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特急車2世代3種類が製品化!時代で変わるプラレール製品の進化を「アーバンライナー」を例に迫る。

2022.11.04

text & photo:なゆほ

 60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ新連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回は代々製品化され続けた近鉄の看板特急である「アーバンライナー」のプラレールでの変遷を見ていこうと思います。同じようで大きく進化が見られるのがポイントですよ!(編集部)


 近畿・東海地方という幅広い地域に路線網を持つ日本最長の私鉄である近畿日本鉄道、通称「近鉄」。その巨大で長距離なネットワークを持つ近鉄には多くの特急電車が走っています。その中でも、近鉄名古屋から伊勢中川を経由して大阪難波に至る名古屋線と大阪線の両線を走り、停車駅の少ない特急である「名阪甲特急」で運行されていたアーバンライナーは、長い間近鉄の看板特急として君臨していました。
 近鉄特急はプラレールでも多数製品化されており、1988年にデビューした21000系と、2003年にデビューした21020系もそれぞれプラレールになっています。今回はこのアーバンライナーの進化と、プラレールの技術の向上の両方に焦点を当てていきます。

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■実はかなりシンプルな作りのプラレール「アーバンライナー」

 1988年3月18日に名阪甲特急「アーバンライナー」として華々しくデビューを飾った21000系。二階建て車両を連結した「ビスタカー」や、車内で軽食を提供する「スナックカー」など、長距離特急に相応しい優秀な設備を備えた車両が幅を利かせていた近鉄特急ですが、その塗装はオレンジ色に紺色の二色塗りが長らくスタンダードでした。その中に颯爽と現れた21000系は、従来の印象を吹き飛ばすかのような真っ白な車体にオレンジのライン、そして流線型の前面で登場し、当時のレイル・ファン、また鉄道業界にも大きな衝撃を与えました。

 同時期のプラレールに目を向けてみると、1987年に動力ユニットの刷新が行なわれ、スイッチが車体下から屋根上に移動したいわゆる「新動力」が開発されたばかりの時期でした。アーバンライナーの誕生と時をほぼ同じくして、プラレールも新時代に入ったと言えます。

▲プラレールの「アーバンライナー」三種。21000系原型、リニュール車「plus」、21020系「next」が製品化されている。

 1987〜88年頃は、他の私鉄でも新型特急車両が立て続けにデビューしており、関東では小田急10000形ロマンスカー「HiSE」(1987年12月)、中部では名鉄1000系「パノラマスーパー」(1988年7月)が私鉄特急に新たな風を吹かせていました。
 玩具メーカーとしても、これらの新型特急を早速プラレールに落とし込みたいところだったと思います。当時のデザイン傾向だったのか、偶然にもこの3系列は全て白い車体に帯を入れているという面で共通していました。つまり、プラレールにするにあたっては樹脂の成型色を共有する事が可能になります。それぞれに専用の金型を起こしてもいいが、どうにか共通化ができないものか… メーカーがそう考えたかは不明ですが、結果的に側面に一切モールドがなく屋根にクーラーを付けたのみ、先頭後尾の前面部を入れ替えるだけでモデルを変える事ができる共通の金型が起こされました。そして1989年5月から7月にかけて、この金型を使った「ニューロマンスカー」「近鉄アーバンライナー」「名鉄パノラマスーパー」が発売されました。

 この共通金型のエピソードにはいずれ触れるとして、今回の表題通りアーバンライナーを見ていきます。

▲1989年6月20日に発売された「近鉄アーバンライナー」。特徴的な先頭部が別パーツで作られ、更にパンタグラフの有無で作り分けられている。

 流線型の前面を取り付け、窓と帯をほぼすべて印刷で表現したアーバンライナーの初代製品です。車体は小田急・名鉄と共通とするため、パンタグラフの無いシンプルな形状になりました。そのため、21000系を含む近鉄特急車の特徴でもある「前パン」は先頭部パーツに装備されています。対して後尾車の先頭部パーツにはパンタグラフが無く、モ21100形(難波方先頭車)とモ21600形(名古屋方先頭車)を簡単な差分で作り分けています。

 その先頭部もよく見るとものすごくシンプルかつ上手くデフォルメされており、曲面ガラスは黒いクリアパーツで表現し、実車では前面の帯上にある標識灯・尾灯が省略されています。またこれもデフォルメの都合なのか曲面印刷技術上の問題なのかは不明ですが、前面窓周りにある細いオレンジのラインも省略されています。また、実車では連続窓となっている側面の窓は3分割されており、印刷で表現するとのっぺりした印象になりそうなところをプラレールらしくアレンジした工夫が見られます。

 この「近鉄アーバンライナー」は1994年のパッケージ更新を経て、2003年に絶版になるまで14年間ラインナップに載っていました。絶版と同時に、実車のリニューアルを反映した「近鉄アーバンライナープラス」として再発売されます。

■実車同様にリニューアル

▲2003年11月27日に発売された「S-38 近鉄アーバンライナープラス」。既存の型を使っているものの、細かなディテールが増えている。

 21000系はデビューから15年が経った頃、乗客のニーズも変わってきており、リニューアルの時期を迎えていました。このリニューアルでは塗装はもちろん、車内設備や側面の見た目も変わり、同時期にデビューした21020系「アーバンライナーnext」に合わせた装いで登場しました。

