鉄道ホビダス

風車鉄道?

fuusya1a.jpg
鉄道の起源は18世紀後半、馬車用に路上に敷設されたフランジ付きのプレートレール(トラムウェイ)とされ、「標準軌」とされる4フィート8 1/2インチ(1435㎜)も2頭立ての馬がスムースに走れる幅(4フィート8インチ)にスラックの1/2インチを加えたものと伝えられています。つまり最初の“動力”は馬だったわけで、以後、さまざまな動力が応用されてきました。

当然ながら一番手っ取り早い人間を動力とするのが「人車鉄道」で、日本、特に大正期の東日本地域には数多くの“開業”人車軌道が存在したことが知られています。ついで鉄道事業者(?)が目をつけたのは身近な動物です。『トワイライトゾ?ン・マニュアル 5』の特集「どうぶつ鉄道」でもご紹介したように、馬、牛はもとより、犬、つまり「犬車鉄道」や、突拍子もないものとなると富士紡績駿河小山工場のように、飼育している豚を使った「豚車軌道」まで出現する始末。現代であれば動物愛護団体から強烈な指弾を受けかねない破天荒ぶりです。

それでもまさか世の中に存在したとは思わなかったのが“風”を動力とした鉄道、つまり「人車」や「馬車」に倣う言い方をするならば「風車鉄道」です。十年ほど前にルツェルンの鉄道博物館で、イベントとしてウインド・サーフィンを模した「風車鉄道」を目撃したことはありますが、これは単なるお遊び、まさか実用した例はあるわけなかろうと思っていました。
▲ルツェルンの鉄道博物館で体験乗車(?)が大人気だったウインド・レール・サーフィン。'95.10

fuusya3.jpgfuusa2.jpg
ところがところが、風を動力としようと本気で考え、実用化した人がいたのです。しかも日本に! それは、日通の物流博物館で戦前から戦後の揺籃期にかけての貨車移動機の実態を調べていた時のことです。物流専門誌に連載されていた荷役研究所長の回顧録の中に、帆掛け舟よろしく風の力を利用して貨車の構内入換えを行った話が出てくるのです。

要約すると、山陰・松江地方の名家であり、天保年間から飛脚問屋を営んでいた原文運送店の5代目当主・原 文助さんが、1940(昭和15)年頃、請け負っていた松江駅の構内貨車入換えに発案したものだそうで、極めて不鮮明ながら一応写真も掲載されています。地元通運業者に委託されていた駅構内の貨車入換えは、従来人力が頼りで、えらく非効率なものでした。そこで原さんは西風の強い松江の土地柄を逆手にとって、帆掛け舟の原理で貨車を移動しようと考えたのです。貨車に簡易な三角形の帆を掛けて、追い風であれば帆を開き、向かい風であれば帆をたたんで“波切り”の形にして貨車を移動しようというのです。記事によれば「駅と農林省米穀倉庫との間700米の側線」でこの「風車鉄道」方式が実用されていたそうです。

いったいいつ頃までこの世にも奇妙な「風車鉄道」方式が使われていたのかは判りませんが、戦後の「専用線一覧表」によれば、松江駅の「農林省島根食糧事務所倉庫」専用線800mの“作業方法”は「国鉄動車・手押し」とされており、当然ながら“風”の文字は見当たりません。
▲帆掛け舟よろしく風力で貨車を移動する様子。700mの側線とあるが、突風でも吹いたらどうするのだろうか。『荷役と機械』'81年5月号所収「荷役一筋の道」より。

レイル・マガジン

ホビダス・マーケット新着MORE

  • 俺がイル
ネコ・パブリッシングCopyright © 2005-2016 NEKO PUBLISHING CO.,LTD. All right reserved.