185系

特集・コラム

なんでここまで個性的!?ファンを魅了した広島地区の115系先頭車とは

2024.04.12

text:MSかぼちゃ(X:@MS3167)
photo:おれんじらいん(日本かぼちゃ電車学会)

 111系・113系・115系といった直流近郊型電車の研究を活動のメインとし、鉄道系サークル「日本かぼちゃ電車学会」の主宰も務め、動画や同人誌でその成果を発表しているMSかぼちゃさんの新連載!「徹底研究!国鉄近郊型電車113系115系」。今回のテーマは広島地区で近年まで活躍していた初期型のクハ115・111形について迫ります。古い車両というだけではなく、その個性的なスタイルから多くのレイル・ファンを魅了した車両群ですが、その歴史を紐解くと広島地区の輸送改善が深く関わっているのでした。(編集部)


 現在では227系0番代が活躍する広島地区のJR線ですが、一昔前は115系をはじめ、105系や103系などの車両が活躍するいわば「国鉄型車両の楽園」としてレイル・ファンに親しまれていました。その中でも、一部の115系編成に組み込まれていた初期型のクハ115形(一部クハ111形)は、珍車や改造車などの個性的な車両ばかりで、非常に魅力的な存在でした。

【写真】個性的な広島地区の115系先頭車!懐かしの写真はこちらから!

▲クハ115-604はクハ111-380からの編入改造車。簡易シールドビーム化と前面窓周辺への金属枠取付が行われており、広島の115系でも際立ったスタイルを有していた。

’12.3.18 山陽本線 岩国 クハ115-604

 2010年ごろの広島地区において、初期型の115系は決して主力といえる存在ではありませんでした。広島地区の115系自体は60編成を超える大所帯ですが、そのうち初期型車は13編成の先頭車にわずか20両が在籍するのみで、大多数は後期型の2000番代や2ドア車の3000番代が占めていました。この為、115系初期型車は基本的に他の(それよりも新しい)番代と手を組む形で運用がなされていました。この特徴的な編成には、広島が辿ってきた輸送改善の歴史が関わっているのです。

 広島地区に115系が登場した1978年当初、同地区の普通列車は6両以上での運転が基本でした。しかし、1980年代以降に行われた「短編成高頻度政策」によって、普通列車を4両主体で運転することとなりました。この為、6両編成と4両編成の2種類が在籍していた車両編成を4両に揃えることとなったのですが、この過程においてどうしても「中間車が余り、先頭車が不足する」という状況が発生してしまいます。そこで、広島地区ではさまざまな手段で115系の先頭車をかき集めることになります。他区に在籍する先頭車を呼び寄せるだけではなく、余剰になったサハを先頭車化したり、極め付けは広島地区で余剰となったモハユニットを電装解除した上で先頭車化を行うといった奥の手も使いつつ、次々と先頭車を作り出しました。この結果、広島地区では在来の車両を含めて、様々なバリエーションをもつ先頭車が多く誕生することとなったのです。

▲クハ115形550番代はモハ114/115形を電装解除した上で先頭車化改造したものだ。写真の556はモハ115-91から改造された。

’10.3.31 山陽本線 広島 クハ115-556

 115系の初期型車は1960年代に登場しており、それ以降に製造された車両と比べて冷房を持たない他、車体の状態も劣っていました。そこで延命を図る為、これらの車両には冷房の設置や、車体や車内の更新など、様々な改造が行なわれました。

 JR化後には、他区で余剰となった車両を受け入れることもありました。この中には113系から115系に編入改造された車両や、編入改造すら行なわれていない113系も存在しました。
 これらの車両は当然元々広島地区で活躍していた車両とは全く異なる経歴を辿っており、転入後広島地区で運用するためのさまざまな改造を受けました。その最たるものが関西地区から転入した113系のクハ111形です。本来平坦線区用で、勾配区間には不向きな113系ですが、山陽本線瀬野〜八本松間は通称「セノハチ」と呼ばれる連続急勾配区間が存在するため、この区間を走行する車両は降坂のための抑速ブレーキを装備することが望まれます。このため、これらのクハ111形はマスコンを抑速ブレーキに対応したものに交換し、113系でありながら事実上115系の先頭車として運用できるように改造が行われたのです。このように各地から呼び寄せた車両を広島地区に順応するための改造を続けた結果、広島地区の115系初期型車のバリエーションはさらに増加したのです。

▲マスコンが交換され、115系の先頭車として運用できるようになったクハ111-91だが、半自動ドア扱いには対応していなかった。

’12.3.18 山陽本線 岩国 クハ111-91

 先頭車を中心にある程度の勢力を保っていた広島地区の115系初期型車でしたが、時代が進むにつれてその数は少しずつ減少していき、先述したように2010年時点でその数は20両となりました。2012年には、このうち特に異端であったり、運行上の取扱に難のある10両が、比較的新しい113系を改造して115系に編入したクハ115形2500/2600/750番代によって置き換えられます。どこまでも皮肉な話ですが、度重なる改造を繰り返した彼らを置き換えたのは、同じく改造を受けた115系だったのです。

 この時置き換えられなかった残りの10両はその後もしばらく活躍を続けますが、227系0番代の投入により2016年までに1両を除いて置き換えられます。唯一廃車を免れたクハ115-608も、広島地区から115系が完全に撤退する直前に廃車され、そのまま解体されました。

▲初期型先頭車群では最後の存在となったクハ115-608。サハ115-6からの先頭車化改造車で、153系の廃車発生品であるAU13形クーラーを搭載している。

’16.9.15 山陽本線 広島 クハ115-608

 2024年現在、広島地区で活躍した115系初期型先頭車たちの痕跡はほとんど残っていませんが、その個性豊かな魅力は、これからもレイル・ファンによって語り継がれていくことでしょう。

(2024年4月12日 18:10 加筆修正の上掲載)

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