 一方、プラレールも再び変革の時期を迎えます。新動力の登場から12年が経過した1999〜2001年頃にかけて、プラレールでは鉄道事業者限定品の発売や新型車両の製品化が相次ぎます。そして塗装・造型技術の更なる向上によって、今までは簡素な塗装や作りだった既存のラインナップが新製品と比べて見劣りするような事態が起きてしまいます。
 これを機に製品の完全リニューアルが行われ、2002年7月の新幹線一斉リニューアル発売を皮切りとして、2003年12月までに既存の通常ラインナップを全て絶版にしてディテールアップを施した上で再発売するという形が取られました。同時に品番が制定され、通常の3両編成ラインナップには「S-◯◯」という品番が付くようになりました。
この流れの中で、2003年11月27日に「近鉄アーバンライナー」が実車の更新に合わせた「S-38 近鉄アーバンライナープラス」として再発売されます。

 「アーバンライナーplus」は車体形状が大きく変わるようなリニューアルではなかったため、プラレールにするにあたって金型変更の必要がほとんど無いというのは好都合だったと言えます。さらにモールドのない共通金型で製品化されているため、印刷・塗装を変え、ステッカーを追加するだけで実車を再現できるという偶然が重なりました。こうして発売された「近鉄アーバンライナープラス」は、1989年の発売時からは想像も出来なかったリアルな外観となって再び店頭に並んだのです。

■やっぱりラインナップに欲しい新型車両

 鉄道車両のリニューアル工事は編成の長期離脱を伴います。通勤車や編成数の多い特急車なら1本2本離脱しても問題は少ないと思いますが、近鉄アーバンライナーは名阪ノンストップ特急を担う重要な電車であり、同時に「アーバンライナー」という近鉄の看板商品でもあります。それを減便させるわけにはいきません。この問題に対処するため、近鉄は2003年に新型車両21020系「アーバンライナーnext」を2編成デビューさせました。

 子供向けの鉄道おもちゃであるプラレールとしても、新型特急車は逃してはならないモデルです。plusの発売から遅れること約半年、2004年6月17日に「S-48 近鉄アーバンライナーnext」が発売されました。

▲成型技術の進化に加え、近鉄の新型看板特急ということもあり、21020系専用の金型が起こされた。

 特徴的な前面形状、スカート、床下機器、側面はもちろん屋根のクーラーも完璧に再現され、素晴らしい出来となった「アーバンライナーnext」のプラレール。これによってプラレールで二世代のアーバンライナーが揃いました。この「next」は9年間発売され、2013年にS-48を「しまかぜ」と入れ替える形で絶版となりました。

■近鉄唯一の限定品も「アーバンライナー」

 近鉄のプラレールはアーバンライナーのほか、「ビスタカー」「伊勢志摩ライナー」「しまかぜ」「ひのとり」が製品化されており、私鉄の中ではかなりプラレールに恵まれている会社です。そのためか、他の私鉄各社と比べると限定品を発売することがほとんどなく、2007年に1つ発売されたのみです。
 2007年に近鉄が開催した「近鉄特急60周年サンクスキャンペーン」で、伊勢志摩ライナーとアーバンライナーnextにラッピングが施されました。このうちアーバンライナーnextがプラレールで製品化されました。これもなかなか拘りの逸品となっています。これは先頭後尾の前面のキャンペーンロゴと側面のイラストを印刷で、中間車のロゴはステッカーで表現したもので、2007年10月13日に6000個限定で発売されました。通常品との差異はこの程度ですが、これは!と思える表現が1箇所あります。

▲緑色のデラックスシートのロゴがドア上に移設されている60周年記念ラッピング車。実車ではラッピング解除後に元の位置に戻されている。

 その拘りというのが、後尾車にあるデラックスシートのロゴの位置。側面のイラストが乗務員扉と乗降扉の間にあるデラックスシートのロゴに干渉してしまうため、ラッピング期間中のみドア上に移設されていたのを抜かりなく再現しているのです。些細なところですが、近鉄の特急に対する姿勢が見られますね。

 そんなアーバンライナーですが、2021年2月13日をもって名阪間ノンストップの甲特急の座を「ひのとり」に譲り、現在では停車駅の多い名阪乙特急や、名古屋と宇治山田・鳥羽・賢島などを結ぶ名伊特急などで幅広い活躍をしています。
 ですが、実車の活躍に反して、プラレールの「S-38 近鉄アーバンライナープラス」は2008年に、「S-48 近鉄アーバンライナーnext」は2013年に絶版となっています。2018年には「僕もだいすき!臨時列車シリーズ」のひとつとして「next」が再販されましたが、これは一発のみの全国流通品であるために現在では入手困難品です。

 時代の流れにより誕生し、実車とプラレールのリニューアルが偶然重なり19年間のロングセラーとなった21000系。そのリニューアルによって生まれ、9年間発売され続け、限定品で二度も発売された21020系。再びプラレールの世界に出てくることはあるのでしょうか。

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※掲載している車両は全て絶版になっています。

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