取材日:’20.11.22
text & photo(特記以外):奥村匠海
磐越西線 五十島~三川 ‘23.07.30 P:原口雄二
(今日の一枚より)
徐々に秋の足音が聞こえてきた今日この頃。これからの涼しい季節にぴったりのSL列車がこの夏、1年ぶりに運行が再開されました。それが会津若松発の下り「ばんえつ物語号」です。現在のダイヤでは会津若松を15:27に発車し、夕暮れの阿賀野川沿いを進み18:43に新津へ到着します。ボックス席でほんのりと灯る車内灯の中、客車のゆったりとした揺れに身をゆだねる…。そんなレトロな雰囲気を味わえる趣深い下り「ばんえつ物語」号の乗車レポートを今回はお届けします。
■旅の始まりは歴史ある城下町「会津若松」から
「SLばんえつ物語」は1999年より運転を開始した観光列車で、蒸気機関車であるC57 180号機が牽引する列車です。新潟県の新津駅と福島県の会津若松駅を結んでおり、所要時間は3時間余りと乗車時間が長いのもこの列車の大きな魅力です。また、客車は2012年にリニューアルされ、グリーン車も連結するなどほかのSL列車とはまた違った特色を持つ列車なのも大きな特徴です。
下り列車は、鶴ヶ城の城下町として知られる会津若松から出発。会津若松駅の磐越西線ホームは頭端式となっているため、列車はSLが客車を「押して」やってくる推進運転で入線してきます。ホーム上の駅員と展望車車内の乗務員が無線を使って連携し、停止位置を合わせるシーンはその様子を多くの人が見守ります。そしてピタッと列車が止まると、乗客がドアへ向かい慌ただしく乗車していきます。
発車時刻になり、C57の汽笛が鳴ると客車特有の「ガコンッ」という揺れと共にゆっくりと発車しました。
■夕陽が包み込み、列車は次第に夜の中へ
会津若松を発車すると列車はゆっくりと、しかし軽快に会津盆地を進んでいきます。遠くに磐梯山を眺めながら喜多方を発車すると、次第に阿賀野川の清流に沿って列車は走ります。このころから日はすでに山にかかり始め、曇りの多い秋のこの地域には珍しく快晴だったこともあり夕陽が車内を包み込みます。
そして列車は山あいに入ると、次第にトンネルも多くなってきます。トンネルに入る前に窓を閉めるようアナウンスがされるのも、排煙があるSL列車ならでは。トンネルを抜ける度に外もだんだん暗くなり、17時ごろには日が沈み、トンネルと外の区別がつかなくなるほどです。いよいよ、「夜汽車」と呼ぶにふさわしい時間帯の始まりです。
▲ほんのりとした車内灯が包み込む車内。夕暮れが早いこれからの季節だからこその楽しみといえるだろう。
■津川駅での給水と幻想的な風景
津川駅に到着すると、給水のため約15分ほどの停車時間を取っています。そのため、この駅での停車時間は実質C57 180の撮影タイムといった雰囲気もありました。無論私もカメラを片手にその群衆の中でシャッターを切りました。
▲津川駅での停車時間、多くの乗客がシャッターを切った。
C57の吐く蒸気に光が当たり非常に幻想的な空間を演出しており、レイル・ファンのみならず多くの乗客がこの風景に魅了されていました。まさにこれからの季節だからこそ楽しめる停車時間ではないでしょうか。
日没が早い秋から冬にかけては、鉄道を乗るにも撮るにも活動時間が狭められるように感じてしまいがちですが、今回は鉄道の「夜の楽しみ方」を覚えたような気がしました。過ごしやすい秋の季節、夜の雰囲気に酔いしれながら新津までのレトロ風情溢れる旅路に出向いてみてはいかがでしょうか。