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特集・コラム

元祖ダブルデッカー車両は実は路面電車だった 短命に終わった日本最初の二階建て電車

2026.02.01NEW

text:RMライブラリー編集部

 「二階建て電車」といえば、半世紀ほど前では近鉄のビスタカーが有名でしたが、今や首都圏の一般型電車に連結されたグリーン車を含め、各地で見られる存在となりました。

 それでは日本で最初の二階建て電車はどこに誕生したものなのか…。その始まりはなんと、大阪の路面電車でした。

      

▲この写真の車両は、1953(昭和28)年の大阪市電創業50周年を記念して創業時の「二階付電車5号」を模して製造されたいわばレプリカで、パレードや花電車として運行できるよう動態で復元している。当時との架線高さや集電方法の違いなどから、二階部分は新製当初より縮小されている。

1993.7.28 緑木検車場(市営交通90周年記念イベント) P:宮武浩二

 

大阪市電を運営していた大阪市交通局の前身である大阪市電気局では、市電最初の路線として1903(明治36)年に築港線花園橋(西詰)~築港桟橋間を開業させました。軌間は標準軌(1,435mm)で、これは国内で最初に標準軌を採用した大師電気鉄道(現在の京急電鉄)用として貿易会社が輸入していたドイツ製の台車を転用したため、といわれています。

 

▲絵葉書「大阪二階付電車」(1904年)。開業当初に3両が造られた二階付電車のうち1両で、架線高さが非常に高く、ポールが屋上ではなく前後に設置されているのがわかる。

所蔵:宮武浩二

 新たに誕生した大阪市電の目玉が「二階付電車」でした。ロンドンなど海外ではすでに採用例があった二階建ての路面電車ですが、大阪市電では開業当初に用意された電車10両のうち実に3両(5・9・10号、後に改番で5・4・3号)がこの二階付電車であったといいますから、その意気込みが伝わってきます。

 ただ乗客には物珍しさから好評であった反面、沿線からは家の中が覗かれると不満も寄せられていただけでなく、運行面からも次のように扱いにくいものでした。

・台車の軸間距離が短く安定性がよくない

・車両の動揺が大きく、熟練した乗務員でないと運転ができない

・両先端の運転台上に設置された集電用ポールの取り扱いが困難

 (振動、折損、雨天時の汚濁水流入など)

 さらに決定的なことに、二期延伸路線からは架線の高さが下げられることになり、既存の築港線もその寸法に合わせることから二階付電車の運行は不可能となり、1911(明治44)年に松山電気軌道(現在の伊予鉄道の一部市内線)に譲渡されることになりました。これが、大阪市電からの最初の他社への譲渡車両となりました。

▲大阪市電二階付電車をルーツとし、松山を経て能勢電で使われたドイツ・ヘルブランド製台車は、2003(平成15)年の「大阪市電100周年」の年に大阪市交通局に里帰りした。

2009.3.6 緑木検車場 P:宮武浩二

 しかし譲渡先の松山では二階付電車としての出番はなく、堺市の梅鉢鉄工所で2両を電動貨車に改造されての旅立ちとなりました。残る1両は二階付電車のまま松山に送られたものの、足回りを外して三津浜の海水浴場に展望台として設置されることになりました。

 そのうち電動貨車は能勢電気軌道(現在の能勢電鉄)に譲渡されて有蓋電動貨車105号として改造され、その廃車後に台車が宝塚ファミリーランドに展示されました。しかし同園の閉鎖を機に貴重な大阪市電開業時の遺産ということで大阪市に返還され、現在は大阪市交通局改め大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)の緑木検車区で保管されています。

▲動態保存の二階付電車5号は、本来のヘルブランド製ではなく他の単台車を使っての復元となった。架線高さや集電方法の違いから二階部分が縮小され、残念ながら二階への乗車は不可能となった。

P所蔵:宮武浩二

 大阪市電初の他社譲渡車とはなったものの、二階付電車というその最大の特徴をわずか数年しか生かすことができなかった不運な電車でした。100年余り経過した現代、首都圏の近郊路線の大半に二階建て電車が連結される時代が来ることなどと、誰が想像したことでしょう。

 

 

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 1903(明治36)年に開業、大阪市内にくまなく路線を拡大した大阪市電。今回の二階付電車に始まった他鉄道への譲渡は実に300両以上におよび、国内では関東から四国・九州に至るまで、さらに一部は満州にも渡って活躍しました。

 本書では、明治末期から1969(昭和44)年の市電全廃までの車両の譲渡記録の中から、明治期の1910年代から戦後の1940年代までについて、その種車も含め解説します。

 2026年2月刊行予定の308巻(晩年期編)では高度経済成長期を迎え、廃線が進められた晩年期の譲渡車について紹介します。

■著者:宮武浩二(みやたけ こうじ)

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■定価:1,430円(本体1,300円+税)

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