text & photo:なゆほ
60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回は少々変わり種の中国で発売されていたプラレールについてご紹介します。もちろんトミー公認製品で「陪樂兒(ペイラーアル) 火車世界」という名称が与えられていました。その車両の見た目は形こそ日本型ですが、かなり奇抜なカラーリングをしていました。(編集部)
【写真】中国で売られていたプラレール 知られざるその細かい違いを写真でもっと見る!
以前の連載で紹介した、奇抜な見た目が目を引く中国で発売されていた「陪樂兒(ペイラーアル) 火車世界」。中国には1997年に進出、日本国内のプラレールでは既に絶版となっていた「レッドアロー」「ビスタカー」「ディーゼル特急」の3車種が選ばれ、実車とはかけ離れた独特のカラーリングが施されました。車両単品が6種、セットが3種、そして情景部品の単品売りが少々と、あまり展開することなく翌1998年には早々に姿を消してしまった「陪樂兒 火車世界」ですが、その中でもセット品に関してはプラレーラーの注目の的となる仕様で発売されていたことが特筆できます。今回はそのセット品の車両についてご紹介します。

▲「陪樂兒 火車世界」のセット品車両。単品とは異なり実車に準じた色をしているが、よく見ると…?
「陪樂兒 火車世界」はメーカーが直接生産したものではなく委託生産となっており、ブランドこそ本家プラレールですが、箱デザインや内箱の構造などは独自のものとなっています。「レッドアロー」「ビスタカー」「ディーゼル特急」はそれぞれ「先行號」「美景號」「力獅號」と命名されています。命名について明確な理由は判明していませんが、「先行號」は他の列車の先を行く特急のイメージから、「美景號」はビスタカーのダブルデッカー2階からの眺望から、「力獅號」はディーゼル特急の力強い走りを獅子(ライオン)に例えたものと推測できます。
単品のカラーリングもそれとなく実車に寄せているようにも思え、赤い車体のレッドアローは帯色から、明るいオレンジ色の車体のビスタカーは近鉄特急色からと思われますが、色味だけで言うとレッドアローと大差無いように見えてしまうディーゼル特急に関しては完全オリジナルの青基調です。もしかすると列車名から色を決めている可能性もあるのでは?と思いつつも、獅子に青いイメージは一般的ではないとも言え、正直なところカラーリングの真相は不明です。90年代当時に製造を請け負った業者の感性でしょうか。
プラレールと言えば車両単品はもちろん、セット品の展開も欠かせません。「陪樂兒 火車世界」でもセット品が1車種ごとに3種類発売されました。形態は日本国内で80年代まで展開していた「基本セット」に準じていますが、一番大型となる基本No.3セット相当のものは「立体交差セット」のレイアウトを採用しているのが特徴的です。

▲国内向けと比較するとその差は歴然だ。
セット名は先行號のものが「先行號列車」、力獅號のものが「力獅号快車」、美景號のものが「美景號旅遊快車」と名付けられています。「快車」は中国語で「急行」を意味する言葉であるため、先行號は普通列車扱い、力獅號は通常の急行列車、そして美景號は「旅遊」とある通り観光向けの急行列車として設定されているようです。
90年代後半のレールは既に2025年現在のものと同じく、レール面が車輪の摩擦ゴムと噛み合うようにギザギザしたものに改良されていましたが、「陪樂兒」では生産を行っていた現地の工場に旧式の金型を渡したと思われ、直線・曲線レールは80年代までのザラザラレールが使われています。ただし、ターンアウトレールはギザギザレールになっているなど、一定していません。1998年7月に発売された「新交通ゆりかもめセット」を始めとし、この時期の製品のうちカラーレールを採用しているいくつかのセットはザラザラレールを採用していたため、おそらく何らかの理由により現地の工場からレールの金型を返却してもらう前に利用したものだと推察されます。
車両は前述の通り、実車に近いカラーリングとなっていますが、シールの貼り付けなどはされておらず、塗られただけの姿となっています。先行號は西武ロゴが入った前面窓下の飾り帯が、力獅號は国鉄特急車の特徴である「ヒゲ」が、美景號は前面の方向幕が省略されています。
セット品の箱は完全独自の設計となり、外箱のデザインは3セットとも「2スピードつばさ号セット」の流用となっています。「2スピードつばさ」は陪樂兒では発売されていないので、少々いい加減とも取れます。
内箱の収納も変わっており、車両は樹脂被膜針金で箱に直接固定、レールや情景部品はパーツごとに内袋に入れられ、仕切りで固定されることもなくパズルのように「なるべく崩れない組み方」で入れられています。
こうしたユニークな陪樂兒ですが、冒頭で述べたように進出から生産停止までが短く、各製品とも1ロット程度しか生産されていなかったと思われ、中国国内で売れ残っているものを見かけたという話も、1998年の発見当時はあれど、それ以降は聞きません。プラレールの海外展開は中国以外にも広がっていますが、アジア向けで独自色を打ち出したのは陪樂兒の他にはあまり例がありません。
単品、セット品ともに、その物珍しさから来る人気はファンの間で今も健在です。




