製作・本文・写真:内田裕希

名古屋を中心に様々な路線網を有する名古屋鉄道。かつては岐阜を拠点に揖斐や谷汲、美濃を目指す支線群も有しており、それらは他路線より低電圧の600Vであったことから「600V線区」と称されていました。2001年に廃線となった谷汲線は、特に風光明媚な路線としてレイルファンから人気の路線でした。
今回はその谷汲線の中で桜の名所として知られた更地(さらぢ)駅のNゲージミニジオラマを製作することにしました。
■地面・線路廻り

今作はディスプレイケースに収まるサイズで製作しました。レールはKATOのフレキシブルレールを使用し、両端にTOMIXのジョイントレールを繋げて拡張性を持たせました。ローカル線らしい薄い道床を再現すべく、線路以外の部分をt3.0のスチレンボードでかさ上げ。バラストは小さめのKATOの細目バラストを使用。ローカル線らしい色合いとなるようきつめにウェザリングしてあります。
地表面となる部分はアクリルガッシュで下塗りした後、暗色→明色の順にパウダーを散布してからフラットアースで色調を整え、その上からターフを同様に暗色→明色の順に散布しています。ターフは4色を使い分けて春先らしい淡い色合いにしました。
駅横の道路はプラ板を素地としてエアブラシでシェイディング(陰になる部分に濃い色を乗せる技法)にトライ。Nゲージのスケールだとアスファルト舗装は塗装で表現するのがぴったりと思っていましたが、質感表現にはまだ改善の余地がありそうです。
■樹木・ストラクチャー

今作のキーポイントとなる桜の木はKATO製品を使用しました。そのままだと花弁がすぐ散ってしまうのでスプレー糊を吹いて固着させています。
駅のホームはプラ板や真鍮線から自作しました。少し前の名鉄の駅で多く見られた橙色をしたテント状の屋根を再現するため、t0.14のプラ板を橙色に塗装し、Φ0.8の真鍮線で組んだ柱に細い銅線で括り付けました。ホーム上のベンチやゴミ箱、駅名標もすべてプラ板や真鍮線から自作。駅名標にはパソコンで編集・印刷したシールを貼付しました。
ローカル線らしい木製架線柱もプラ棒から自作。筆塗りで木の質感を表現し、自作シールによる標識類と、真鍮線から作成した架線と電線を取り付けました。架線は走行の際に邪魔にならないよう簡単に取り外しできる構造にしています。
駅のジオラマとなると人形類を配置したくなるところですが、今作では桜咲く無人駅に発着する赤い単行電車という光景に重点を置きたかったので、敢えて人形などは配置していません。
■撮影について

持ち運びが容易なミニジオラマなので、屋外で行いました。谷汲線と似たような風景を求めて山間の風景を借景としています。3月末に撮影を行ったのでターフ類と背景の色のバランスが非常によく、自然光も相まって実感的な写真になりました。
■おわりに
名古屋近郊の名鉄沿線に住む私にとって、同じ名鉄線でも岐阜の山奥を走る谷汲線は遠隔の地でしたが、祖父に連れられて川遊びに言った折に谷汲線の電車を見る機会がありました。森の中や川沿いをたった1両で走る赤い電車は近場で見る電車とは趣を異にする不思議な魅力があり、幼い頃からずっと忘れられない存在でした。
今日では検索サイトや動画サイトの普及により廃止された路線でも現役当時の写真や動画を気軽に見られるようになりましたが、三次元的に当時の雰囲気を感じることができるジオラマは写真や動画とは一味違う魅力がある楽しいもので、製作を進めるにつれて当時の記憶が蘇ってきました。過去と現代を繋ぐことができる今作のような“模景”を今後も機会を見つけて作っていくことが出来れば…と思っております。
- 線路まで覆いそうな桜の木をかすめて、久しぶりに丸窓電車のモ510がやってきた。
- 満開を迎えた桜とは裏腹に、電車を待つ乗客は誰一人いない更地駅。小さな電車はしばらく停まり、何事もなかったように駅を後にした。
- 午後の光の中、谷汲線の主であるモ750が到着。コンコンコンと床下のコンプレッサーの駆動音が、静まり返ったあたりに精いっぱいの喧騒を与える。
- 桜の樹木はKATO製にスプレー糊を吹いて花弁を固着させてある。華奢な木製架線柱はプラ棒に塗装で木目を再現。
- 名鉄の特徴ともいえる橙色をしたテントは同線で括り付けている。大手私鉄の一路線であることをうかがわせるC.I.ロゴ入り駅名標共々、自作のアクセサリー。
- ローカル線らしくやせた道床を表現するため、バラストは細目のものを使用。長い年月の間に染み付いた錆と油を再現するため、きつめのウェザリングとしている。
- ジオラマのベースはL340×W130×H135mmの市販のディスプレイケースを利用している。










