鉄道ホビダス

12年ぶりのライン河上流工事事務所。(第2回)

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第2回:工事列車は二度国境を越える。
チューリヒから高速をとばすこと2時間あまり、ザンクト・マルグレッテンを過ぎると、それまでひたすら東に向かっていた高速道路はライン河に突き当たり、一転南へと90度向きを変えます。お隣ドイツのアウトバーンと違って120km/hの速度制限があるものの、高速で走るクルマの中からは気づかないでしょうが、川側の防音壁越しに、弓なりに弛んだ電線を持った細い電柱の行列が見えるはずです。まさかこれが「ライン河上流工事事務所」の左岸軌道本線の架線だとは誰も思いもしないでしょう。
▲洋の東西を問わず日の出前には現地入りするのがこの趣味の鉄則。コルバッハ採石場の閉じられた門の前で待つこと一時間、午前6時過ぎになってようやく顔見知りになったシンプレックスの運転手がよたよたのプジョーでやってきた。「グーテン・モルゲン」(おはよう)。煉瓦造りの1線庫の扉が開くと、セル一発、辺りの冷気を震わせてディーゼルエンジンが目覚める。払暁の庫内の灯と顔見知りになった運転手とシンプレックスと自分、この距離感こそがインダストリアル・ナローゲージの魅力にほかならない。'05.9.27

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ドイツ語で表記すると“Die Dienstbahn der Internatoinalen Rheinregulierung”、つまりライン河改修用国際公共事業軌道という名のとおり、軌道はライン河右岸のオーストリア側の堤防上と、左岸のスイス側堤防上にそれぞれ本線が敷設されており、この本線同士は2箇所の橋梁で連結されています。ところが、利根川の右岸と左岸で「県」が違うのとわけが違い、両岸で「国」が違うので一筋縄ではゆきません。ご存知のように現在ヨーロッパはEUに統合への統合が急速に進んでいますが、最近まで国連にも加盟せず“永世中立”を標榜していたスイスは、当然まだEUに加盟していません。つまり両岸の間には今もって歴とした「国境」が立ちはだかっているわけです。
▲路線延長は実に33キロに及ぶ。詳細な線路配置をメモり、ロケーションを把握するには5日間を費やしてやっとだった。手持ちのオーストリア政府国土地理院(?)発行の1:50000地形図は終いには赤ペンの書き込みでご覧の有り様。

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そんな状況の中、こともあろうに午前午後それぞれ3?4往復設定されて定期列車は、右岸オーストリア側にあるコルバッハの採石場を発車して堤防に上がると、すぐに専用橋を渡って左岸のスイス領の堤防に移り、さらに5キロほど進み今度は併用橋を渡って再びオーストリア側の右岸に転じて10キロほど先のボーデン湖の改修現場を目指す、というややこしい経路で運行されているのです。つまり1列車が2度にわたって「国境」を越えるわけで、撮影しようとするこちらもいちいち国境を越えなければなりません。一日10回としても、5日間で50回以上は行き来したでしょうか。短期間にこれだけ“出入国”を繰り返したのは初めての体験です。
▲ボーデン湖に向かう列車を国境上の併用橋で追尾する。画面前方の橋の袂のバーがオーストリア国境。'05.9.28

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とはいえイミグレーション(入管)もかなりいい加減なもので、「コレクションしているのだから」とこちらから強引に詰め寄らない限り、パスポートにイミグレーション・スタンプすら押そうとしません。いちいち面倒なので“train chasing”している旨を何とか理解してもらい、ついには「顔パス」で往来できるようになりました。これはひとつの武勇伝かとひそかにほくそ笑んでいたところ、何と橋によっては夕方になると係員が帰ってしまってフリーパスになる箇所さえあることを発見、今となってはこの「国境」にいったい何の意味があるのでしょうか。
▲国境の併用橋を越える。右端に見えるのがオーストリア側のイミグレーション。もちろん列車はフリーパスで通過してゆくが、もうひとつの専用橋には線路沿いに“密入国”するのを防ぐため途中に鍵の掛かる扉が設けられており、列車はその扉をいちいち開閉施錠して橋を渡る。'05.9.28

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