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岩井町営軌道跡を訪ねる。(下)

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『停車場一覧』によれば、山陰線岩美駅の開業は1910(明治43)年6月10日。かの余部橋梁が完成する2年前、鳥取?香住間が「山陰西線」として延伸工事中のことです。今でも木造駅舎の好ましい佇まいを残すこの岩美駅の東側から岩井町営軌道が出ていたはずですが、予想通り駅周辺に軌道を彷彿させる遺構は何ひとつ見出すことはできませんでした。
▲岩井温泉駅に停車中の日本鉄道事業製12人乗自動機客車と同じく12人乗客車。開業間もない頃の撮影で、右下に写っているのは荒金鉱山への軌道。安保彰夫提供(『岩井温泉誌』1927年より)

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▲岩井温泉駅の全景。ホームにはなにやら車輌の影が見えるが、残念ながら判別はできない。関田克孝提供(絵葉書より)
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▲上の絵葉書とほぼ同地点から定点観測を試みた。背後の山の稜線から駅本屋の位置を同定できよう。'06.6.16

軌道は蒲生川沿いの道路端を岩井温泉めざして進んでいたはずですが、道路を併用した多くの軌道がそうであるように、今やまったく痕跡は残されておらず、軌道跡と思しき道は、ささやかな案内板に導かれてあっという間に岩井温泉街へと入っていってしまいました。結局何の遺構も見出すことができず終わってしまうのかと落胆したものの、意外なところで「岩井軌道」の文字を発見。温泉街中央に位置する公共温泉施設前に建てられた軌道を顕彰する看板です。

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▲岩井温泉口のバス停前に位置する岩井温泉駅跡地は空き地と駐車場となってしまっている。木々に囲まれた空き地にはなにやらかつての構造物の遺構らしきものも…。'06.6.16

休止が1944(昭和19)年(手続きのミスから正式な書類上の廃止は1964=昭和39年)と60年以上も前だけに、町の人も軌道の存在は誰一人覚えていないのでは…と思っていたのですが、さにあらず。3人ほどの方に声を掛けてみたのですが、どなたも駅はあそこにあって、線路はここで…と親切に説明してくださいました。もちろん年齢的に軌道を同時代体験したはずのない皆さんです。下に掲げた顕彰看板に見られるように、岩井の人々は“おらが町”の町営(昭和元年までは村営)軌道を今でも誇りに思い、かつ懐かしんでもいるようでした。

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所管する内務省土木局第28回統計年報所収の「昭和元年現在開業軌道営業状況」によれば、岩井村営軌道の営業収入は乗車賃金11,617円、貨物賃金4,457円、雑収入537円の合計18,611円。対する営業支出は保存費2,238円、動力費7,315円、運輸費3,398円、その他総係費238円の合計13,189円。差引営業純益金は5,422円と開業初年に見事に黒字を計上しています。旅客収入が貨物収入の倍以上にのぼっていることからも、当初はかなりの旅客需要があったのでしょう。この辺の事情を、公設浴場前に設けられた件の案内看板は以下のように記述しています。
▲「岩井軌道」を顕彰する案内板より。色彩はともかく、日本鉄道事業製のガソリンカーがそこそこ忠実に描かれている。'06.6.16

iwaigenkyou5.jpgおよし道路と岩井軌道
明治四十三年(1910)に岩美駅が開設されましたが、岩井温泉へ行くには新井を迂回しなければなりませんでした。岩井温泉木島屋の女将およしは、岩美駅と高山を結ぶ直線道路の建設を鉄道院総裁に直訴し明治四十五年(1912)、開通に至りました。これを、通称「およし道路」と今でも呼んでいます。
 このおよし道路を大正九年(1920)に拡幅、その片側に岩美駅から岩井までレールを敷設し、岩井軌道が大正十五年(1926)に開通しました。岩井軌道は、荒金鉱山から出る鉱石や、次から次と訪れる京阪神からの入湯客を運んで大変賑わいました。旅館十数軒、料亭も栄えて県内の旅館宿泊者の半分までもが岩井温泉の客でした。
 しかし、昭和九年(1934)の岩井大火とその後の第二次世界大戦下で軌道の維持が困難となり、また鉱石の運搬も減ってきて、昭和十九年(1944)、ついに岩井軌道は廃止となりました。

▲岩井温泉駅から荒金鉱山へと続いていた軌道跡。現在でも一部は判然と辿ることができる。'06.6.16

開業から休止までわずか19年。3.4kmのミニ町営軌道の痕跡を訪ねる小さな旅は、さしたる収穫もないままあっという間に終わってしまいました。しかしそれでも、町の人々のこの“町営軌道”を記憶に留め、語り継いでゆこうという思いだけはしっかりと感じとることができました。

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▲手元にあった岩井村向けの日本鉄道事業「拾弐人乗自動機客車組立全図」は湿式コピーが災いしてほとんど高松塚古墳の壁画状態。
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