text & photo:橋爪智之
▲電車や固定編成におけるヨーロッパの主流、シャルフェンベルク式連結器を搭載するICE3。2編成併結運転の際に連結が行われる。
現代の日本の鉄道における連結器は、自動連結器や密着式連結器が主流となっています。今から150年近く前の1872年、日本に鉄道が輸入された当初は、バッファー・リンク式連結器が採用されましたが、連結作業に人手が必要なことや、作業そのものに危険が伴い多くの死傷事故が発生したため、1925年に自動連結器への一斉交換が行われました。ですが、ヨーロッパでは電車や気動車のような固定編成の列車を除き、今もバッファー・リンク式連結器が主流です。それはなぜでしょうか。
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■ヨーロッパの連結器事情
▲機関車の連結器部分。バッファー、連結器、空気管、電力供給用ジャンパー線の配置など、UIC(国際鉄道連合)で細かく規定されている。
そもそもバッファー・リンク式連結器とは、リンク(鎖)を相手側の車両に引っかけるという非常に原始的な構造ですが、それ故連結面に遊びが多く、鎖も切れやすく破損事故も多く発生していました。その後は改良が進められ、現在広く使用されているものはスクリュー(ネジ)式(Screw Coupling)と呼ばれているタイプ。これは相手側のフックに引掛けるチェーン部分に伸縮可能なネジを組み込み、そのネジを締めることで車両間の遊びを減らし、誤開放や発車時のショックを和らげるというもの。これにより発進時に日本の客車で見られるような「ガクン」というショックは一切なく、作業時間はかかるが乗り心地が良いという点では優れています。
こうしたバッファー・リンク式連結器が今も主流な背景としては、自国内のことを考慮に入れれば良い島国の日本とは異なり、ヨーロッパは地続きで他国との直通運転も行なうことから、勝手な判断で規格を変えることができないという事情が要因の一つと言えるでしょう。
■電車や気動車の主流連結器「シャルフェンベルク式」
電車などの固定編成には、長い歴史を誇るシャルフェンベルク式連結器が一般的に使われています。1903年にドイツのカール・シャルフェンベルクによって設計され、ヨーロッパのみならずアメリカやオーストラリアなど、世界各地で見ることができます。ヨーロッパでは、TGVやICEといった高速列車のほか、都市圏の近郊列車などにも使用されています。電気接点や空気管なども一緒に組み込むことが可能となっている点は、日本の柴田式密連と同様です。
■バッファー・リンク式を採用する車両 その弊害も…
▲甲種輸送を専門に扱うRailadventure社の控え貨車Habfis。ヨーロッパのあらゆる連結器に対応できるアダプターカプラーを搭載している。
機関車と連結する客車や貨車は現在でもバッファー・リンク式連結器が広く使われています。ですが、これらにも例外はあり、固定編成が前提の客車では機関車との連結面以外、棒連結器などで永久固定連結としているほか、都市近郊で使用される列車の中には、複数の列車を連結する列車もあることから、車端部分にシャルフェンベルク式連結器を装備している場合もあります。
また、作業に手間がかかるバッファー・リンク式連結器における弊害もあります。ヨーロッパでは、現在もヤード仕分けによる混合貨物列車が多く運行されていますが、バッファー・リンク式連結器がその入換作業時間を増大させている要因として指摘されています。この作業簡略化を目指し、ネジ部分を緩めておくだけで、列車が通過した際に連結器が自動的に切り離される器具など、連結器メーカーはその解決策を練っていましたが、どれも完全な解決には繋がらず、現時点で最も有効な手段はシャルフェンベルク式自動連結器への換装となっています。
とはいえ、最大の問題はヨーロッパ中で運行される膨大な数の貨車をどうやって改造するかで、まずは一部区間や地域で暫定的にスタートさせていき、徐々に拡大して行くほかに手段はないでしょう。
同じ鉄道でも、それぞれの国の事情などにより連結器の形状も変わってくるのです。
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