▲定期運行引退目前に迫った頃の50000形「VSE」。そのスタイルは登場後何年経っても美しさを保ち続けた。
’22.02.27 小田急電鉄 小田原線 伊勢原~鶴巻温泉 P:三田村 裕
(今日の一枚より)
小田急ロマンスカー 50000形「VSE」が完全引退した2023年12月10日から早1ヶ月。2005年3月のデビューから18年ほどでの早すぎる引退は、レイル・ファンのみならず、多くの人々にとって衝撃的なものでした。
【写真】投稿写真で振り返るVSE!引退車両とは思えない斬新なデザインに注目!
■建築家岡部憲明氏 初の鉄道車両デザイン
代々箱根への観光輸送を主眼に置いていた小田急ロマンスカーでしたが、1996年に運行開始した30000形EXEは従来の観光輸送に加え、ビジネス利用も考慮した構造になりました。結果として、「ロマンスカーらしさ」でもあった展望席や連接台車といった設備がいずれも採用されなかったことで、観光輸送としてのイメージはあまり強くありません。そのため2002年からは、当時すでに登場から15年近く経っていた展望車付き・連接車の10000形HiSEが、再びロマンスカーのフラッグシップとして広告などに起用されるようになります。
こうした背景から、観光を目的に箱根へ向かうロマンスカーのイメージを取り戻すべく、2005年にデビューしたのが50000形「VSE(Vault Super Express)」でした。デザインはそれまで鉄道車両のデザインに携わったことのなかった建築家 岡部憲明氏が抜擢されました。今までの鉄道車両にはないような流麗な中にエッジの効いたラインが美しいボディーに、輝くような白い車体と伝統のバーミリオンオレンジの帯を配した姿は、いつ見ても不変の新しさを感じることができます。そのためか、引退前に駆けつけたレイル・ファンたちの様子を見て、新型車のデビューと見間違えられたというのがSNS上で度々話題に上がっていたほどです。
■「HiSE」以来の連接車 凝った造りの足廻り
また、50000形では10000形HiSE以来となる連接車とされ、展望席の復活もあり、久々にかつてのロマンスカーが平成の時代に蘇りました。さらにこの50000形は連接台車というだけではなく、中間台車の空気ばねは通常よりも高い位置にされ、さらに車体傾斜制御の採用で曲線通過時は最大2度傾斜させられたほか、台車の操舵制御も採用され、徹底的に乗り心地の改善に努めていました。
もちろんアルミ製ボディーや限界まで広げられた幅の窓、客室設備からシートサービスに至るまで、それまでのロマンスカーらしさを残しつつ、正統進化とも取れる新しい時代のロマンスカーを象徴するような完成度を持った車両でした。
■「VSE」が去った後のロマンスカー フラッグシップは「GSE」へ
ですが、これらの先進的な技術を盛り込んだVSEでしたが、これらが逆に延命する際の障壁となってしまった側面もあります。これらの新しい構造は言い換えれば更新が難しい構造とも取ることができ、こうした事情から先輩格であるEXEよりも早く引退することが決定してしまいます。ちなみにこうした「先輩格よりも先に引退してしまったロマンスカー」は、近年だとHiSEと20000形RSEが、ハイデッカー構造がバリアフリーに対応できないという理由で、いずれも先輩格の7000形LSEより先に登場から20年程度で引退しています。
ですが、VSEの残した功績が大きいというのもまた事実です。VSE以降登場した60000形MSEと70000形GSEは、いずれも岡部憲明氏デザインによるものとなり、新しいロマンスカーのブランドイメージの確立に繋がったと言えます。また、VSEよりフラッグシップとしての立場を引き継いだGSEは、ビシネス輸送の日常と、箱根への観光輸送という非日常という両方の側面に対応し、ボギー車ながら展望席は備えた車両になりました。
とはいえ、VSE引退により車両が増備されたというわけではなく、純粋な展望席を備えた車両は2本減ってしまった形になります。これからのロマンスカーはどのように変化を遂げていくのか、VSEが去った今改めて注目が集まりそうです。