text & photo(特記以外):鉄道ホビダス編集部
JRの車両に乗る時、車両の端に目を向けると「宮サイ」や「中オカ」といった呪文のような文字が書かれていることが多いです。当然ながら本当に呪文というわけではなく、ちゃんとした意味を持ってこの標記がなされています。そんな中、近年ではこの標記が姿を消しつつある地域もあるとか…。
■鉄道車両の家を示す標記
これは「所属標記」と呼ばれるもので、基本的には1文字の漢字と2文字のカタカナで標記されます。それぞれ所属している車両基地の名称を略しており、例えば「八トタ」の場合、「八」がJR東日本八王子支社の管轄という意味を、「トタ」は豊田車両センターに所属している車両、という意味になります。漢字とカタカナでどこ支社の車両のどこの車両基地所属の車両か、短く一目でわかるようになっています。
このカタカナ2文字に省略される車両基地名ですが、これらは「電報略号(電略)」と呼ばれる略し方で、これは電報通信の時代、英数字とカタカナのみしか送れなかったことから、間違え防止や読みやすさといった観点から、駅名などをカタカナ1〜3文字程度で略して表記していたものです。先ほどの「八トタ」の「トタ」は、豊田駅の電略が「トタ」であることに由来します。
■古くからの標記法
この標記方法はJRになってからのものではなく、国鉄時代、客車全盛の頃から続く伝統的な様式です。現在のJRの各支社的な立ち位置には、国鉄各地域ごとの「鉄道管理局」というものが存在していました。国鉄時代はこの鉄道管理局の漢字1文字とカタカナを組み合わせて標記していました。この様式は民営化後も各社に引き継がれて、現在に至っています。
■近年では「省略」されるようにも 今後は?
こうした伝統的な所属標記ですが、近年では徐々に省略する地域も見られるようになってきました。現在JR東海では新製車はもちろん、既存の車両についても所属標記部分を省略するようになっています。またJR東日本では、2022年に組織体系の大規模な変化がありました。これは「首都圏」「東北」「新潟」の3エリアで分け、そのエリアごとに本部を設置するというもので、これに伴い所属標記にも変化が出ることが一部で予想されていましたが、なんとここでも最近所属標記の省略が開始されました。現在中央線E233系の「八トタ」標記が続々と剥がされていることが確認されているほか、E235系1000番代やE131系1000番代、中央線用E233系グリーン車などの新製車については、作った当初から貼り付けられずに車両が落成するなど、所属標記は今大きな変化の時を迎えようとしています。
改組などで所属標記変更する必要性が出た時や、転属の頻度・両数が増えるとその貼り替え作業が大変になること、各路線ごとに所属する車両基地が1つに集約されるケースが増えたことで、そもそも所属の違いを示す必要性が薄れた、などの理由が考えられるでしょう。
何も知らないと少し不思議な文字の組み合わせに見える所属標記。近い将来、この標記すら過去のものとなってしまうのでしょうか。