text & photo:橋爪智之
日本国内も年々目まぐるしい変化を続ける鉄道だが、ヨーロッパの鉄道に関してもここ1年で大小様々なニュースがあった。そこで今回は、2023年に注目を集めたヨーロッパの鉄道ニュースを振り返ってみようと思う。なお都合上、多少は筆者の主観で内容が偏る可能性もあるが、そこはどうかご了承いただきたい。
【写真】ヨーロッパも変化が大きい鉄道事情を写真でおさらいする
■寝台客車も!新型ナイトジェット登場!
2023年の最も大きな話題が、ナイトジェットの新型客車デビューと言えるだろう。独シーメンスが製造した新型客車は、レイルジェットなどで実績のあるヴィアッジョ客車がベースではなく、完全新設計プラットフォームを採用するなど意欲的なものとなった。7両固定編成には、普通寝台車2両、クシェット3両、車椅子対応低床車1両、座席車1両が組み込まれ、運転台付き制御客車を連結してプッシュプル運転も可能となった。注目点は、クシェットに採用された「ミニキャビン」で、カプセルホテルのようなプライベート空間を実現するなど居住性が大幅に改善された。
12月10日冬のダイヤ改正から運行を開始したが、営業初日から様々な不具合が続き、連日遅延が発生しているのが少々気掛かりな点である。
■タリスがユーロスターへ
▲ブランド統一によって消えてしまったタリスの名前。塗装は変わらず、あくまでブランドだけの変更となった。
2022年5月に合併が発表された、ユーロスターとタリス。この2つのブランドは、ヨーロッパの高速列車ブランドのなかでも一際有名なもので、鉄道に詳しくない人でもヨーロッパを旅した経験があれば、名前くらいは聞いたことがあるというほどの知名度があったが、その両社が合併し、ユーロスターにブランドが統一されることになるとは、予想すらできないことだった。
両社は予約ウェブサイトの統一など、徐々に準備を進め、2023年に入ってからは車体のロゴもユーロスターへ統一。駅での案内もすべてユーロスターとなり、タリスの文字は見られなくなった。列車名の消滅という寂しい気持ちとともに、駅の案内放送や掲示板の表示にユーロスターを用いられると、いわゆる英国方面の列車なのか旧タリスなのかいまだに混乱してしまう。長年染み付いた慣れとは、簡単に拭えるものではないと痛感した。
■トンネル内事故で旧線迂回のゴッタルド峠
2023年8月10日、スイス南北間を結ぶゴッタルドベーストンネル内で貨物列車が脱線。破損した区間は8kmに及び、当該区間の線路のみならず2万本に及ぶ枕木と、防火扉やトンネル内気圧調整扉も破損した。これらの大規模な補修に、少なくとも数ヶ月を要する見込みと発表された。
事故の発生後、同区間を通過するスイス~イタリア間の全列車が事故翌日から旧線を経由で運行されることになったが、二つあるトンネルのうち東側の1本は問題がないことが確認され、8月22日から本数の制限付きで貨物列車が片側交互通行でトンネルの使用を再開。旅客列車は安全上の規定により、引き続き旧線経由で運行することが発表された。9月29日からは早朝夜間の一部の旅客列車もトンネル供用を再開したが、現在も大半の列車が旧線を経由している。なお、2024年9月中の完全復旧を目指しているとスイス連邦鉄道は発表している。
約1時間という所要時間の大幅な増加と引き換えに、風光明媚なゴッタルド峠の旧線区間に再びローカル列車以外の優等列車が戻り、大きな話題となった。
■ドイツの客車食堂車・折戸式旧型客車が消滅
長年、ドイツ鉄道の供食を支えてきた客車食堂車が、12月10日冬のダイヤ改正で姿を消した。ドイツ鉄道では、安全上問題のある折戸式客用扉を段階的に減らし、同じ12月のダイヤ改正をもってすべての車両をスライド式ドアに統一させることになったが、近年のドイツで唯一使われてきた食堂車は、半室に1等座席を備えたARkimmbz288型で、全車両が折戸式のドアを採用していた。
この車両を過去へ辿って行くと、大元となるのはUIC-X型客車の1/2等合造車ABm225型で、1950~60年代製造という古豪だ。70年近く使用しているとなれば、さすがに廃車は免れないと思うが、1989年に当時の新しい急行列車インターレギオの供食車として再生されることになり、ほぼ新造に近い大規模な改装工事が行なわれたことから、実質的には35年程度の車両とも言える。
ドイツ鉄道で運用から離脱した折戸式座席車は、まだ使用できるということで、民間会社や中欧諸国などに中古車として引き取られているケースが見られるが、はたしてこの半室食堂車の運命や如何に?!
(『RM MODELS』2024年3月号 Vol.342 連載「世界鉄道」より加筆修正の上掲載)