text:鉄道ホビダス編集部
ビードレスでフラットなステンレス車体、黒を基調に周りを白く縁取られたFRP製の前面、GTOサイリスタを採用したVVVFインバータより発せられる特徴的な加減速音…。そんな今までに類を見ない新しい通勤電車の姿に未来を感じた諸氏は多いのではないでしょうか?
次世代通勤型の試作車として1992年に登場した901系。その量産車である209系が、京浜東北線で営業運転を開始してから今日でちょうど30年を迎えます。209系の登場から現在、そして同車がその後に与えた影響とはどういったものだったのでしょうか?
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■京浜東北線で産声を上げた209系
▲30年前の2月、デビュー直後の209系0番代。当然ながらサハ208形の登場前で、6ドアステッカーのない前面廻りがとても初々しく思える。
’93.2.18 浦和電車区 P:RM
(台車近影より)
JR化後、京浜東北線は205系が少数投入されてはいたものの、国鉄時代に製造された103系が未だに主力として活躍していました。これら旧型車を置き換える新世代電車の姿を模索するべく、1992年に試作車901系が導入されました。
それまでの鉄道車両は置き換えサイクルを伸ばしてコストを抑えるといった考えから、30年程と長期間の使用を前提とするのが常識でした。ですがこの901系は、車両の寿命を更新せずに使用した場合、13年という減価償却期間を念頭に12〜3年と設定。その時点で廃車としても企業の会計的に問題ない設計としました。当然ながらそこで車両の寿命が尽きるわけではなく、更新さえすれば使い続けることができるようにしており、一定時期に更新をする計画を最初から組み込むことで、車両設備の陳腐化というものも避ける狙いがありました。さらに徹底した車体の軽量化に加え、省エネ化・大量製造によるコスト削減が図られました。この「重量半分・価格半分・寿命半分」をコンセプトに901系と、のちに続いて行く209系は設計・製造されました。
901系は3編成が製造され、比較検討用に車両の仕様をそれぞれ細かく変えていました。この901系での結果を踏まえた上で、1993年1月28日に量産型となる209系が落成。現在に続く片手ワンハンドルマスコンやVVVFインバータ制御の採用など多くの新基軸を採用して同年2月15日から暫定的に運用入りをしました。
京浜東北線では1993年から1997年にかけて209系の大量増備が行なわれ、1998年には103系が引退。南武線にも0番代2本が導入されました。209系初期の製造は東急車輛と川崎重工が担当しましたが、車両の製造方法から細かい仕様といった部分はそれぞれのメーカーに一任されました。そのため、車体では妻面のビードの有無から側面窓枠の角のアールの違い、屋上ランボードの端の処理の仕方から内装の細かい部分に至るまで、一見同じように見えてメーカー・製造時期により形態差は数多く存在し、この系式のレイル・ファン的魅力の一つと言っていいでしょう。
また増備途中から6ドア車であるサハ208形を導入した関係で編成組み換えが発生。製造時期の違う車両が混結した編成も数多く存在したほか、後年では換気性能を上げるために窓の開閉化をした改造に加え、ドアの誤開扉といった事故を防ぐ目的でホーム検知器が先頭車前面下部に取り付けられたりと、形態のバリエーションは時期によって多岐に亘りました。
■各地で活躍した派生番台・系式
その後も209系の派生番代や派生系式が首都圏の各地に導入されていきます。209系では八高線電化開業時に導入された3000番代。長らく直流直巻電動機を採用した車両のみが運行されていた中央・総武線に登場し、拡幅車体を採用した500番代と、後にE231系へと続いていく950番代。常磐緩行線・地下鉄千代田線直通の輸送力を上げるために2編成が導入された1000番代と、マイナーチェンジや路線の事情に合わせた車両が数多く登場しました。
また、209系の派生系列としては、横須賀・総武快速線系統に導入された4ドア近郊型のE217系や、常磐線取手以北初の通勤型電車であるE501系、地方のローカル線の輸送力改善に貢献した701系やE127系、JR以外でもりんかい線開業時に導入された70-000形など、同車をベースにした209系ファミリーは90年代半ば頃から広がっていきました。JR東日本では、これら209系から発展した自社車両を「新系列電車」と呼び、国鉄由来の設計となる従来車両と明確に区別をしました。
■後継車・他社車両にまで及んだ設計思想
そしてこの209系の設計思想は改良が加えられながらも後継車に脈々と受け継がれています。まずは209系に続く第2世代の車両として1999年にE231系がデビュー。この車両から「一般型電車」の呼び名を用いて通勤型・近郊型と系式を分けるのではなく、共通した設計の元それぞれ通勤タイプ・近郊タイプと作り分ける方式に変更されました。
