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113系・115系で学ぶ!「ジャンパ連結器」の奥深い世界を知ろう!

2024.09.14

text:MSかぼちゃ(X:@MS3167)

 111系・113系・115系といった直流近郊型電車の研究を活動のメインとし、鉄道系サークル「日本かぼちゃ電車学会」の主宰も務め、動画や同人誌でその成果を発表しているMSかぼちゃさんの連載!「徹底研究!国鉄近郊型電車113系115系」。今回は113系・115系の視点から「ジャンパ連結器」について触れていきます。(編集部)


 鉄道車両、特に電車を連結するときは、車両の電気的な接続が重要です。複数両編成で運転を行うときは、連結器だけではなく電気回路の接続が必要であり、その役割を担うのが「ジャンパ連結器」となります。
 今回は、そんな「ジャンパ連結器」の奥深い世界を、113系・115系の視点から垣間見てみましょう。

▲京都所のL16編成。連結器の横に5本のジャンパ連結器が確認できる。

‘22.3.8 113系L16編成 クハ111-7702 東海道本線 山科 P:MSかぼちゃ

 113系・115系のジャンパ連結器について解説する前に、まずはジャンパ連結器の役割について軽く紹介しておきましょう。
先述したようにジャンパ連結器の役割は電気回路の接続なのですが、一口に電気回路といっても、その種類は2つに大別することができます。
 1つが、「制御・補助回路」。主に鉄道車両を動かすための指令を電気信号として伝える回路になります。113系・115系では直流100Vで伝達しており、ジャンパ連結器に組み込まれた端子1つにつき1種類の情報を伝達することができます(室内灯や扇風機などに使われる二相交流100V電源もここに組み込まれています)。もう1つが「基本電源回路」で、主電動機を動かすための主回路や、補助電源装置、コンプレッサーなどの主要な補機の電源、そして冷房装置の電源など、電力そのものを伝達する回路です。113系・115系においては、架線から取り入れた直流1500Vの「高圧電源」と、冷房電源用として補助電源装置で作られた三相交流440Vの「三相電源」の2つが伝達されています。編成内では基本的にこれらすべてが接続されていますが、2編成の列車を分割・併合するような場合は、原則として制御回路のみが繋がれることとなります。最近の電車で広く採用されている電気連結器についても、基本的には制御回路用のジャンパ連結器と同じ役割が与えられています。

 今も現役で運用されている113系・115系の先頭を見てみると、ジャンパ連結器が5本取り付けられています。写真は奇数方(東海道線を基準として東京方)の先頭ですが、偶数方(同神戸方)には左右を反転して取り付けられています。
 向かって左からKE5形(三相)、KE6形(高圧)、KE76形(左から制御・補助1・補助2の3本で、1本に19個の端子が組み込まれている)という構成で、普段の分割・併合で使用するKE76形には、奇数方先頭にのみケーブルが取り付けられています。
 しかし、時期や配置区所によっては必ずしもこの配置になっているわけではなく、異なる配置となっている車両も存在します。
 ここからは、113系・115系登場からのジャンパ連結器の変化について、時系列をたどりながら解説していきましょう。

