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特集・コラム

懐かしの初代西武レッドアロー!そのプラレールは現代における「リアル造型なおもちゃ」の走りだった?

2025.06.21

text & photo:なゆほ

 60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回は1981年に発売された西武5000系がモデルの「レッドアロー号」のプラレールに注目。従来のプラレールとは少し異なる、リアル寄りの造形を持った製品でした。(編集部)


【写真】ちょっぴりリアルな西武5000系初代「レッドアロー」の画像をもっと見る!

 本連載でもたびたび言及しているように、1959年に「プラスチック汽車」として世に出たプラレールは、全くの架空デザインでスタートしています。実車をモデルとした製品が出るようになった後でも、帯を省略したり、架空のカラーリングにしたり、屋根を塗り分けずに車体と同色とするなど、モデルはあるにしてもあくまで「子供のおもちゃ」であることに重点を置いた開発姿勢やビジュアルが保たれていました。
 それでも、発売から20年が過ぎた1980年頃になると、当時同じトミーから発売されていたTOMIXのNゲージや「スーパーレール」の造型を取り入れ、実車を上手くデフォルメしつつリアルな造型を施した製品が開発されるようになってきます。1981年に発売された、近鉄30000系「ビスターカー」、西武5000系「レッドアロー号」、名鉄7000系「パノラマカー」がその代表的な製品たちです。今回はそのうちの「レッドアロー号」について紹介していきます。

▲1981年9月発売の「EC15 レッドアロー号」

 プラレールは1978年に車両単品の箱がいわゆる「電車箱」から「EC箱」と呼ばれるものに更新され、ラインナップが大幅に拡充されるようになりました。1978年時点では基本的に先代の箱から続投となった車両が大半を占めていましたが、1979年に入ると、既存の青い鼻の「ひかり号」に前照灯と光前頭が光るギミックを搭載した新製品「ライト付ひかり号」が登場します。さらに新設計のEF65が牽引する24系「ブルートレーン」のほか、「東海型電車」を塗り替えてスピード切り替え機能を搭載した「急行電車」、「DD-51」に続くプラレール2車種目の気動車製品「ディーゼル特急」など、内部機構と造型の両面の向上を反映した製品が多く登場します。
 こうした流れの中で、1981年に先述の私鉄特急3車種が発売されました。細部の色差しは省略されたり、帯はモールドによる造型であったり、車輪はもちろんプラレール特有の赤・黄ではありましたが、クーラー・パンタグラフなどの精巧化、屋根別パーツ化の本格採用といった、これからのプラレールの方向性を定めるかのような新機軸が色々と盛り込まれました。

▲特徴的な精巧な作りの屋根パーツ

 精巧な作りになったとは言え、そこはやはりプラレール。先頭車と後尾車はベースが同一となっているため、実車の池袋方先頭車であるクハ5500形に設置されているトイレは省略されています。中間車はダブルパンタグラフが印象的なモハ5000形です。モデルとなった形態は発売当時のもので、前面にある列車愛称サボは電照式となったものを再現しています。
 運転台窓下の飾り帯はメタリックシルバーのシールで表現され、西武5000系のデザイン上のアクセントを上手く捉えています。側面帯がモールド上にタンポ印刷で表現されていることから、マスキングによる塗装が必要となるライトケースは車体と同色とされています。細かいところでは側面扉の斜め上に設置されている号車札差し込み枠を凹モールドで表現しており、側面を見た際の全体的なバランス感をおもちゃらしく落とし込んであります。
 このように1981年当時としては他の製品とは一線を画した造型で登場した「レッドアロー号」は、同時に登場した「ビスターカー」「パノラマカー」だけではなく、小田急3100形「NSE」をモデルとしながらオリジナル塗装で生産され続けていた「パノラマ特急」を実車に準じた姿にリニューアルした「ロマンスカー」、京成初代AE形の新塗装化を反映し明るい印象となった「スカイライナー」と並び、関東・中部・関西の私鉄5社の特急電車として人気を博しました。
 1987年の動力更新の際もこれら5車種全てが引き継がれましたが、この動力更新により新製品の開発が更に活発となり、モデルとなる実車の方も続々と新型車両が登場する時期に入りました。これにより、1989年に小田急10000形「ニューロマンスカー」、近鉄21000系「近鉄アーバンライナー」、名鉄1000系「名鉄パノラマースーパー」が相次いで製品化されていきます。これに対する旧型となる車両は1991年までに絶版となり、当時はまだ置き換え前で現役だった「レッドアロー」も新型車両の登場を待たずに絶版となってしまいました。先日の連載で取り上げた「スカイライナー」も、新型AE100形が製品化されないまま同様に絶版となり、西武と京成は一時的にプラレールの世界から姿を消してしまいました。

 数ある絶版品として歴史に埋もれてしまいそうな「レッドアロー」でしたが、絶版となって久しい1998年頃、意外なところで復活を果たしていることが確認されます。それが中国国内品での販売です。
 「プラレール」を中国語に音写した「陪樂兒 火車世界」として、オリジナル塗装を施して再登場しました。商品名は「先行號」となり、セット品と単品で展開が行われています。セット品ではオリジナルに準じたクリーム色に赤い帯で、単品では赤い車体に黄色い屋根、紫帯のものと黄緑帯のものの2パターンが用意されました。「レッドアロー」以外には「ビスタカー」「ディーゼル特急」も中国国内向けラインナップに加わりましたが、中国での売れ行きはあまり上手くいかなかったようで早々に撤退。今では知る人ぞ知るアイテムとなっています。

 発売から10年で絶版となり、海外品に転用されながらも長続きしなかった西武5000系。セット品や事業者限定品で復活を果たした「ビスタカー」「パノラマカー」と比較すると少々影の薄い製品となってしまいましたが、この時に培われた車体造型技術の向上は現在の製品にも確かに受け継がれているように思えます。

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