185系

特集・コラム

栄枯盛衰の特急型客車、スハ44系

2024.06.01

text:RMライブラリー編集部

 敗戦時に多数の被災車両を抱え輸送力が逼迫していた日本の鉄道も、その後の復興や発展は目を見張るものがありました。終戦4年後の1949(昭和24)年には東京~大阪間を9時間で結ぶ特急「平和」が誕生、鉄道高速化の火蓋が切られました。

 しかし特急とはいえ使用される客車は戦前設計のものが中心で、2等車こそ当時の進駐軍の要請でリクライニングシートが採用されたいわゆる「特ロ」にグレードアップが進められたものの、4人ボックスシートの旧態依然とした3等車はそれに比べて見劣りのするものでした。

 そこで1951(昭和26)年になって、特急での使用を前提に2人掛けシートがすべて前方を向いた「特別3等車」が製造されることになりました。それがスハ44系と呼ばれるグループで、用途に合わせてスハ44形・スハフ43形・スハニ35形の3形式が合計49両製造されました。


2人掛けの前向きシートが並ぶスハ44系客車。当初は東海道本線の特急列車を中心に使用された。

▲出典:RM LIBRARY 287巻『スハ44系客車の履歴書』より

 

 車体構造は戦後の標準型客車スハ43系に準じながらも、前向きの固定座席と片デッキの客室を備えたスハ44系はまさにエリートの一団でしたが、この車両が最も注目されたのは1956(昭和31)年11月の東海道本線全線電化時でした。

 電化で蒸気機関車からの煤煙の心配がなくなったことから、編成全体をライトグリーンに塗色変更、電化当日の特急「つばめ」「はと」といった花形特急列車に突如として現れたその姿はファンに驚きを持って迎えられ、早速「青大将」の愛称も付いて、まさに日本の鉄道の頂点に君臨しました。

スハ44系客車を使用した列車群。左の2枚がいわゆる「青大将」(特急「はと」)、その後東北特急「はつかり」、特急「みずほ」などでも使用された。

▲出典:RM LIBRARY 287巻『スハ44系客車の履歴書』より

 

 しかしその活躍も長くはありませんでした。「青大将」登場のわずか2年後、1958(昭和33)年11月には東京~大阪間を6時間代で結ぶ新開発の特急型電車20系(後の151→181系)が特急「こだま」として運転を開始したのです。大阪への日帰りを可能にしたことから「ビジネス特急」として親しまれた一方で、主役の座を電車特急に明け渡した44系客車は1960(昭和35)年までに東海道の特急運用から撤退します。同様に東北方面への特急「はつかり」として使用されていた車両もキハ80系特急型気動車の登場によりその座を追われ、スハ44系客車は登場後10年足らずにして、早くも特急列車以外への転用について、その模索を迫られます。

東北本線・常磐線で「はつかり」として使用されたスハ44系客車は、20系客車を思わせる青色にクリーム色の2本のラインをまとっていた。

▲出典:RM LIBRARY 287巻『スハ44系客車の履歴書』より

 

 さてここで問題が生じます。これまでその内装を「2人掛けの固定座席」と紹介してきましたが、その使用に当たっては「終端駅での編成ごとの方向転回」という前提条件がありました。デビュー当初の特急での使用時は展望車の連結もあり方向転回は必須でしたが、その作業が現場には大変負担であり、展望車のない列車を転回することに疑問の声も上がりました。そこで固定座席を一席ごとに回転できるように改造することで、ようやく各地での使用に耐え得る車両となりました。

 

方向転回が必要であった当初の44系客車は、終端駅ごとにさまざまな三角線を使った転回例が存在し、転回におよそ2時間を要する例もあった。

▲出典:RM LIBRARY 287巻『スハ44系客車の履歴書』より

 

 座席の改造により、スハ44系客車はその後急行列車や団体専用列車、そしてローカル線の普通列車用としての生涯を迎えます。特にスハニ35形については、日中線や川俣線などといった「盲腸線」と呼ばれる短距離ローカル線で使用されたことが知られています。

 最後の活躍となった四国では、少数が普通列車に用いられて1980年代まで使用された後、うち2両が日本ナショナルトラストの手に渡って、動態保存車両として今なお大井川鐵道でその活躍を見ることができます。

 

◆RMライブラリー288巻『スハ44系客車の履歴書 -特急用からローカル線へ-』が好評発売中です。

特急用として新製された花形の時代から急行用・団体列車用への転身、そしてローカル線での使用まで、その栄枯盛衰の生涯について多数の写真や図表を掲載して64頁に渡り紹介します。

特に時代ごとの編成例や各地の三角線を用いた編成の転回方法、44系客車を使った列車のエピソードなど、この系列ならではの詳しい解説が満載で、客車ファン・優等列車ファンには必見の書です。

 

著者:和田 洋(わだ ひろし)

判型:B5判/64ページ

定価:1,485円(本体1,350円+税)

 

◆書誌情報はこちら

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加