text & photo:なゆほ(@Nayuho6866)
60年以上の歴史があり、長年子供たちを中心に愛されている鉄道玩具の「プラレール」。近年は子供向け製品だけでなく、その親世代をターゲットにした製品も徐々に出てきている印象があります。そんな中プラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん に今回は特別ゲストとしてお越しいただき、長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回は顔を変えるだけで大変身するプラレール車両のデフォルメ術に迫っていこうと思います。(編集部)
実在の車両を基に作られるプラレールの設計には、大まかに二通りの方法があります。まずはその車両専用の金型をイチから設計する方法と、もう一つが1個の金型から塗り替えやパーツ変更で実在車両に似せる方法です。前者は個性的な形状から車体の流用が難しい特急型や、近年の通勤電車などに多く見られます。後者はプラレール初期から多く見られた方法で、よく知られるところでは実車が4扉車の205系と、3扉車の211系が同じ金型を使用している例があります。今回はこの後者の方法に焦点を当て、前面とカラーリングを変えるだけで全くの別形式に仕立てるプラレールのデフォルメ術に迫っていきます。
■銀座線01系と丸ノ内線02系
2017年に引退した東京メトロ銀座線01系と、現在その数を減らしつつある丸ノ内線02系。この両形式は車体幅も車体長も異なり、似た設計思想を持つとは言え、別の電車です。01系は2007年に、02系は2008年に製品化され、東京の地下鉄をプラレールで再現できるとあり人気の商品となりました。
▲前面に東京メトロの「ハートMマーク」が付いているのが少し懐かしい。02系前面はB修初期の赤一色帯の姿だ。
角ばった顔の01系と、丸みを帯びた02系の前面形状が上手く作り分けられています。子供達のみならず、プラレールファンをも唸らせた逸品ですが、車体は全く同じものを使っています。
●01系なのに3連窓?
▲窓モールドが入らない車端部の窓とドア窓は開口している。
実車の01系の客窓ガラスは2枚、02系は3枚で構成されています。ですがプラレールでは01系の方が先に発売されたものの、窓は02系などに見られる3枚構成のモールドが入り、プラレールファンの間で「塗り窓」と呼ばれる窓を開口せずに塗装表現とする方式がとられました。
こうすることで、窓モールドで雰囲気を出しつつも、塗装によって外見の差を目立たせずに車体の共通化を行ない、さらに開口部を減らすことで子供が指を入れて怪我をしてしまう恐れをも排除できます。おもちゃにとってはまさに一石二鳥のデフォルメと言えるでしょう。
実物と窓枚数が異なり「これじゃ似ても似つかないのでは…?」となるかもしれませんが、帯が違うだけでもちゃんと01系と02系に見えます。このように機能と見た目を両立させるプラレールならではのデフォルメは目を見張るものがあります。
■似ているのはクーラーだけ?東西の「8000」流用車体
▲2002年発売の「阪急電鉄8000系」と2005年発売の「小田急8000形」。
ここまで同じ会社の別系列の例を紹介しましたが、次は実車の形状かなり異なる共通車体の例を紹介します。それがこの阪急8000系と小田急8000形。どちらも1980年代デビューした電車で、形式の数字こそ同じですが、そもそも別の地域を走る全く別の車両です。色や車体幅だけでなくドア数すら違います。それなのに、プラレールでは同一の車体を使って製品化されています。詳しく見ていきましょう。
▲「額縁スタイル」と呼ばれた阪急8000系の特徴的かつ精悍な顔立ちをプラレールでも的確に表現している。
この金型が初登場したのは阪急電鉄限定品として2002年に発売された「阪急電鉄8000系」でのことで、設計には阪急の乗務員も関わったという拘りの製品です。プロトタイプとなったの第1編成である8000×8R編成。顔の造型は素晴らしく、特徴的な額縁の形状がリアルに再現されています。
実車の独立した3つの窓は2つにデフォルメされているものの、窓枠のモールドがしっかり銀色に塗装されているのがポイントです。屋根には分散クーラーを3個(中間車は2個)搭載しています。実車ではパンタグラフを2個搭載している大阪梅田方先頭車のTc8000形ですが、プラレールでは省略されて中間車に1個搭載する形にデフォルメされています。
●車体が共通になった背景を考える
▲小田急8000形。阪急8000系にはまるで似ていないが…?
2000年代初頭となると、私鉄各社による自社車両のプラレール化が盛んでしたが、そのほとんどは前述した211系など既存の通常ラインナップ製品を塗り替え、あるいは前面だけ新規パーツを製作したものでした。が、阪急が前面どころか独自の車体をイチから設計したのは各社にとっては衝撃的だったでしょう。
▲貫通路上部の手すりは塗装で再現され、通過標識灯がブラックフェイスにアクセントを加える小田急8000形。行き先は「急行 新宿」となっていて、車番は省略されている。
そんなオーダーメイドだった阪急8000系の金型ですが、今まで通勤型で分散クーラーの表現がある製品がプラレールには無かったこともあってか、2003年に小田急がこの阪急車体を利用し「小田急2600形」を発売しました。裾絞りもなく窓の形状も全く異なるこの車体ですが、意外にもこれがアイボリーにブルーのラインを入れることで小田急の電車らしく見え、2005年発売の8000形でも同様に採用される事になります。顔と色を変えるだけで別の車両に変身するのもプラレールの魅力の一つとも言えるでしょう。
▲窓枠の塗装がされていないだけで大幅に印象が変わる。
ちなみに東武鉄道も同じくこの阪急車体を使って「東武8000系」を発売しています。私鉄3社が相次いで採用した事で、ファンの間では「私鉄金型」と呼ばれています。登場年も走行線区も車体も全てが異なる私鉄3社の「8000系(形)」が同じ金型で製品化されるというのがまたプラレールの面白いところです。
ですが2005年頃から、今まで既存の金型を使ってきた私鉄各社も自社車両専用の金型を起こすようになり、このような別会社が共通の車体を使うことはほぼ無くなりました。金型が豊富ではなかった事業者限定品の黎明期だからこそ見られた技だと言えるでしょう。
※記事で紹介した製品は全て絶版となっています。
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