鉄道ホビダス

一度かぎりの“インフラレッド”。

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▲九州には珍しいトレッスル橋の立野橋梁をゆくC12 208〔熊〕。赤外効果で背後の山並みもくっきりと浮かび上がって見える。'72.8.19 高森線立野?長陽
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オートフォーカスはもとより、デジタル全盛となってしまった今となってはその存在さえ忘れられてしまっていますが、かつて銀塩カメラのレンズには「赤外指標」と呼ばれるRマーク(被写界深度目盛上の点)が小さく刻まれていました。赤外フィルム(インフラレッド・フィルム)を使う際のピント補正指標で、いまさら思えば99%の人が一生使うこともないであろう赤外フィルムのための指標がほとんどのレンズについていたのも不思議ではあります。

sekigai3n.jpg赤外フィルムはもともと軍事、医学、鑑識等の目的で生まれたフィルムで、可視光線域に感光性をもつ一般のパンクロマチック・フィルムより感光性を長波長域にシフトさせた特殊フィルムです。青空や赤外線を吸収する水面などは黒く、雲や陽光を浴びた緑葉などは極端に白く描写します。擬似夜景効果と呼ばれるもので、山岳写真などではこの効果を逆手にとって使われることも少なくありませんでした。撮影には濃い赤色のRフィルターが必要で、なおかつ、赤外線は可視光線より屈折率が小さいために合焦点がファインダー像より後方にずれてしまうことから、ピントを合わせてからいちいちさきほどの赤外指標に補正する手間がかかります。まぁ、よほどの作画意図でもない限り一般には縁遠いフィルムということができるでしょう。
▲同じく立野橋梁をゆくC12の高森線上り列車。さながらコピーフィルムのようにコントラストは極めて強い。'72.8.19 高森線立野?長陽
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なにを血迷ったのかそんな赤外フィルムに興味を持ち、わざわざRフィルターまで購入して試用したのは今から35年も前のことです。しかもいくらでも撮り直しのきく地元の鉄道ならいざ知らず、よりによって豊肥本線立野のスイッチバックやら高森線の立野橋梁やらのいわば“晴れ舞台”で使ってしまったのですから、若気の至りと申しましょうか、われながら良い度胸です。

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▲有名なスイッチバックを推進で登る69680〔熊〕。こうやって見ると擬似夜景効果がよくわかる。現在でも業務用としては植生調査や水資源調査のための航空写真などに広く活用されているという。'72.8.19 豊肥本線立野?赤水
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結果はここにご覧に入れるような、とりあえずはそれなりの擬似夜景効果を得ることはできましたが、一度見たらもう充分…キワモノ的印象は免れません。結局、二度と再びインフラレッドに手を出すことはありませんでした。

sekigai4n.jpgところで、当時でさえコンシューマ向け赤外フィルムはコダックとコニカが細々と生産していた程度で、しかも新緑を前にした需要期の春先、一年に一度生産されるだけという状態でした。モノクロフィルムでさえ種類が限定されつつある現在、それでは赤外フィルムはまだ手に入るのかと調べてみたら、なんとこの春から正規輸入が始まったローライモノクロフィルムのラインナップのなかにインフラレッドがしっかりとありました。フィルターなしでISO400までの高感度に対応する高解像度フィルムだそうで、36枚撮り10本パックで希望小売価格18,500円也。さすがにもう一度使ってみる勇気はありませんが、赤外指標もないAFレンズ機でいったいどうやって使うのか、ちょっと興味はあります。
▲かつては各種の赤外フィルムが市販されていた。コニカ赤外750(左)とコダックハイスピードインフラレッド(右)。

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