鉄道ホビダス

アイルランドに欧州最大のナローゲージ網を訪ねる。(1)

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第一回:まずはロンドン近郊を巡る。
Bord na Mona=ボード・ナ・モナ、ケルト語の社名を持つ半官半民のピート会社がアイルランド中部に網の目のように敷きめぐらしたナローゲージ網は実に延長1500キロにも及び、ヨーロッパ最大のインダストリアル・ナローゲージですが、日本はもとより隣国イギリスでさえその存在はほとんど知られていません。インターネットを経由して断片的に蒐集してきた情報は想像をかき立て、3年ほど前の秋、意を決して単身アイルランドへと向かいました。この正月はその際の見聞録をお届けすることにしましょう。
▲この旅の目的地のひとつ、アイルランド中部・レンズボウラァ発電所のヤードに並んだボード・ナ・モナの機関車たち。'02.10.22

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ピート(peat)とは単純に日本語に約せば“泥炭”のことですが、日本の石炭層に見られるものとは質的にも量的にも大きく異なり、コケ(moss)が堆積・炭化したピート・フィールドは、チョコレート・ムース状の底なしの泥濘として見渡す限りに広がっています。かく言う私も目の当たりにするまでは実感として掴めなかったのですが、その規模たるや想像を絶するまさに“泥濘の海”です。
▲『英国のピート・モス鉄道』と題したコピー本はモスレー・レイルウェイ・トラストの発行。英国内に存在したピート鉄道の全路線と機関車をリストにした80頁ほどの資料集。

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このピートは暖房用や火力発電所の燃料用として用いられるほか、ウイスキー、ことにスコッチ・ウイスキーには欠くことのできない薫り付けの材料となっています。それだけにイギリス国内にも数えきれないほど多くのピート工場があり、これまた数えきれないほど多くのインダストリアル・ナローが活躍してきました。残念ながら現在では稼働しているのは数箇所となってしまったようですが、それでも今もって軌道が用いられているのは、ピート・フィールドの地盤があまりに軟弱で、トラックが直接乗り入れられないことによるものと思われます。
▲ロンドンの高速外環状線M25号線を運転する。都市部だけにジャンクションが多く、ちょっと間違えるととんでもない方向へ行ってしまう。'02.10.20

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さて、成田から空路ヒースロー空港に到着したのは10月19日の夕刻。そのままトランジットしてアイルランドへ向かう手もありますが、なにせ大嫌いな飛行機に12時間以上も閉じ込められていたとあってはとてもそんな気にはなりません。あらかじめ空港近くのホテルを予約していたので、レンタカーを借りてまずはホテルへ。ホテル内のパブでお約束のぬるいビールを飲みつつ、翌日の行程を算段することにします。
▲バーゼルドゥン・ブリックワークス(Bursledon Brickworks)でのハンプシャー・ナローゲージ・ソサエティーによる公開運転。何のことはないこのシンプレックス製GLが300mほどの区間を行ったり来たりするだけで、はるばる来た身にしてみればちょっとがっかり。'02.10.20

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翌20日は19時10分ヒースロー発ダブリン行きの飛行機を押さえてありますから、それまでには空港に戻ってレンタカーを返却せねばなりません。ということはあまり遠出はできず、ロンドン近郊の保存鉄道を訪ねるのが関の山です。そこでかねてより一度行ってみたいと思っていたウエスト・サセックス州にあるアンバレー・ワーキング・ミュージアム(Amberley Working Museum)を訪ねてみることにしました。ヒースローからは距離にして100マイル程度、無難な距離です。
▲ブラスト音を響かせて走る「蒸気トラック」(左)。これ以外にも何台かが“有火”状態だった。右は煉瓦工場の参加型イベント。ちなみにBursledonの発音は実に難しく、案内窓口のおばさんに何度も発音してもらったが正確なところはよく判らない。バーゼルドゥンに近いか…。

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8時過ぎにホテルを出発、行きがけの駄賃と言っては失礼ですが、ハンプシャー・ナローゲージ・ソサエティーが公開運転をしているのを思い出し、まずはそちらに向かうことにしました。ロンドンを大きく取り巻く高速外環状線M25号線から南西方向サザンプトンへと伸びる高速M3号線へ。サウザンプトンから今度は海沿いを東へと向かう高速M27号線で“ポーツマス方面へと向かいます。公開運転場はバーゼルドゥン・ブリックワークス(Bursledon Brickworks)という煉瓦工場らしいのですが、これが判らない。とにかく高速を降りたものの、一般道はまさにイギリスの田舎道で、観光名所ならともかく、煉瓦工場を探そうというのですから一筋縄ではゆきません。

探しあぐねること30分あまり、ようやく見つけたのは変哲のない分岐路に立てられた小さな手書き看板「OPEN DAY→」でした。やれやれと指し示す方向に車を向けると、彼方から何やら巨大なトラックが、しかも煙を吐きながらやってくるではありませんか。「えっ」と思う間もなくすれ違ったのは「蒸気トラック」! ハンプシャー・ナローゲージ・ソサエティーの公開イベントだとばかり思っていたこのイベント、実は蒸気自動車や蒸気トラクターの保存団体との共催イベントだったのです。それにしても蒸気トラックがナンバーを付けて公道を走れてしまう英国の懐の深さ、さすがです。
▲「蒸気トラック」の製造銘板を見てびっくり。センチネル(Sentinel)はバーチカル・ボイラー+チェーン駆動の蒸気機関車メーカーとして知られている。このトラックも機関車と同じ工場で作られたに違いない。

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