2006年にはE231系をさらに発展させたE233系がデビュー。機器の二重系統化により故障に強い車両とし、サービス面でも乗客の声に応えた同車は中央快速線を皮切りに、現在まで3000両を超える大量増備がなされ、その数は国鉄時代に大量製造された103系の3447両に迫る数です。
そして2023年現在では、次世代車両制御システムである「INTEROS」を搭載した最新一般型電車であるE235系が山手線に投入されたほか、横須賀・総武快速線ではE217系の老朽置き換えを目的に導入が続けられています。
209系を嚆矢とする設計思想はその後E231・E233系を経て、通勤型電車の標準設計としてJR東日本の車両のみならず各私鉄にも普及していきました。特に、E231・E233系をベースとした車両は各私鉄に導入され、E231系ベースの車両では東急電鉄の5000系列やその派生系列、都営10-300形、相鉄10000系、また関西圏でも南海8000系などが該当し、E233系ベースでも小田急4000形、都営10-300形(3次車以降)、相鉄11000系、相鉄12000系と、数多く存在します。
■一時代を築いた209系の現在
▲その後京浜東北線209系の一部は房総地区へ転用。113系と211系を置き換えた。
‘10.8.21 武蔵野線 東川口 P:矢羽田竜麻
(鉄道投稿情報局より)
今も進化を続けながら各地で活躍するJR東日本の新系列電車たちですが、その先駆けとなった209系は現在、更新工事などを受けながら今も現役で多数が活躍を続けています。当初、「重量半分・価格半分・寿命半分」と掲げられ、製造後十数年で寿命を迎えてしまうと思われがちだった同車ですが、先述の通り、これは大規模な更新工事を受けずに使用した場合の寿命であり、更新さえすれば従来同様に使い続けることが可能でした。現実にもその通りとなっており、京浜東北線に2007年からE233系1000番代が導入されて以降、209系は廃車は発生したものの、一部は房総地区へ更新工事の上転属。2000・2100番代(ドアエンジンの違いによる区分。2000番代が空気式、2100番代が電気式)として現在でも活躍を続けています。
現在では0番代は消滅したものの、0番代由来は2000・2100番代と、「B.B .BASE」に改造された元南武線の2200番台、さらに30年選手となった1次車 元ウラ2編成の「MUE-Train」が残存しているほか、伊豆急行に209系2100番代を改造した3000系電車が2022年にデビューしています。また、車籍はありませんが、各車両センターの訓練用機械として元209系0番代の車両が活用されています。
500番代は中央・総武線、京浜東北線、京葉線、武蔵野線と路線を転々とした車両が多く存在します。現在では中央・総武線と京浜東北線からは撤退し、武蔵野線8両11本と京葉線に10両1本が在籍しています。また、500番代由来の八高・川越線用3500番代が4両5本在籍して活躍中です。
そして、オリジナルとなる三菱電機製GTOサイリスタVVVFインバータを搭載した最後の209系である1000番代は、現在中央快速線系統で10両2本が活躍をしています。これは中央快速・青梅線のE233系0番代に、グリーン車を導入する計画の準備工事で予備車が足りなくなる関係により、常磐緩行線からE233系2000番代に置き換えられ転属してきたもの。あくまでグリーン車導入完了までの予備編成確保という意味合いによるものなのか、転属の際機器更新は省略され、現在でも209系登場当時に近いインバータ音を聴くことができる貴重な車両となっています。
一時代を築いた209系の多くがローカル線区に活躍の場を移し、10両貫通編成を組成するのは京葉線用500番代1本と中央快速線用1000番代2本の3本のみとなってしまいました。ですが、観光列車への改造や私鉄への譲渡など、デビューから30年が経った現在においても活躍の場は広がっており、まだまだ元気に走る姿を見ることができそうです。そして試験車である「MUE-Train」は、今も次なる車両の開発のために日々試験が繰り返されています。
▲現役209系最古参となる試験車「MUE-Train」。種車は元京浜東北線0番代のウラ2編成で、すでに現役30年を超えている。
’20.12.23 中央本線 鳥沢~猿橋 P:前田明彦
(鉄道投稿情報局より)
過去から現在、そして未来に多大なる影響を与えた209系電車。ふと懐かしく思って京浜東北線の0番代の写真を見返しても、30年の古さは感じないという方は少なくないのではないでしょうか。そこには未来を見据えた洗練されたデザインと設計思想があったように思えます。
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