text & photo:なゆほ
60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回は長いプラレールの歴史の中でも、意外にバリエーションが豊富な自動車運搬をする車両である「車運車」にクローズアップ。プラレールでは近くピギーバック輸送車が発売予定となっており、今も話題は絶えません。(編集部)
【写真】プラレールでは数多くのバリエーションがある「車運車」!詳しい写真はこちら!
全国的に有名な車両や、地域では馴染みがある車両、一般の人は乗れない試験車・試作車、そして通勤通学で使われる車両など、古今東西様々な車両を製品化しているプラレール。現役のものを製品化するものもあれば、実車が現役なのに絶版となってしまったもの、逆に発売時点で実車が引退しているのに製品化されたものなど、ユーザーを楽しませてくれる車種選択が魅力的です。
その中で、チョイスとしては意外ですが、「おもちゃ」として見るならどこか納得してしまう車両が度々登場しています。自動車運搬用の貨車、いわゆる「車運車」です。
かつて国鉄時代からJR初期にかけて運行されていた「カートレイン」を始め、貨車に直接自動車を搭載して輸送する貨物列車も今や過去のものですが、トミカと共に遊ばれることが多いプラレールでは、今なお製品の題材として選ばれる機会が多くあります。
▲歴代の自動車運搬用貨車たち。鉄道による自動車輸送はプラレールの世界では今なお現役だ。
まずはじめに、プラレールにおける自動車運搬について振り返ります。その歴史は遡るとかなり古く、1970年発売の3両単品「D51きしゃ」に付属した貨車が初の事例です。
D51が牽引する貨車のひとつ「車運車」として生まれ、1974年に牽引機をC12にバトンタッチ。1976年には「カーコンテナ車」と命名され1両単品の販売も開始されましたが、1978年に絶版となりました。この時に搭載されていた自動車はトミカではなく、メーカーが1970年代前半頃に発売していた全自動の自動車組み立て工場のおもちゃ「オートファクトリー」のものが使われていました。この「カーコンテナ車」は平坦な床面も持つ無蓋車スタイルで、「トキ」や「トラ」タイプの無蓋車、コンテナ車、タンク車の台枠を兼ねた形状をしています。プロトタイプは特に指定されていませんが、小ぶりな車体に自動車を1台だけ載せられるところから、おそらく国鉄シム2000形を参考にしているものと思われます。車体色はD51のものは赤、C12のものは黄でした。
カーコンテナ車の絶版から2年後、1980年に鉄道による自動車輸送では一番有名と言っても過言ではない形式、ク5000形をモデルとした「カートランスポート」が発売されました。実車通り二層式の構造をしているギミックものの貨車ですが、トミカを搭載することはできず、付属する小ぶりな自動車を載せられるに留まります。車体色は単品がオレンジ、1987年に発売された「ライト付D-51機関車」に付属していたものは青となりました。
トミカに対応する構造で開発された車運車が初めて登場するのは、1989年に発売された「のせかえ遊び貨車セット」からです。二層式を廃し、1フロアのみの構成となりましたが、その分「カートランスポート」よりも実車に近い装いとなっています。
その汎用性の高さにより、セット品や単品で複数のカラーバリエーションが登場しているほか、2025年3月現在でも「KF-10 トミカ搭載貨車」として、赤い台車に水色の車体という組み合わせで貨車の一両単品としてラインナップに載っています。
▲2025年3月現在の現行品「いっぱいつなごう トミカをはこぶぞ!EF65 カートレイン」。
1999年発売の「カートレイン」では、実際に日本各地で運行されていたカートレインのワキ10000形を製品化したものが登場しました。トミカを搭載できるものの有蓋車であるため、側面がクリア成型となり中身が見えるようになっているという、プラレールならではの遊び心が入った製品となっています。
この「カートレイン」の貨車はトミカ搭載系の車両では最も製品化の回数が多く、バリエーションも様々です。JR東海がユーロライナーの車両を使って運行していたものを製品化した「ユーロカートレイン」や、イベント限定品のクリアレッド・クリアブルー、非売品となるプラレールオリジナルデザインが施されたもの、同じく非売品でラメ入りのクリア成型のもの、そして屋根まで1両ずつ異なる色で塗り分けたEF65のセット用の5色カラーが存在します。
2000年に登場した大型情景部品となる「トミカで遊ぼう!積みおろしステーション」では、更なる新形態のトミカ搭載用の貨車「トミカ積みおろし専用貨車」が付属しました。積みおろしステーションのアームギミックでトミカを積載する遊びを実現するため、アームが干渉しないように側壁を無くしたフラットな外見となっているのが特徴的な車両です。色はク5000形と同様にオレンジ色ですが、他のセット品や限定品でカラーバリエーションがあります。
2020年に発売された「S-34 自動車運搬列車」では再びク5000形をモデルとした新タイプが登場し、従来のプラレールよりも長い車体となり、乗用車のトミカを上段3台・下段2台搭載できる意欲作となっています。そして今月15日には「S-58 ピギーバック輸送車」の発売が予定されています。こちらもロング車体でトラックのトミカを2台載せられます。車両後部には渡り板が設けられており、2両以上繋ぐと貨車の車体をトラックが定位置まで走らせられるという遊びまであるという、こちらもなかなかの意欲作です。
このように、実際の鉄道では衰退してしまった鉄道の自動車輸送が、トミカとプラレールの世界では「遊び方の一つ」として現役です。踏切や駅前ターミナル、陸橋など、トミカとプラレールを繋ぐ情景部品は多く存在しますが、鉄道による自動車輸送はまさしく「一緒に遊ぶ」ことができる理想の遊び方であると言えます。ですが、実車の事情を踏まえてよくよく考えてみると、かなりマニアックな遊び方なのではないでしょうか。
以上に挙げた実車モデルのものの他にも、トミカブランドから発売されていた自動的に自動車を積みおろすことができる「オート積みおろしカーポートセット」の貨車、同様のギミックを持ったプラレールブランド発の「パワーカーゴ」や、架空の鉄道「プラレール鉄道」シリーズでも中間車に自動車を搭載できる「スピードカーゴ」があり、現実の鉄道では既に衰退してしまった輸送方法を複数の手法で製品化している興味深い事例となっています。
「S-58 ピギーバック輸送車」の発売を控え、新たな自動車輸送が仲間入りするプラレール。トミカとタッグを組んだ今後の展開に期待です。