鉄道ホビダス

写真展「鉄道遺産を旅する」を見る。

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ひさしぶりに心に残る鉄道写真展を見ました。「鉄道の日」の先週14日(金)から始まった斉木 実さんと米屋浩二さんのフォト・エキジビション「鉄道遺産を旅する」です。

2002(平成14)年11月号から今年の10月号まで、まるまる3年間にわたって『旅の手帳』に連載した「ニッポン鉄道遺産を旅する」を基にした写真展ですが、最近では珍しい撮り手の“意思”がはっきり見える写真展に仕上がっています。
▲デジタル全盛の状況下で、シノゴのノッチまでもが妙な臨場感となって見る者を説き伏せる。蛇足ながら、無反射ガラスを用いるなり、会場の照明位置を微調整するなりするともっと見易くなったかもしれない。

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その最大の理由は、何といっても「銀塩一発撮り」による有無を言わせぬ説得力でしょう。決して広いとはいえない会場に展示されたプリント約40枚は、すべてが中判もしくは4×5in判による銀塩モノクロ写真です。

連絡船桟橋から列車チャイムのオルゴール器といったパーツまで、被写体と“正対”した構図が多く、それはタブレットキャリアを肩にした駅長、ホームに並んだ赤帽、さらには鉄道防雪林を前に隊列を組んだ保線区員などポートレートにまで及んでいます。本橋成一さんの作品を連想させもしますが、いわゆる「黒線出し」と呼ばれる画面周囲の黒枠までわずかに出したプリント法とあいまって、この“正対”こそが、より一層鮮明に撮影者の“意思”を体現しているといえます。「黒線出し」にした理由を米屋さんにお伺いすると、写ったもの記録したものすべてを見せたい、遺したいからです、と控えめにおっしゃっておられましたが、そこには「写真家」というよりも「記録者」としての“意思”が垣間見られ、清清しい思いが残りました。
▲会場の斉木さん(左)と米屋さん(右)。いや、良いものを見せていただきました。

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そしてもうひとつ、写真に添えられた短いコメントが絶大な効果を発揮しています。検修掛の一言であったり、車掌の一言であったり、はたまた地元小学校の校歌の一節であったりする短歌のごとき短文が、ここでも撮り手の“意思”を見事に伝えています。編集者の目から見てもそれぞれの言葉の抽出の仕方が実に秀逸で、決して言葉が前に出ずに写真を盛り立てています。伝説的名著『写真の読みかた』(名取洋之助)ではありませんが、写真における「言葉の力」を再認識する思いでした。
▲作品下に貼られた「短冊」の一言が何にもまして写真に力を与えている。通常であれば横書きにしたくなるところを、あえて縦書きにしたところも計算された仕掛けか…。

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何でも今回の出展作品は、お二人でレンタルラボにこもって3日間をかけてプリントしたものだそうで、マルチグレード・ペーパーながら、いわゆるバライタを使い焼き上げたとのこと。おざなりにプロラボ任せにするのではなく、酢酸とハイポの匂いの中で人に見てもらう作品を自らの手で作り上げる…目にはみえないけれど、そんな情念こそが、きっとどこかで写真の力に転換されて見る者に迫ってきているに違いありません。
▲最新刊『ニッポン鉄道遺産を旅する』(交通新聞社刊/1714円+税)も同時に上梓された。こちらは写真集ではなくビジュアル・ムックといった感じの仕上がりだが、かなりの下調べをなされた上での内容だけに本としての完成度は高い。ただし、写真のインパクトはその分減衰されてしまっており、写真展会場で見る説得力が感じられないのは残念。写真を写真集として商業ベースで売る環境と基礎体力がなくなってしまった昨今の紙媒体の不甲斐なさを、同じ出版人として痛感。

写真展「鉄道遺産を旅する」は今週土曜日まで開催されています。鉄道写真を云々しようという向きは、何はともあれまずはご覧になっておくべき写真展でしょう。
会場:アートスペースモーター
住所:東京都中央区入船2?5?9 (地下鉄日比谷線「八丁堀」・有楽町線「新富町」駅下車)
会期:10月22日(土曜日まで) 12:00?20:00(土曜日は17:00まで)
入場無料

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