鉄道ホビダス

テッドからの贈り物。

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今月はじめにドイツの動態保存蒸気機関車の祭典・プランダンプが開催され、『国鉄時代』担当の山下も休暇を取って馳せ参じました。千載一遇の機会とあって、地元ドイツはもとより、ヨーロッパ各地からファンが集結したわけですが、その中に英国人のテッド(Ted)ことエドワード・タルボット(Edward Talbot)さんもおられました。テッドは数年前まで十年近くにわたって日本で仕事(大学の英語教師など)をしており、もともと彼の地では高名なファンだけに、海外の蒸気機関車に興味を持つ日本人ともずいぶんと親交を深めることとなりました。

そのテッドが“For Natori san”と手書きした近著を山下に託してくれました。『CREWE WORKS Narrow Gauge System』 と題されたA4版変形64頁の本は、イングランド北西部の大ジャンクション・クルーにあった巨大な鉄道工場内で使用されていた18in(457㎜)ゲージの蒸気鉄道についての研究書です。テッドはこのクルー工場のヒストリーを執拗に追っており、今回、ロンドン&ノースウエスタン・レイルウェイ・ソサエティーから出版したこの本は、これまでの著作の中から工場内軌道に関しての部分を抽出してさらに肉付けした内容となっています。
▲クルーはLNWR(ロンドン&ノースウエスタン鉄道)のリバプールとマンチェスターへのジャンクションに位置し、クルー工場はひとことで言えば大宮工場のような存在。広大な敷地内には部品や材料を運搬する超狭軌の軌道が敷き巡らされており、そこで活躍していたのが、全幅2'6"(762mm)のスライスチーズのような超小型蒸機たち。

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それにしてもテッドのバイタリティーにはつくづく頭が下がります。というのも、昔から彼は自分の研究テーマ、撮影対象の蒸気機関車とともに世界を移動してきているからです。「移動」と言っても旅行ではありません。「移住」してしまうのです。もう四半世紀近く前、著名な『Steam in Turkey』(トルコの蒸気機関車)という本を上梓した際は実際にトルコに住んでおり、その後、南アフリカやジンバブエの蒸機を追っていた時は、そちら方面に住んでいたこともあるやに聞いています。日本に住んでいたのも世界の現役蒸気機関車がいよいよ残り少なくなり、最後の牙城である中国に行きやすいというのが本音だったようです。

テッドは徹底した大型蒸機ファンで、その面ではどうも私と相容れません。むこうも判っていますから、顔を合わせると“QJ is the best!”(前進形が一番さ!)などとわざわざ揶揄するようなことを言います。今回も名取は元気にしているか…と尋ねられた山下が、彼はつい先日もライン河の工事現場にこもっていたようだと言うと、“strange man”(変なヤツ!)と伝えてくれと伝言されたそうです。「冷戦」はまだ続いているのです。
▲テッドは1987年にはオックスフォード出版から『A PICTORIAL TRIBUTE TO CREWE WORKS IN THE AGE OF STEAM』と題した豪華本を出している。LNWR時代からLMS(ロンドン・ミッドランド&スコティッシュ鉄道)時代を経てBR(ブリティッシュ鉄道)へいたるクルー工場の歩みが詰まった大冊だ。奥はBRの標準機をまとめたテッドの著書。

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そういいながら彼が凄いのは、大型機関車を製造・修理する工場の関連設備であるとはいえ、この珍奇(それこそstrange)なナロー・システムをここまで調べ上げ、それをきちんと本にまとめてしまう点でしょう。年に数回、英国を中心とした細々としたナロー情報を送ってきてくれますが、大型蒸機しか興味がないようなことを言いながら、実はあちらのナローゲージャーの間でも結構知られた存在のようです。恐るべしテッド、やはり只者ではありません。
▲チャンネル材で自作したカメラ2台ホルダーがトレードマーク。M型ライカとペンタの67を、その重さをものともせず曲芸のように同時にシャッターを切る。テッド、あなたの撮り方もstrangeですよ! '92.11.15 福用

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テッドというと思い出すのが来日して間もない頃、大井川鐵道に案内した時のことです。帰りの新幹線の中で、名物(?)「うなぎパイ」をふるまいました。デリシャスだ…と食べているので、いったい何のパイだか知っている? eel(うなぎ)だよ、と言うと本気で怒りだしてしまいました。英国人が長モノに弱いのか、はたまたテッドがダメなのかは判りませんが、中国東北部の蚕のサナギ、狗(犬)肉、東南アジアの半ば羽化したゆで卵、等々の例を挙げるまでもなく、よその国の人に食べ物をふるまう際は細心の注意を払わねばならないのを痛感した出来事です。
▲「番号が読み取れない写真は鉄道写真ではない」と頑として譲らないのが英国流。レンズも標準レンズ。サンニッパや俯瞰撮影などとんでもない。この時は連れてゆくポジションが線路から離れているのがご不満のよう。最近では天気が悪いとシャッターさえ押さないそうだ。'92.11.15