったりして、実は細かなディテー ルによっていくつもの凸凹があるんです。そういった小さなディテールを再現すると、先ほど話した太陽光の下では、物の周りにいくつもの 陰影が現れる。これが何よりも本物らしく見せる要素の一つだと思うので、そういうもの、つまり細かな影が現れる電線や、柵のある手スリ、 配管などはなるべく多く再現するように気を付けていますね。
瀧口:その配管や手スリ、柵といったものは、 模型としてどのように工作しているのでしょう か?
MAJIRI:ほとんどの工作は加工性に優れ、種類も多い紙素材がメインです。レーザーカッティングマシーンを取り入れてから、手スリや柵などの細かな工作も均質に綺麗に切り出すことができるようになったので、主に平面の素材を組み立ててできるものはCADで図面を製作して、レーザーカッティングマシーンを使って切り出しています。そのほか電線は真鍮線をハ ンダで留めて工作していますね。
▲箕面線のホームに停車する8000系電車。ホームとその柵はレーザーカッティングマシ ーンで自作したもの。
瀧口:MAJIRIさんの作品には屋上や建物の裏側にエアコンの室外機などが再現されていますが、これはどのように作られているのでしょう か?
MAJIRI:箱状や例えばゴミ入れのポリバケツのような塊状のものは3Dプリントで製作しています。室外機など普段は目に付かないものですが、建物の屋上や裏側には無数に設置されていて、窓の数と同じくらいあるもので大量に必要ですから、3Dプリントで製作するのが一番向いているものの一つですね。
瀧口:作品を見てみるとフェンスも至る所にありますが、これも自作のものでしょうか?
MAJIRI:網状のものは、いま手元にあるどの機材でも向いていないので、さかつうギャラリーさんやモーリンさんのエッチングの既製品を使っています。
瀧口:そのほか大きな建物などはどのように製作されていますか?
MAJIRI:これはレーザーカッティングマシーンでケント紙を切り出して、組み立てています。 ただ建物に限らず、屋外にあるすべてのものは風雨で薄汚れてくるので、ウェザリングも必ずしています。
▲現在MAJIRIさんが使用している撮影機材。SONYのミラーレ ス一眼「α6400」とオリンパスの「TG-6」とスマートフォン。
瀧口:撮影機材の話に戻りますが、今現在もスマホオンリーなんでしょうか?
MAJIRI:実は最近はミラーレス一眼カメラや、 自動でピント合成をして手前から奥までピントが合っている被写界深度の深い写真が撮れるオリンパスのコンパクトデジカメTG-6なども使っています。それと屋外撮影も、悪天候が続くとどうしても撮影できない日が続くので、打開策として大型液晶モニターに青空を映し出して背景とする方法も採っています。液晶であればいろいろな雲の形や、曇り空、夕焼けも表現 できるので、最近は必要に応じて機材を使い分けるようになりました。
▲大阪環状線の大正駅ジオラマ。太陽光で撮影することで、 「本物」らしい影が現れた。 写真:Cityscape Studio
ディテールにこだわる情景を数多く製作したMAJIRIさん。今後は3Dプリントで製作した情景小物の販売など、インターネット通販を使って販売を順次展開していくことも考えているとか。場合によっては「動 画で見たあの建物がわが手に」、なんてこともあるかもしれませんね。
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今回で6冊目を迎えた「スーパーリアル 鉄道情景」。前回のvol.5から1年半が経ち、その間にも情景工作におけるスーパーリアリティを求める流れも少しずつ変化し、3Dプリンタをはじめとしたデジタル機材の導入がより一層進んだように思います。今から30年ほど前、パソコンの高性能化と低価格化が実現し、急激に一般家庭に広がっていったように、3Dプリンタの高性能化と低価格化も、一般モデラーにとっての購入のハードルを一気に下げ、そして工作室へ浸透し始めています。
今回はそんな3Dや緻密な工作技術をを活かして作られた作品のみならず、リアルな情景製作のための基礎知識や技術も紹介。Nゲージレイアウト・ジオラマの世界が広がる1冊になっています。