鉄道ホビダス

日本工房とマグナム、ふたつの「鉄道写真」。(下)

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さて、今度はマグナムの写真集『JOURS DE FRET』です。B5(フランスですからB判系列のわけはないのですが…)程度の横開きで、表紙はこちらもあえて写真ではなく、カバードホッパーの車体色のエンジをベースに、貨車の車体標記をモチーフとしたタイトルデザインとなかなか凝っています。しかもよくよく見ると、右の小口から左のノドにかけてうっすらとグラデーションのような“ウェザリング”が施されており、造本の妙も流石です。

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撮影はジャン・ゴーミー(JEAN GAUMY)、ハリー・グリエール(HARRY GRUYAERT)の2名によって行なわれています。寡聞にしてこのお二人の業績は詳しくは存じ上げませんが、現在50名を超えるマグナムのメンバー・リストを見ると、正会員、特派員、準会員、寄稿家、候補生と区分があり、このお二人は正会員と紹介されていますから、その力量は推して知るべしでしょう。マグナム東京支社のホームページによれば、ジャン・ゴーミーは1948年生まれのフランス人、フランスの医療制度や刑務所を独自の視点で取材して数々の写真集を上梓しているほか、映画の制作・監督もしており、現在はノルマンディーの漁港に住んで伝統漁法の取材を続けているそうです。一方のハリー・グリエールは1941年生まれのベルギー人。モロッコをはじめアフリカの大地をモチーフとしたカラー撮影を得意とし、同ホームページにはこの写真集『JOURS DE FRET』も代表作として掲載されています。
▲見返しは意表をつく赤一色。日本的感覚では思いもつかないデザインだ。

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全編を通してモノクロとカラーが絶妙なバランスで織り交ぜられていますが、最初の見開きは地吹雪の線路をほとんどモノトーンのカラー、しかも粗粒子ぎみのローキーなカラーで捉えたカットです。あえてこの、どちらかというとネガティブなイメージを植え付けかねない写真を巻頭に据えたところに、単なる企業PR写真集ではない気迫を感じるとともに、恐らくはマグナムを信頼し、全面的に任せたSNCF(フランス国鉄)の度量の広さを思わずにはいられません。
▲トップの見開きと中面の見開きのいくつか。本文は写真のように少し小振りな別丁の色上質紙に刷られて綴じ込まれている。下段は貨車の検修掛の動きをシークエンスで追ったもの。

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ところで、時代の違いもあるでしょうが、このふたつの写真家集団、マグナムと日本工房には決定的な違いがあります。自ら写真家でありながら、写真への意味付け、つまり“編集”に拘るあまり、時として写真家の撮影意図をないがしろにして作品を大胆にトリミングしてしまう名取洋之助率いる日本工房は、その歴史的評価の大きさに比して、多くの写真家との対立を生みました。門下であった土門 拳がついに名取の葬儀にさえ参列することを拒んだのは有名な話です。かたやマグナムは、写真家の意向を無視してむやみに作品をトリミングしたり、意味付けの異なるキャプションをつけられたりすることを防ぎ、写真家の権利と自由を護るために設立された自主運営集団です。つまり両者は同じ理想を追いながらも、180度違う方法論を選択したわけです。そんな背景を考えつつ、改めて日本工房の『JNR 1954』とマグナムの『JOURS DE FRET』、このふたつの鉄道写真集を見返してみると、また別の何かが見えてくるような気がします。
▲ぎょっとする構図はバッファーにグリースを塗布している様子を捉えたもの。流石マグナム!
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▲全編を通して働く人々の姿がドキュメンタリー・チックに描かれている。ただ、どうも戦場の臭いを感じる気がするのはマグナムゆえの先入観か…。

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