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モックアップをプラレール化!?実現しなかった幻の新幹線「スーパーひかり号」とは?

2025.01.10

text & photo:なゆほ

 60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回はよく「幻の新幹線」としても扱われる「スーパーひかり」のプラレールをご紹介します。この製品はプラレール史上でも珍しいモックアップでしか存在しなかった車両の製品化として、後に語り継がれることになります。(編集部)


【写真】プラレールが今に伝える幻の新幹線「スーパーひかり」 詳しい写真はこちら!

 1980年代末、新幹線の開業から二十数年が経過し、0系・100系・200系に続く新型車両の開発が検討されていました。そして国鉄末期から分割民営化直後にかけて、東海道新幹線での速度向上に向けた車両開発が具現化し、JR東海が1987年6月に次世代車両の今後のイメージを示すものとして、「スーパーひかりモデル」のモックアップを制作します。このモックアップは東京駅を始めとした東海道新幹線沿線で何度か展示されたものの、諸事情によりモックアップ通りの実現とはならず、最終的にはフルモデルチェンジ車の300系としてデビューする事になったのは有名な話です。
 この「スーパーひかりモデル」は、今までの新幹線とは全く異なる外見が絶大なインパクトを与え、多少アレンジを加えた形でプラレールで製品化されることになりました。それが今回取り上げる「スーパーひかり号」です。

▲1988年に「ぼくがうんてんする スーパーひかり号セット」で初登場。1990年には単品化もされた。こちらは単品と同仕様の「立体ステーションセット」のもの。

 「スーパーひかりモデル」は全長が短い先頭車1両だけのモックアップでしたが、3両編成が基本のプラレールで製品化するにあたり、多少アレンジが加わりました。具体的には、前照灯を100系のような細長いものに変更、モックアップの先頭部で折れ曲がっていた側面帯は直線的になり、新規に制作された中間車には「SH201」というロゴが印刷され、実物とは少しばかり異なる印象に仕上がっています。中間車は先頭車の客室部分を延長したような外見とされ、モックアップからは判断出来なかったパンタグラフ周辺の造型は省略されていますが、クーラーはしっかりと表現されています。運転台窓とハイデッカーの側窓は黒く着色されたクリアパーツとなり、滑らかな車体形状を上手く表現しています。
 製品は1988年に発売された「ぼくがうんてんする スーパーひかり号セット」でデビュー。付属のコントローラーで操作する仕様となり、既存の「ラジオコントロール」シリーズで可能だった前進・後退の動きに加え、速度切り替え、警笛の吹鳴、ライトの点灯も可能になった意欲作でした。翌年にはポイントレールも遠隔操作できる仕様となったグレードアップ品も発売されています。
 1989年に発売された「スーパーひかり号 立体ステーションセット」では、他の車両と同じく3両とも切り離しが可能な仕様となりました。1987年に発売された「2スピード新幹線」の同名セットの車両替え版ですが、当時開催されていた「プラレール たのしさつなごうキャンペーン」の一環として車庫が追加されており、通常のセット品としてはなかなかの高グレードです。1990年に車両単品でも登場しています。

▲「立体ステーションセット」に付属していた車庫。通常品ではオレンジ色だが、差別化のために黄色で成型されているのが目を惹く。

 箱には「近い将来予定されている最新技術のひかり号が2スピードで走ります」と記載があり、来たる次世代型車両へ期待が寄せられていたのが伺えます。このセットは以前の「立体交差セット」などと同じく、地上・高架線の2ルートレイアウトですが、小判型エンドレスの中に分岐でもう一つエンドレスを組み込むという、なかなかコンパクトな構成になっています。
 セット品が3つ発売され、単品も発売されたスーパーひかり号。車体の軽量化、高速化を目指して製作されたモックアップでしたが、実際に製造するとなると1両の重量が100系を上回るという試算が出てしまいました。
 実際の次世代車両は、ハイデッカー構造を取りやめ、100系X0編成に近い小型の窓が並ぶ外見の300系としてデビューすることになりました。300系試作車J0編成は1990年に登場しましたが、前述の通り、折しも同年にプラレールの「スーパーひかり号」が単品化され、実車が登場したにもかかわらずモックアップ状態の車両が売り場に並ぶという状況が生まれてしまいます。J0編成に更なるブラッシュアップを加えた量産車が「のぞみ」でデビューすると、鳴り物入りの新型新幹線として1992年8月10日に「2スピードのぞみ」として300系もプラレールで製品化されます。
 同年、「ぼくがうんてんする リモコンのぞみ号セット」が発売されます。これは1988年の「ぼくがうんてんする スーパーひかり号セット」の車両を、実際に登場した「のぞみ」に変えたもので、プラレールにおいてもプロトタイプから量産仕様のものに置き換えられるという、後にも先にも例がない変わった展開を見せました。

 結局当初の形通りに実現することはなかった「スーパーひかり号」ですが、プラレールではその後も細々とラインナップに乗り続け、1996年を最後に絶版。これをもって将来の300系としてデビューするはずだったモックアップはおもちゃからも姿を消し、実際の300系にそのバトンを渡しました。
 スーパーひかりモデルとは全く異なる外見の300系ですが、窓下に入る2本の帯にその面影が見られ、円筒状の断面形状も後に開発される500系に通ずるなど、昭和末期に構想された「未来の新幹線」の姿は少なからず実現しているとも言えるでしょう。
 その300系も2012年に引退し既に13年近くが経過。山陽区間で活躍を続ける500系もつい先日最後の全般検査が終わりました。「スーパーひかり」で構想された次世代の新幹線の姿から約40年。プラレールだけがその「将来像」を後世に伝えるようになる日が近づいています。

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