鉄道ホビダス

「説明書」と「明細図」。

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▲国鉄工作局や車両設計事務所作製の「説明書」や「明細図」の数々。中央に見えるのは国鉄車両設計事務所(旅客車)編集の「24系特急形客車説明書(25形式)」で、奥付によると1974(昭和49)年2月の編纂。

近年ますます“手ごわく”なってきているのが「取扱説明書」の類です。パソコンはもとより、カメラから携帯電話にいたるまで、とにかく見ただけでうんざりするような「取扱説明書」が付いてきます。しかも、えてして中身は“宇宙語”の百花繚乱。結局ほとんど開くことなくトライ&エラーで使い始めてしまうことになります。

setumeisyo2n.jpg一方、公共交通機関たる鉄道車輌の場合はそうはゆきません。新形式が営業運転に入るまでにその取り扱いを周知徹底し、さらにその後のトラブルシューティングのために、膨大なページ数の「説明書」が作成され、さらに該当形式のありとあらゆるパーツの生産図面を網羅した「明細図」がペアとして関係の向きに配布されます。一般的に目にする機会はないこの「説明書」と「明細図」ですが、古くから国鉄車輌研究には欠かせない資料として最重要視されてきました。
▲こちらはあのDMH17形(17H・17H-G)ディーゼルエンジンの「明細図」(1962年6月)。すべての部品図を収録しているためえらい厚さとなっている。革製の綴じ紐にご注目。
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▲臨時車両設計事務所(動力車)編集の「DD53形式液体式ディーゼル機関車説明書」(左/1965年1月)と工作局編集の「DD11形液圧式ディーゼル機関車説明書」(右/1954年9月)。昭和20年代のDD11の説明書は無味乾燥な装丁だが、DD53の方は車体塗色をあしらったなかなかおしゃれな表紙。

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▲「DD11形液圧式ディーゼル機関車説明書」の一部。左は「機関車の始動」から始まる運転方法説明ページ、右はDD11最大の特徴であったプラネタリーギア(遊星歯車)変速機の組立図。
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ただ、いったいどの形式の「説明書」「明細図」が作製され、どの形式が作製されていないのかは、今もって全容が解明されていない点もあります。たとえば趣味的には当然独立した説明書や明細図集がありそうな形式でも、基幹形式の派生、もしくは設計変更と捉えられて「追補」されるのみに終わってしまっているものも存在するようです。これはD52の改造機であるC62の本格的総組立図(LA図面)がついにおこされることなく終わったのと、一脈通じるところがあるかもしれません。

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▲「明細図」だけあって、とにかくありとあらゆるものが図面化されている。というか、どんなささいな部品であろうと図面がなければ生産することができない。これはその一例で、オールドファンには懐かしい陶器製の「便所標記板」図面。1938(昭和13)年の作図。
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それにしても「明細図」を見ていると、かつての工作局(車両設計事務所)の奮闘ぶりがいまさらながらに偲ばれます。“便洗”だけでも複数の専門設計者が在籍していたと伝えられる国鉄車輌設計部門は、アウトソーシングが極端に進んだ昨今では想像さえできないほど、多くの技術者が日々図面と格闘していました。「明細図」からは、今日のCAD図面からは見えてこない、そんな設計者の情熱も垣間見ることができます。