▲クハ111-1のジャンパ連結器周辺。上の写真と比較すると、本数や形状が異なっているのが分かる。

‘21.4.10 クハ111-1 リニア・鉄道館 P:MSかぼちゃ

 113系・115系の前身である111系の登場時は、ジャンパ連結器は高圧用のKE1形(KE6形の前身)、制御・補助用のKE58形(KE76形の前身)2本が使用されていました。
 この当時は伝達する内容が現在ほど多くなく、ジャンパ連結器の本数も3本と少なかったため、111系と113系・115系の初期車ではジャンパ連結器を左右対称に片側3本ずつ配置し、方向転換を可能とする「両渡り構造」を採用していました。
 また、115系は抑速ブレーキや半自動ドア装備を持つ分、伝達する信号の数が多くなりますが、これは111系では信号が割り当てられなかった端子に追加したり、111系から割り当てを変更する形で対応しています。
 つまり、登場時点で113系と115系では端子の割り当てに違いがあり、111系の割り当てを引き継いだ113系は、115系のものより若干余裕があったのです。
 しかし、このことが後に大きな違いを生むこととなるのです。
 1970年代に入り、113系・115系には冷房が徐々に搭載されはじめます。冷房搭載車には冷房電源用のKE5形三相ジャンパ連結器を追加されたため、今まで通り両渡り構造を採ることができず、新製車・改造車問わず冷房を搭載車は方向転換ができない「片渡り構造」となってしまいました。また、冷房電源のほかにも、冷房を制御する回路を別に追加しなければならないのですが、端子の割り当てに余裕があり、そこに回路を追加した113系とは違い、115系に回路が割り当てられる端子はもう残っていません。そこで、115系では冷改時に補助回路用のKE76形ジャンパ連結器(補助2)を1基追加し、そこに冷房用の回路を繋げることとしたのです。
 ジャンパ連結器を増設しなかった113系ですが、こちらにも変化が生じます。1974年に登場した113系700番代では側面に電動方向幕を設置することとなったほか、115系と同様の半自動ドア装備を持つこととなったのですが、冷房設置によって今度こそ空き端子がすべて埋まってしまったため、115系と同様にKE76形ジャンパ連結器(補助2)を設置し、そこに方向幕回路や半自動ドア回路を割り当てることとなったのです。
 このように、113系と115系ではジャンパ連結器の増設された背景が異なっており、特に増設された補助2ジャンパ連結器は、113系の場合「側面方向幕や半自動ドアを使用するときのオプション装備」となったのに対し、115系では「冷房を使用する際は原則使用しなければならない装備」となったのです。
 実際、113系では大阪地区の東海道・山陽線や阪和線を中心に補助2ジャンパ連結器を使用しない例もかつては存在し、3本並んだKE76ジャンパ連結器のうち、一番外側のジャンパ連結器にだけケーブルが刺さっていないこともたびたび見ることができました。

▲113系1000’番代など、横須賀-総武線や房総地区で活躍していた車両はKE70形ジャンパ連結器を装備していた。

113系1000’番代 クハ111-1064 総武本線 千葉 P:佐野洋之

 さて、このようないきさつを経て変化した113系・115系のジャンパ連結器ですが、一部には例外的な車両も存在します。ここからは、そのような車両についても見ていきましょう。
 横須賀・総武快速線の直通運転のために1972年に登場した113系1000’番代では、制御・補助用のジャンパ連結器にKE70形を採用しています。このジャンパ連結器は端子の数に優れるため、横須賀-総武線系統と付随する房総地区の113系に広く採用され、2011年の113系房総地区引退まで特徴的なジャンパ連結器を見ることができました。

 ところ変わって山口県では、今でも特徴的なジャンパ連結器を見ることができます。2ドアが特徴的な115系3000番代編成の一部には、117系から改造された115系3500番代が連結されているのですが、117系のジャンパ連結器はKE96形というものを採用しているため、このままでは電気的な接続を行うことができません。本来は改造でジャンパ連結器を交換するところですが、この車両ではそれを行わず、ジャンパ連結器同士を接続するケーブルを片方はKE76形、もう片方はKE96形に対応した変換ケーブルとすることで、混在に対応しています。こちらは2024年9月時点で現役で運用されており、今もなお連結面でその姿を見ることができます。

▲115系3500番代の連結面。異なるジャンパ連結器をケーブルで接続している。

P:ごーさんきゅーさん

 鉄道車両の連結には欠かせないジャンパ連結器。113系・115系という1系列だけを見ても、とても奥の深い世界です。この記事を読んでいただけた方の中で、この世界に興味を持っていただけた方がいたのなら、非常にありがたく思います。

(2024年9月18日 12:00 修正の上掲載)

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