text & photo:なゆほ
60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ新連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回はプラレールの記念すべき初代製品である「プラスチック汽車」にクローズアップ。過去2回も復刻版が発売されたこの記念碑的な製品について詳しく紹介していきます。(編集部)
プラレールがいつ頃発売されたかご存知でしょうか?なんと2022年現在から数えて63年前、1959年です。今でも店頭に並び、子供に絶大な人気を誇る鉄道玩具には長い歴史があるのです。
では、初めて発売されたプラレールはどんな車両だったのでしょうか?実はこれが意外にも架空の車両からスタートしています。その車両というのが、小ぶりなタンク機関車に貨車が4両という、1959年当時はまだ日本各地で現役だった蒸気機関車の貨物列車です。商品名を「プラスチック汽車」といい、当時はまだ一般的だったブリキのおもちゃに対してプラスティック製品である事を強調したネーミングで発売されました。ちなみに動力は無く、手転がしで遊ぶ方式でした。
▲これが「プラスチック汽車」の発売当時の現物。赤い機関車に青い貨車の組み合わせはいかにもおもちゃという佇まい。
↓長年愛される初代プラレール「プラスチック汽車」の画像一覧はこちら!↓
機関車は特にモデルが指定されていないように思えるフリーランス型。想定されているのはタンク機でしょうか。貨車は有蓋車・無蓋車・木材車・タンク車と、貨車として基本的な型を揃えています。機関車の前後に連結器が付いており、牽引・推進・逆機と、手転がしだからこそ出来る遊び方もあり、子供の想像力を働かせる事ができるようになっています。
発売当初は金属の連結器を備えていましたが、生産途中から今に通じるプラスチック製の連結器を装備するようになりました。動力化される前から既に今のプラレールの原型が出来上がっていたのです。
この「プラスチック汽車」は記念すべきプラレールの第1号製品という事もあり、過去に2度も復刻されています。今回はその「復刻版プラスチック汽車」を比較し、時代ごとの復刻に対する情熱を見ていきます。
プラレールが誕生してから40年を迎えた1999年。この年はおもちゃの周年記念としては異例とも思える盛り上がりを見せ、イベント開催はもちろんのこと、製品でも復刻品ラッシュとなりました。ちょうどその時に復刻されたのがこの「プラスチック汽車」です。初代とは異なり、動力を搭載した電動車として復刻されました。
▲時代に適応した完全新規造型だが、可愛らしいフォルムは健在。
電動車にするにあたり電池とモーターを入れる必要がありますが、元々がかなり小ぶりの車体であったためにモーターを積む余裕がなく、当時の形状のままの復刻とはなりませんでした。そこで機関車にモーターを積み、有蓋車に電池を入れるという方式が取られています。また、貨車は現代に合わせて少しガッチリめに造型。台車には当時発売されていた貨車の共通台車を使っています。
機関車はモーターを搭載しているため、初代に見られたいわゆる「抜き窓」は採用されず、シールで窓を表現するようにアレンジされました。先頭部の連結器は装備されず、車体色と同色の飛び出した板のようなモールドとして再現されています。
▲「アニバーサリーアルバム」で復刻された黄色い仕様。同梱されているのは1961年に発売されたプラレール初の電動車「電動プラ汽車」だ。
1959年の発売当初は、他のおもちゃらしくカラーバリエーションがあり、黄色いものも存在していました。なんとそれもしっかり復刻されています。黄色いバージョンはプラレールのファンクラブ限定(現在は解散)で発売された「アニバーサリーアルバム」で40年ぶりに登場。機関車の色が反転し、貨車は黒い台車に黄色い車体といったシックの色合い。有蓋車も黒い台車となっており、ちょっぴりリアルさが増しているのが微笑ましいです。こちらは初代の黄色いバージョンがあまり出回っておらず、この復刻品も限定発売のものなのでレアものとなっています。
続いて、プラレールが60周年を迎えた2019年に発売された復刻版を見ていきましょう。
20年ぶりに復刻されたプラスチック汽車は、プラレールファンを大いに驚かせました。なんと前回とは異なり、初代の寸法をそのままに再現した正に復刻版として登場したのです。先頭部の連結器もしっかり装備され、初代と同等の遊び方ができるようになっています。そして特筆すべきは、これでも動力付きの編成であるということ。
▲動力は2両目の有蓋車に搭載され、機関車は推進される形となった。動力を積んだ結果、有蓋車の車体が大型化したのはご愛嬌。また、40周年復刻版と60周年復刻版を背面から比較するとサイズの違いが分かる。
40周年の復刻品とは異なり、2両目の有蓋車を動力車とし、機関車が推進される形になったのが60周年復刻品の特徴です。そのため、推進運転用に特殊な連結器を装備しています。時代の流れに即して、電池を入れる有蓋車のカバーはネジ留めになっています。前述のように、この方式を取ることで機関車を初代と同様の寸法で再現することができました。初代を忠実に再現した機関車を見ると、レールの幅に対してもかなり小ぶりである事が改めて認識できます。
続いて貨車を比較してみましょう。見た目はほぼ同一ですが、20年の時の流れを感じさせる改良が加えてあります。
▲貨車たち。それぞれ40周年復刻版と60周年復刻版を並べてある。タンク車などほとんど同一のようだが、よく見ると20年の差が感じられる。
60周年復刻版の貨車は40周年のものとほぼ同一ですが、再復刻にして際して改めて設計され、所々異なる箇所が見られます。
有蓋車を除いて最も変更が加えられた貨車が木材車です。初代製品では四隅にある棒のみで丸太を抑えるシンプルな構造でしたが、40周年版ではその棒を太くした上に車体前後と両側面上にストッパーが追加され、電動走行をした際に丸太が落ちにくいように改良されています。そして60周年復刻版ではそのストッパーが更に大型化され、四隅の棒も太くされています。丸太の色も異なり、40周年版は焦茶色、60周年版は少し明るめの茶色となっています。初代製品の丸太は本物の木材を使っていて、正に木材と言った明るい色だったため、60周年版は初代のものに寄せたものと考えられますね。
さらにこの20年間にプラレールの樹脂の素材が変更されているため、60周年復刻版では車体の光沢が増しています。このタンク車ではモールドが強調され、ディテールがよく見えるようになりました。
また、1999年当時はまだラインナップにあった「貨車用の台車」ですが、20年の歳月を経てそのほとんどが絶版となってしまいました。そのため、60周年復刻版では新設計の台車になりました。車輪がネジ留めとなったことにより、台車の破損による車輪の脱落や、破片による怪我の恐れも減り、安全性が向上しています。底面もほぼ平面となり、スッキリとした印象を受けます。
同じ製品を二度復刻したことで、図らずともプラレールの開発に対する姿勢や、おもちゃ業界の安全性への対策も見えてきました。今後来たる70周年、80周年ではどのような製品が出るのでしょうか。今からも楽しみなロングセラー玩具のプラレールです。
さて、発売当初の1960年代頃のレールを使い、ちょっとしたジオラマを組んでみました。1960年代のレールに1999年と2019年の車両を乗せても全く違和感がないのがプラレールの素晴らしいところです。鉄道おもちゃの王として君臨するとも言われるプラレール。元を辿るとこんな小ぶりな「汽車のおもちゃ」から始まっているのも、なんだか感慨深いですね。
※掲載している車両、レールは全て絶版になっています。
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