鉄道ホビダス

いとしのヴェラ。

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▲使われなくなった線路にも小さな春が…。カメラ自体の破天荒さとは裏腹に正調テッサーの切れ味は恐ろしいほど。'97.4.12 秩父鉄道影森(WERRA Ⅰ Tessar 50㎜F2.8 RDPⅡ)
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ヴェラ(WERRA)というカメラをご存知でしょうか。世界でも最高峰のレンズ・メーカーとして知られるカール・ツァイスのカメラです。カール・ツァイスは1846年創立。コンタックスで知られ一時は世界最大のカメラ・メーカーであったツァイス・イコン社を傘下に持つ光学機器メーカーです。

090315n031テッサ-をはじめ、その発展形であるゾナー、そしてプラナーと数々の「名玉」を送り出してきたカール・ツァイスですが、カメラそのものの生産はツァイス・イコンに委ねており、自らがカメラ本体の生産に乗り出すことはありませんでした。ところが例外中の例外、カール・ツァイス自体が生み出したカメラが今回ご紹介するヴェラ(WERRA)です。
▲モスグリーンのグッタペルカのわがヴェラⅠ。レンズカバー兼用のフードを装着した状態。
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隆盛を誇ったカール・ツァイスも敗戦とともに東西ドイツに分割されます。本拠地・イエナに残りソ連の影響下に置かれたのがカール・ツァイス・イエナ、そして西側主導のもとオーバーコッヘンに新設されたのがツァイス・オプトン社でした。両者ともに主力レンズであったテッサーを生産しますが、西側生産分は今ひとつ評価が低く、“オプトン・テッサ-”と通称されることになります。

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▲鏡胴基部のリングを時計回りに回転させるとフィルムの巻き上げとシャターチャージが同時に行われる。世にも不思議なシステム。

一方、東独が威信を賭けた半官半民企業カール・ツァイス・イエナ製のテッサ-はますますその名声を高めることとなります。詳しい経緯は知りませんが、1950年代、そんなカール・ツァイス・イエナが自ら製造したカメラがヴェラだったのです。

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▲アルミダイキャストのボディーは恐ろしいほどシンプルな外観。軍艦部上面にはシャッターボタン、背面には小さなファインダー窓があるのみ。
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アルミダイキャスト製のボディーにはビスひとつなく、モスグリーンのグッタペルカとあいまってつるっとした実に妙な外観です。さらに極め付きはそのフィルム巻き上げ方法。鏡胴基部にある同色のグッタペルカが貼られたリングを90度ほど回すと、巻き上げとシャッターチャージが一度に行われるという奇妙な方式です。さらにギミックはこれにとどまりません。このリングの内ネジに合わせてお椀のようなレンズカバーが用意されており、このレンズカバーを逆さにフィルターネジに取り付けるとフードに早がわりするのです。

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▲ヴェラⅠは距離計を持たないためピントは目測、もしくは単体距離計を用いることになるが、今となってはその手間がかえって新鮮。テッサーの解像力は卓越しているが(左)、全体的にコントラストは高く、ボケ味は少々大味(右)。'97.4.12 秩父鉄道三峰口(WERRA Ⅰ Tessar 50㎜F2.8 RDPⅡ)
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このヴェラ、透視ファインダーのみのⅠ型から単独露出計付きのⅡ型、距離計連動式でレンズ交換も可能となったⅢ型…等々と進化してゆきますが、リング回転式の巻き上げと奇妙なお椀型のレンズカバー兼フード、そして正調テッサ-・レンズは踏襲されてゆきます。

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▲フード兼用のレンズカバーもヴェラならではのギミック。フードを逆さにしてねじ込むとレンズカバーとなるが、やはりねじ込み式のキャップを外すと雨天時の防水撮影が可能。
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▲距離計を持たないとはいえ、遠景ともなればパンフォーカスで気軽に撮影が可能。あいかわらずコントラストは高めながらシャープネスは見事。'97.4.12 秩父鉄道親鼻?上長瀞(WERRA Ⅰ Tessar 50㎜F2.8 RDPⅡ)
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十数年前に手に入れたのはもっともプレーンなⅠ型。モスグリーンの意匠とイエナ製のテッサ-・レンズにひかれて購入したものですが、試写してみて改めて驚かされたのは正調テッサ-の切れの良さです。もともと鉄道写真にはテッサ-系の容赦ない解像度がうってつけと、それまでにもシュナイダーのクセナー(アーカイブ「いまさらながらの二眼レフ」参照)やフォクトレンダーのカラースコパー(アーカイブ「ポケットの中の“1億画素”」参照)などを愛用してきましたが、このヴェラのテッサ-の切れ味には脱帽でした。

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▲イエナの銘が正調ツァイスの証。テッサーは3群4枚というシンプルなレンズ構成もあってか、経年変化も少ないようだ。

おもちゃカメラのようなひょうきんな外観と盛りだくさんなギミック、そのわりに有無を言わせぬテッサーの描写力と、このところとんと出番はなくなってしまったものの、いまもってヴェラは手放し難いカメラのひとつです。

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