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特集・コラム

70年前の路面電車イノベーション「無音電車」って一体なに?

2024.10.04NEW

text:RMライブラリー編集部

 現在でも日本の各地で「市民の足」として活躍する路面電車。少し前まではその土地で暮らす人以外にはもっぱら郷愁の対象のように思われがちでしたが、昨年(2023年)8月に装いも新たなLRTとしての完全新規路線が宇都宮市に開通するなど、国内でも新時代の都市交通として見直す動きが出てきています。

 現在の軌道線車両では、この宇都宮ライトレールのように路面との段差が少ない超低床車両がトレンドとして注目されていますが、歴史をさかのぼるとこれまでも都市交通におけるクルマと路面電車の攻防から、必要に迫られ軌道線車両の質的改善が図られてきた例がありました。なかでも今から約70年前の1950年代半ばに日本に到来した「無音電車」の試みは、路面電車の未来を占うイノベーションとして技術者たちの腕の見せどころとなりました。

 

▲「無音電車」のコンセプトで製造された路面電車の数々。アメリカの「PCCカー」に倣った斬新な外観は当時注目を集めた。

出典:RMライブラリー291巻『「無音電車」の時代 公営カルダン車編』

 日本よりも早期にモータリゼーションの波を受けたアメリカでは、1930年代より「PCCカー」と呼ばれる高性能な市街電車が開発されました。電気鉄道経営者協議委員会(Presidents Conference Committee)が規格を制定、流線型の外観を持ち、高加減速や防音防振に優れた乗り心地の良い高性能電車を生み出しました。後にトランジットリサーチ社(TRC社)がライセンス管理を継承、1952年までの間に約5,000両が製造されました。

 

▲米国に登場した高性能市街電車「PCCカー」の一例。写真の車両はいずれも現地で保存運転されているもの。

出典:RMライブラリー291巻『「無音電車」の時代 公営カルダン車編』

 日本の路面電車を経営する社局や車両メーカーでもその技術に注目し、追随する動きが出てきます。当時、東京の市街地に網の目のように「都電」の路線を展開していた東京都交通局でもその導入を検討、先述の米国TRC社のライセンスを受け、新型路面電車5500形5501号の製造に入ります。

▲米国「PCCカー」に倣い、ライセンス下で製造した都電5500形5501号(右上写真)。製造が難航し、国産技術を中心として製造された5502号より竣工が後になった。

出典:RMライブラリー291巻『「無音電車」の時代 公営カルダン車編』

 しかし5501号の製造にあたっては、高額なライセンス料の割にはその最新技術が日本の特性に馴染まず、思いのほか難航します。また片方向運転が前提のアメリカに対し日本は双方向運転であるためギヤの不具合が頻発したほか、加減速を自動車のように足で行うフットペダルも乗務員の評判は良くないなど、性能的に過剰なこともあり「PCC準拠車」はこの1954(昭和29)年製の5501号1両で終わりました。

 代わって登場したのが、国内六大都市(東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸)の各交通局により組織された「六大都市無音電車規格統一研究会」の規格に基づき誕生した、国内の独自技術や部品単位でのみTRC社のライセンスを受け製造された「無音電車」と呼ばれる高性能電車です。

▲「無音電車規格統一研究会」規格準拠の第1号車として、大阪市電創業50周年の1953年に登場した大阪市交通局3000形3001号(後の3000号)。

P:川崎車輌公式写真(所蔵:松田義実)

 

 これら国産の「無音電車」群は米国のPCCカーになぞらえ「和製PCCカー」とも呼ばれファンに親しまれました。基本的には現存するほとんどの郊外電車が採用する静粛な「カルダン駆動」を路面電車で本格的に採用するなど、新技術を採用しつつも日本の運用方法に馴染んだ高性能車として、先述の6大都市の公営路面電車を中心に一定数量産されました。

 しかし、その後高度経済成長を迎え路面電車の衰退を迎えていた日本では、その数々の先進技術が保守面で持て余されて意外と短命に終わり、他社への譲渡も一部に終わりました。

 

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 本書では1953~56(昭和28~31)年に東京・名古屋・大阪・神戸などに投入された、これらの「無音電車」各形式について登場年代別に解説します。投入された技術の数々に、当時の意気込みが伝わってくる1冊となっています。

■著者:松田 義実(まつだ よしみ)

■判型:B5判/48ページ

■定価:1,375円(本体1,250円+税)

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