text:鉄道ホビダス編集部
日本国内では数多くの鉄道車両が活躍しており、それぞれの車両には固有の形式が付けられています。JRグループの車両では各会社ごとになるべく重複しない数字を使うような傾向が見られますが、基本的には別会社ということもり、稀に同じ数字を持つ系式が登場したりします(例:JR北海道721系・JR東日本E721系など それぞれの車両に関連性はない)。
そんな中で、同じJR東日本の中でも「E991」という数字を持った形式を名乗る車両は何故かいくつか存在します。違う会社ならともかく、同じ会社でなぜこうなってしまったのか、詳しく見ていきましょう。
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■最初に「E991」を名乗った車両とは?
▲在来線車両における究極の技術開発を目的に製造されたE991系「TRY-Z」ちなみに交直両用だったが、JR化後の車両では珍しい交流50/60Hz両対応となっていた。
‘95.10 中央本線 青柳 P:長谷川武利
(消えた車両写真館より)
最初にE991と名乗ったのは1994年にデビューした試験車で、「TRY-Z」の愛称で呼ばれたE991系です。この車両は「21世紀の理想的な鉄道システムの実現」を掲げ、在来線における究極の技術開発を目的に製造された電車です。その車両の見た目はそれまでの在来線の車両とはかけ離れた形状をしており、新幹線のような流線型フォルムと低い車体が特徴的です。各種試験をこなし1999年に廃車。現存しない同車ですが、そもそもとしてこの「E991」にはどういう意味が込められているのでしょうか?
まず「E」は1993年にデビューしたE351系以降、JR東日本が製造する車両には統一して付けられている記号で、Eastの頭文字を取ったものです。百の位の「9」は試作車とする場合が多く、十の位の「9」は事業用・試験車両に割り当てられ、一の位の「1」は単純に車種の区別をするために付けられています。
「TRY-Z」として登場したE991系はこういった意味を込めて系式が付けられており、実際に試験車としてさまざまなデータを集めたほか、営業列車に供されることは新製から廃車まで一度もなく、あくまで試験という事業用に限った使われ方をしました。
■その後色々登場した「E991」たち
「TRY-Z」の廃車後、2000年にE501系ベースの車体が輸送されているのを各地で目撃されます。その車番部分にはなんと「E991」系列と取れる数字が記されていました。
「まさかTRY-Zの生まれ変わりか!?」とも思われるかもしれませんが、これはJR東日本の研修施設で使用するための「機械」扱いの車両。よって車籍はなく、E991系を名乗る車両が本線上に復活したというわけではありませんでした。
‘06.10.19 東急車輛製造横浜製作所 P:RM
ですがその後2003年にまた新たな「E991」が登場します。それがキヤE991形「NEトレイン」です。もちろんこちらは機械扱いの車両ではなく車籍を有した鉄道車両。また、形式の数字の通り試験車となります。
当然TRY-Zとは異なり、こちらは鉄道車両におけるハイブリッド車を試験するために作られた車両。純粋な「電車」として製造されたTRY-Zとは全く違う車両で、車両形式の頭にも「キヤ」が付き、別の形式として製造されています。要するに同じなのは数字だけということになるのです。ちなみにキヤの「キ」は気動車、「ヤ」は事業用を意味します。
▲E995系へ改造された後の「NEトレイン」の姿。蓄電池駆動車への改造時にパンタグラフが増設されている。
‘10.3.17 東北本線 宇都宮―雀宮 P:岡田雄太郎
(鉄道投稿情報局より)
この「NEトレイン」は2003年から2007年にかけてシリーズ式ハイブリッド気動車の試験を行ない一旦は廃車となります。その後2008年に燃料電池車に改造され「電車」の区分けとなり、形式も「E995系」と改めた上で2009年には蓄電池駆動電車に再び改造。車籍も新製車扱いで2010年に復活し、愛称も「NEトレイン スマート電池くん」となり試験を続けました。
このキヤE991形とE995系の試験結果を反映してハイブリッド車であるキハE200形や、蓄電池電車EV-E301系などその技術は次々と実用化されていきました。
■さらなる未来を見据えて今を走る「E991」
’22.2.18 鎌倉車両センター中原支所 P:RM
実は現在でも「E991」という形式を名乗る車両が活躍しています。それが「FV-E991系」です。「HYBARI(ひばり)」の愛称を持つこのFV-E991系は、2022年に製造された試験車で、水素燃料電池と蓄電池を電源とする新しいハイブリッド電車として生まれました。この車両は、現在JR東日本が長期環境目標として掲げている「ゼロカーボン・チャレンジ2050」のうち、「水素エネルギー活用の拡大」を実現すべく製造されました。
FV-E991系は水素を燃料としており、空気中の酸素と化学反応により電力を生み出します。この過程で発生するのは水だけで、ディーゼルエンジンのようにC02を排出しないことから非常にクリーンな動力源と言えます。
2号車の屋上に燃料となる水素貯蔵ユニットを搭載しており、これを同じく2号車に搭載されている燃料電池装置に送り込み電力を発生。そこからは燃料電池で発電された電力を使い、電車同様の仕組みで動きます。また、1号車には大容量の蓄電池を搭載し、ブレーキ時にモーターから発生した電力を充電し、力行時その電力を再活用することでさらなる省エネルギー化を実現しています。
先に紹介したE995系(元・キヤE991形)「NEトレイン」で試された燃料電池車を、より実用化に向けて発展させた車両とも言え、試験車の系式を持ちながら実際の営業車のような内装を備えている点も注目されます。
さて、今回はE991という形式を持った車両たちを紹介してきましたが、先述の通りこの数字自体に営業車に供することがない事業用の純然たる試験車、という意味合いがあることから、電車、ハイブリッド気動車、燃料電池ハイブリッド車と、試験する車両の種類が変わる度に「991」という数字が割り当てられることが多いのでしょう。
研修機械は除き、他の車籍を持って落成した車両たちに同じく言えるのは、全て革新的な技術開発を目的で製造された車両であるという点。これからを担う新しい時代の鉄道車両を見据えて生まれてきた車両たちあってこその今の鉄道、と言えるのではないでしょうか。
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